20話 覗きは犯罪ですよ
タイトル変更中です。
—―――3分後
「うう、よいしょっと」
やっとか。
少女が座り込み状態から解き放たれて立ち上がった。
「そろそろ帰るぞ。荷物は俺が全部持つから。
早くしないとせっかくのブリが腐ってしまう」
少女がよろよろと立ち上がるのを横目で見ながら、
竿などの道具類とアジメバルが入ったバケツを持つ。
もちろんブリもだ。
—―――重い。幸か不幸か、10キロという予想は見事にあたっているらしい。
先ほどまで高く上っていた太陽はもう傾き始めている。
「急がねぇとな」
とは言ったものの、王城に着くまでには
バタンキュー少女とブリの重みで行きの倍以上の時間がかかった。
王城に着くと、すぐさま少女はメイド達に奥へと運ばれて行った。
何とも情けないその後ろ姿を苦笑で見送ると、初日と同じ場所で道具類を洗った。
「やあ。聞いたよ。大きなブリを釣ったんだってね。僕にも見せてくれないかい?」
道具を部屋で干してから魚を持って厨房に向かうと、笑顔のアレクが迎えてくれた。
辺りを見回して見たが、料理人たちはいないようだ。
「おう、これだ。姫様が釣ったんだぞ」
机の上に置いたブリにほぉー、と声を漏らして感心している。
というか仕事は?
「仕事は大丈夫なのか?」
「うーん。そうだね、一時間ぐらいは暇だよ」
そうだ。その言葉を待って居たんだ。
俺の両目が異様な光を放つ。
「そんなアレクに折り入って頼みがあるんだ」
「...嫌な予感がするんだけど気のせいかい?」
「気のせい気のせい。というわけで、アレクにはこいつらを捌くのを手伝ってほしいんだ」
「あー!仕事がまだ残っているんだったッ!いそ、が、ねば...」
腕をがっしりと掴まれたアレクの表情は僅か数舜で落胆一色に染まった。
「あのー、僕は仕事が忙しんだけど、その手を放してくれるかい?」
既に外堀を埋めている俺にその言い訳はは効かない。
腕を掴む力を強くし、満面の笑みを向ける。
「大丈夫。一時間”だけ”だから」
「それを”だけ”とは言わねえよッ!しかも目が笑ってねえよッ!」
—―――1時間後
アレクはなんだかんだ言って協力してくれた。
だからといって、俺は執事に引きづられていくお前を助けたりはしないぞ。
目を潤ませるな。
捨てられたチワワかよ。
良心が痛んでくるじゃないか。
あー、もう分かったよ!
「アレクは俺が捌くのを手伝ってくれてたんだ。少しだけでいいから
休ませてやってくれないか」
「庄司様がそうおっしゃるのならば」
案外簡単に執事は手を放した。引きづられていたアレクの手が地面に
打ちつけられる。バシッ!といい音が鳴った。
俺を睨むな。
流石にそこは管轄外だ。
水を飲んで一服するとアレクは去って行った。
—―――うらやましそうな目でこちらを見つめながら。
俺は手を振った。
アレクは地団太を踏んだ。
さて、アレクには悪いけどつまみ食いしましょうかね。
アジの切り身を手でつかむ。
「うっまーい!」
回転寿司で食べるよりうまい。
まあ、当然か。新鮮さが違うしな。
ブリの刺身は何度も食べたことがあるが、アジはほとんどない。
せいぜい気が向いたときに回転寿司で食べるぐらいだ。
醤油とシャリがあればなあ。
諦めが悪い俺だった。
少女とかアレクにも食べさせてみたいしな。
喜ぶ顔がすぐに思い浮かぶ。
「いいなぁ...」
なるべく自然に振り向くと国王がいた。
厨房の入り口からこちらを覗いている。
さわらぬ国王にたたりなし。
俺は顔を前に戻してもう一切れ食べた。
「うまい!」
「いいなあッ!」
国王が遂に叫んだ。
そろそろ反応してあげないと可哀想だ。
「国王様。どうかされましたか」
「私はそのアジが食べたい」
「どうぞ」
「骨じゃねえかッ!」
今度こそ本当に切り身をあげる。
「うまいッ!」
「素直に言ってくれればすぐに渡したんだすけど」
「気づいてたのかよッ!」
「覗きは犯罪ですよ」
「うるさいわい」
拗ねた国王はアジとブリの切り身を10切れづつ食べて帰った。
本作は回転寿司を批判しているわけではないのであしからず。




