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不完全

「なあトオルー、ジコって何で起きるんだー? 起きないように万全を期してるんだろー? なら起きるのはおかしいよなー?」


 疑念に満ちた、得心がいかないという表情でリュツィは聞いてくる。その金色の目は好奇心というよりも、理不尽さにシンパシーを抱いているように見える。


 俺はテレビの事故の放送をちらと見てから言った。


「万全にしてるようでも、万全じゃないってことさ。何せ人の手によるものだからな。完全じゃない人間が作るものなんだから、完全じゃないものが出来上がるのは当然ってわけだ」


 食器洗いをこなしながらご高説を並べ立てる。そう、人は完全じゃない。今、俺が洗っている皿を取り落として割ってしまうことがあり得るように、事故というのは、規模の大小あれ起きてしまうものなのだ。


「でもひどくないか? 事故に遭った人たちは何も悪いことはしてないんだろ? なのに突然けがしたり死んじゃうなんて、あんまりじゃないか?」


 あどけない言い方で心が締め付けられることを言うリュツィ。彼女の言い分はもっともだ。この世界はあまりに厳しい現実を突然突き付けてくる。まるで見えない誰かに陥れられているかのように。


「どうしようもないことです。この世界では」


 アリスが瞑目して言う。俺はリュツィに対し、


「そうだな。リュツィの言うとおりあんまりだ。それにひどい。でもな、この世界はそういう風にできてるから仕方のないことなんだよ、残念なことにな。人間と同じで、この世界も完全じゃないってことさ」


 不完全な世界で不完全な人間が生きる。それはなんと儚くて救いのないことなのだろう。しかし僥倖と言うべきか、完全に救いがないわけではない。救いはある、少なくとも。幸せはある、目に見えないところにひっそりと。それは不完全であるが故に存在する。完全では得られないものだ。だから人間はそれを何物にも代えがたいものとして心の一部とし、周りの人間に分け合う、分かち合う。悲劇でさえそれを分かち合い、互いに癒やすことができる。それが人間だ、人間の強さだ。しかしそれでも、青天の霹靂のごとく落とされた悲劇はあまりにも身に余るものだ。


「何か私たちにできることってないのか? 離れてる私たちにも」


 黙祷。あとは、願わくば残された人が、傷ついた人たちが、どれだけ時間がかかろうとも、どうかもう一度立ち上がることができますように。そう祈ること、あとは募金活動などあればそれに参加するくらいか。


「今すぐにできることは、黙祷することくらいかな。目をつむって、不幸に見舞われた人たちに祈りを捧げるんだ」


「そうか……。じゃあやろう、今。どれくらいするんだ? もくとうは」


「普通は一分、かな」


「よし、じゃあ今からな、はい」


 リュツィに続いてアリスが目を閉じたのを見て、俺もそれに倣った。



 どうかこの祈りが、届きますように。

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