旅、始まる
物語の始まりなんてものはいつも唐突である。
異世界に飛ばされてしまったり、突然勇者に指名されたりする昔話を聞いた事は何度もある。
だから自分が旅に出るのも致し方ないことだ。
「ってそんなわけありますかああああああああああああああああああ!」
王都へと続く長い長い道。その道の真ん中で、一人の青年が絶叫した。
青い青い空へ吸い込まれていくその声は、悲痛に満ち溢れている。
「耳元で叫ばないでよ神父様!」
青年の近くにいた少女が声を荒げる。
肩まで伸ばした黒い髪、白い肌、大きい目ととことん整った容姿の美少女だ。
対して彼女の怒号を一身に受ける青年。神父と呼ばれた彼は祭服を身に纏っている。
男にしては長い銀色の髪の毛、彫りの深い碧眼が特徴な彼もまた、容姿は十分整っていた。
「す、すみませんマリィさん……ですが、今の自分の境遇を思うと……」
「そんな神父様に着いて来てあげてる私とエリスのことも考えてよね!」
そう言ってマリィと呼ばれた少女は彼女の腰ほどの位置に頭がある少女を指差した。
マリィの指を握り、薄く微笑むその少女は道を歩けば十人中九人は振り向くであろう美しい金の髪の毛と、紅い瞳を持っていた。
あんたも何か言ってやりなさいというマリィの言葉に頷き、金髪の童女――エリス――は口を開いた。
「わたしは、しんぷさまといっしょがいいです」
眩い笑顔を見せるエリス。その姿を見て、神父は目頭が熱くなった気がした。
やはりこの娘は、私の唯一の癒しです……。
「ありがとうエリス……その言葉だけで私は頑張れますよ」
「ロリコン」
「失礼ですよマリィさん!?」
ぎゃあぎゃあ喚く神父とマリィ。
それを静かに見つめるエリス。
三人の旅はまだまだ始まったばかり……