1話 まな板姫様との出会い
光が収まってきたので、目を開けてみると
そこにはきらびやかなドレスを身に付けた
金髪の美少女がいた。
顔から視線を少し下げると、
そこには断崖絶壁が広がっていた。
つまるところのぺったんこである。
文句のつけようのない百八十度だ。
ロリコンなら今の状況だけで二重の意味で
いけるだろうが、巨乳派の俺にそんなものを
見せつけられてもな・・・
どうしよう、「まな板にしようぜ」以外の
感想が出てこない。
まな板(確定)から目を外してあたりを
見渡してみたが、どこからどう見ても西洋の
城の「謁見の間」といった感じだ。
玉座っぽい場所には王冠を被ったおっさんが
いるし、出口には槍を持ったおっさんが2人
いる。これは稀によくある異世界召喚という
ものなのだろうか。
そんなことを考えていると、少女はこちらに
駆け寄り、喜びをあらわにしてこう言った。
「貴方が勇者様ですか?
でしたらどうか我々を助けてください!」
「Oh...」
これはあれだ、何も知らされていない
純粋無垢な王女でうまく言質を取らせて、
魔王討伐するまで奴隷化し、終わったら
『名誉の戦死』として殺すつもりだ。
うん、きっとそうに違いない。(被害妄想)
俺は釣りがしたかっただけなんだが...
現実から目を逸らしていると、
少女が戸惑った様子で聞いてきた。
「すいません、私たちの言葉が解りますか?
おかしいなぁ、自動翻訳機能はついていた
はずなのに...」
丸と星形だけの魔方陣のどこにそんな大層な
機能が埋め込まれてるんだ。
脳内でツッコんでいるだけでは
何も始まらないので、俺は口を開く。
「あーなんだ。俺は勇者なんかじゃないぞー。
ただでさえ俺は釣りを邪魔されて...!?」
そこで俺はあることに気付いた。
釣り道具がすべてなくなっていたのである。
半額九千円で買ったエギングロッドも、
お年玉をすべてつぎ込んで買った
一万二千円のリールも、使い古して
デコボコしている重りも、仕掛けも、
アオイソメもすべてなくなっているのだ。
―――――俺の全財産の半分と、
ともに歩んだ思い出を返せ。
気が付けば俺は少女の肩をつかんでいた。
こちらの都合も考えずに召喚したこいつらに
怒りが湧き上がってくる。
だが、1年ぶりの釣りを邪魔したとはいえ、
釣り道具をもといたところに置いてきたのは
故意ではないはずだ。そう信じたい。
「すまない、少し頭に血が上っていたようだ」
謝罪の言葉とともに肩を離すと、
少女は少しおびえながらも、
「こちらこそすいません、
勝手に呼び出してしまって...」
少女が俺に対する怒りではなく、
申し訳なさ100%で構成された声で謝罪
してきたので、俺の罪悪感メーターは
急上昇する。
まな板にしようぜとか考えていた
過去の俺を殴りたい。
ついでに腹パンもしておこう。
そうすれば奴はきっと笑顔で
右ストレートを放ってくるに違いない。
10秒ほど沈黙が続いたところで、
俺はなけなしの勇気を振り絞って
口を開いた。
「で、呼び出した目的は何なんだ?
それなりの理由があるんだろう?」
「はい、誠に申し訳ないのですが、
魔王を釣っていただけませんか?」
やはり魔王を倒す、か...定番だな。
―――――――――ん?
「すまいない、聞き間違えをしたようだ。
もう一度言ってくれないか?」
少女は入試の面接官並みの安定感で
同じことを繰り返す。僅かに
申し訳なさがアップしている気がする。
「誠に申し訳ないのですが、
魔王を釣っていただけませんか?」
魔王を釣るどぅあって?
