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アメリカ人とビッグフット

「トオル、アメリカでびっぐふっとが目撃されたらしいぞ? ほらほら!」


 例のごとく俺のデスクチェアに座り、テレビを見ながら「こっち来て!」、と手だけでジェスチャーするリュツィ。俺はそれを食器洗いしながら見やり、洗うのを中断し手を拭いてから居間に移動した。そしてニュースに目をやると、確かにビッグフットみたいな何かが画像として放送されているのを確認した。画像は夜のようで、ビッグフットらしきものは暗視装置を通して撮られているらしく、白く発光した姿で写っている。


「トオル、びっぐふっとってなんだ? ふっとがびっぐなのか? ふっとがびっぐってどういうことだ?」


「そうだな。確かに足はビッグだ。でもビッグフットは未確認動物でな、つまりいるかどうかはっきりしてない動物なんだ。だからこのビッグフットはおそらく偽物だと思う」


「ふーん……」


 ニュースの取り上げ方からしてそうだ。科学的な根拠が説明されているわけではなく、アナウンサーや放送の雰囲気もコメディタッチな気がする。


 続けて見ていると、テレビの映像が録画されたビデオを流し始める。どうやら中西部の市警察が危険動物の目撃情報を確認するため、カメラを設置したらしい。


 最初はコヨーテが映り、次はアライグマ。その次はビニール袋を全身にかぶったような人型の異形。しかしそれには全く触れることなく映像は続く。そこでなんとなく確信を得た。サンタクロースが映り、次いでビニール袋を持った……なんだろう、ゴミ拾いでもしている人だろうか、が登場し、なぜか弓矢を持った歩行器で歩く人が姿を現し、最後に大取り、ビッグフットもどきが出現した。


「ふむ。これがビッグフットですか。……ん? どうやらビッグフットが一匹増えたようですが……?」


 テーブルの前に正座しているアリスがにわかに疑問を浮かべる。その通り、ビッグフットは二、匹……? 二体に増えていた。どういうわけか、意思疎通をして楽しそうにさえ見える。見たところ二体は心の友、と呼べる間柄のようだ。ゴリラならウホッ、ウホッ! といったところか。


 そして、これで最後かと思っていたらビッグフットの女性バージョン? らしきものまで出てきた。もう何が何だかわからない。


「なんか楽しそうだな、あの三匹……」


 とリュツィが感慨深げに言っていると、画像は終わり、アナウンサーがしゃべり始める。


 報道によると、危険動物は確認されなかったようだ。しかし、市警はカメラに写っていた一部の野生動物の特定を試みているらしい。そこでふっと笑ってしまった。そして、画像に映った「みな」に対して、感謝を述べた。「コヨーテや狐やアライグマの画像を何枚も見なければならないと思っていた我々を、大いに楽しませてくれました」、と。「カメラに気づいてくださった皆さん、ありがとうございました。あなた方の頑張りとユーモアセンスには感服です」、とも。署長はこれらの出来事を、『とても愉快な』事件だと語ったそうだ。


 ニュース番組が別の事柄を報道し始めると、リュツィは難しそうな表情をしていた。


「つまり……どういうことなんだ……?」


「どうやらビッグフットたちのパーティだったようですね。どんな種族にもお祭りはあるということがわかり、ためになりました」


 確信を得た、というどことなく自慢げな表情でそんなことを言うアリスさん。違いますねえ。大いに違いますアリスさん。思い込みで納得しないでほしいです、あとで誤解を解くのが大変なので。


「ユーモアだよ、ユーモア。つまりジョークだ。冗談なんだよ、あれは。カメラが設置されてるのを知った住民が、やり過ぎなくらいふざけただけなんだ。だからそれに対して警察が、退屈な時間を楽しませてくれた住民に感謝して褒めたんだよ」


「そういうことですか。納得がいきました。私の推測は少し当てが外れていたようですね。残念……」


 少しどころじゃないですアリスさん。連続三振、試合終了くらいの勢いで外れてましたよ。なんのパーティーですかなんの。


「そっかあ。そういうことかあ。つまり警察と住民の仲がいいってことだな。……ん? 合ってるか? トオル?」


 腕を組んで聞いてくるリュツィ。まあ、間違ってはいない。間違っては。真理は突いてると思う。


「大体合ってる。大体な」


「そっか! わたしの読みもなかなかだな!」


 仲がいいかどうかはともかくとして、住民のユーモアと警察の寛大さには脱帽ものだ。日本なら多分、迷惑行為として疎まれるはずだ。


 やはり、アメリカ人のユーモアと心の寛さは神懸かっている。


 アメリカ人マジ神ってるね。

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