なんだ、ここは天国か。
「すまないが、魔王について———丁度いい、
ついでにこの世界のことも詳しく教えて
くれないか?」
「はい、では知っていることを
すべてお話しします。」
少女は真摯な表情で頷いた。
少女の話を要約すると、ここはやはり異世界で、
基本的に平和なため剣はあまり使われないが、
火・水・風・土と召喚の魔法がある。
火・水・風・土は生活にほんの少し役立つ程度
だが、召喚魔法は自分を守ってくれる獣や遠く
にいる人を呼び出したりと色々なことができる。
普通相手側にできる魔方陣は無色透明だが、
俺を呼び出すときは強制(丸の部分)と
自動翻訳機能(星)が付与されていたので、
発光していたようだ。
召喚された国は王国で、
西に皇国、北に帝国がある。
どの国も、一つしかないから単純な名前なの
だそうだ。でも、しばらくは関係ないだろう
と少女は言っていた。
まあ、自惚れるつもりはないが勇者を軽々と
外国に派遣したりはしないだろうしな。
この三国があるところはこの星
で唯一の大陸(名前もそのまんま大陸と呼
ばれている)で、まな板少女は第一王女
(第一とついているが一人っ子)のエリカで、
王冠を被ったおじさんは国王の
ダリムとこちらの名前は割と普通だ。
自己紹介をしてもらったので、
こちらも自己紹介をしておいた。
そしたら様付けで呼ばれた。
様付けは不要だと言ったらさん付け
になった。
話を戻そう。
国王には家臣もそれなりにいるが、
俺が混乱しないようにと、
衛兵の2人を残して人払いしてくれている。
ありがたや。
100人ぐらい密集してたらパニックになって
腹パンしてしまったかもしれない。
ちなみにお金は一番低いものから順に
鉄貨、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白金貨、
ミスリル貨となるそうだ。価値を聞く限り、
鉄貨が1円、銅貨が10円、大銅貨が100円、
銀貨が1000円、金貨が1万円、白金貨が
10万円、ミスリル貨が100万円のように
思える。ミスリルは魔銀とも呼ばれているが、
銀貨と混同しないようにミスリル貨という
呼び方をさせているそうだ。
食料事情については果樹栽培こそして
いるものの、水はけがよすぎて農業は
あまりできない。ここからは歴史も絡むが、
必然的に僅かな野生動物は
狩りつくされ、魚に頼るしかなくなった。
幸い海が広大なのと地球ほど技術が発達して
いなかったため捕り尽すことなく
生活が成り立っていた。
その状態が二百年ほど続いていたが、
ある日突然、魔王と呼ばれる魚が現れた。
魔王は配下の魔闘魚と呼ばれるを魚を
その当時存在した主要な魚の数
(1000匹ほど)を作りだした。
魔闘魚に統率された魚は、
イワシでさえも当時の釣り糸である
大麻糸を見切り、網を突き破った。
そしてこの国は飢饉になり、
人口の3分の1が死んだ。
すぐに魔王討伐隊が組織されたが、
半数以上が帰ってこなかった。
帰って来たものの中でも、片足を失って
いたり、失明していたりした人が
ほとんどだった。
そこで国内の魔術師をすべて集め、
異世界から釣り人を召喚した。
その釣り人は特殊な能力をもっており、
1年で魔王の住処までたどり着き、
3日間の激闘の末魔王を釣り上げた。
その後、魔王は国に持ち帰られ、
国王の家臣が毒見してみたところ、
「死ぬほどウマい」との評価だった。
何故食べようと思ったのかは
依然として不明である。
それに魔王の大きさも相当だったため、
全国民にふるまわれた。
魔王を食べた国民たちは、すぐに全員が
特殊な能力を手に入れた。それは魔法も
統合されて「スキル」と呼ばれるように
なり、そのほとんどが釣りや漁に役立つ
ものだったので、残った魔闘魚も1日に
5匹のペースで捕獲され、その後国は繁
栄した。
しかし、2年前に魔王が復活したため、
国は再び飢饉になった。今回はスキルの
おかげもあってか魔闘魚も少しずつ数を
減らせている。だが、それで捕れるよう
になった魚だけでは国民の消費が追い付
かず、前回と同じように異世界からの召
喚に踏み切った。
ちなみになぜ俺が召喚されたかというと、
あそこの堤防が釣りの平均練度が一番
高かったらしいく、あの場所を通りか
かった人で30歳以下の人が転移される
ように設定しておいたかららしい。
理由はどんなに釣りが上手でも
よぼよぼのおじいちゃんだと
魔王には対応できないからだそうだ。
近いからという理由で通っていた場所に
そんな秘密があったとは...
最後に一番大切なことだが、
地球に戻れるかどうかというのは、
「わからない」らしい。
この時が一番申し訳なさそうな
顔をしていた。
俺としては、別段あちらの世界に
未練もないし、釣りばかり出来る
なら寧ろ大歓迎だ。
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