絶望少女と乙女話
「アメリア、相談がある……」
それは一つの相談から始まりました。
輝くような金色の髪の毛、空の果てまで見通すような蒼色の瞳、筋肉が程よくつきすらっとしたモデルのような体系。
イケメン爆ぜろと思うような兄がベッドで寝ている私の元にやってきて挨拶もしないで相談を持ち掛けてきた。
「アル兄様、相談とは?」
挨拶がなかったのを突っ込もうかと思ったが面倒だったのでそう切り返した。
相談については聞きたくはないが、聞かなければ何を思われるかわからないので聞くしかない……いやだけど弟と同じ目にはあいたくないのだ。
「好きな人ができたのだ、"アレ"ではない。学び舎で出会った優しくとても素晴らしい女性なのだ」
何を言っているのだろうかこの兄は、前後の文章から"アレ"というのは予想はできる。
確かに兄は婚約者、リーゼアリア姉様のことは好きではなかった。
それでも親同士が決めた婚約であり、兄も姉様もお互いのことを認めていて将来を約束していたはずだ。
「アル兄様、詳しく話を聞かせてもらえますか?」
とりあえずもう何か色々とアレだったので話の続きを促し、兄から詳しく内容を聞くことにした。
纏めるとこんな感じだった。
初めて人を好きになった、どうしてもその人と付き合いたい、でもその人には王子を始め自分を含めた有名な上級貴族級5人が好意を持っており誰が彼女の心を射止めるか勝負中とのこと。
どこの乙女ゲーかと突っ込みをいれたかったけど我慢しその後の話も聞き続けた。
彼女は平民であり、付き合うにしても問題がある……まあ、その問題はどこかの貴族に養子縁組を組んでもらい解決できるだろうということ。
彼女は5人全員に平等で特定の誰かと仲良くしているわけではないこと。
まあ、要するに彼女を自分に振り向かせたいので何かいい方法はないのかということだった。
私は恋愛ものや様々な本を読んでいるために何か参考になる案があるのではないかということらしい。
「なるほど、で……リーゼアリア姉様との婚約はどうされるのですか?」
「あんな奴だとは思わなかった。アメリアに優しくしていたとは言えあんなことをするような……"悪魔"のような奴とは一緒になれない」
その言葉を聞いた私は怒りに震えそうになるがそれを抑え込み…………。
「それも詳しく聞いていいでしょうか?」
と聞いてみるとどうやらリーゼアリア姉様はこの兄が好きだったらしく嫉妬をして彼女……クレスをいじめていたらしい、現場も見たので間違いないとのこと。
それでもリーゼアリア姉様に恩がある私としては個人的に兄を許せないし、家……公爵家の長女としても兄を許すことはできない。
ここではない世界のことを知っている私としては百歩譲って平民である彼女が上級貴族級や王子と身分違いの恋をしてもいいだろうとは思う、こちらの世界にもそういった話は本でも現実でもあったりはする。
ただ、特定の誰かを作らずに周りに侍らしているのは本でもいない、平民なら尚更だろう。
そしてあることが気になり私は兄に尋ねた、ここの確認は必須だ。
「兄様、では上手くその人を振り向かせた場合、この家に招くことになるでしょう。兄様に会うためにこの家に何度も訪れることもあります。私や家族に挨拶もするでしょう」
事実姉様は何度も訪ねてきた。
「貴族でない彼女は貴族との関わり方を学ぶ必要があるでしょう。そこから結婚されるのなら将来的には貴族としての立ち回り方、貴族として恥じぬ行動をする必要があります。我が公爵家のこと、派閥について、他様々なことをこの家で学ぶことになるでしょう」
兄は私の話を聞き頷く。それを見て私は口を開く。
「そしてこの家に訪れる場合、まず門前の庭師であるを兼ねているユリウスに会い、話をして中に入ることになります。そして何度か訪れる内に誰にでも優しく平等な彼女はユリウスとも仲良くなるでしょう」
それにゆっくりと頷く兄の表情はそんな彼女の優しさを私に認められてうれしいのか喜色が見え隠れする。
「ああ、お前ともすぐ仲良くなれるだろう」
誰が仲良くなるか……男を侍らしている女などろくな女じゃない。
そう思いながらも顔に出すような愚は犯さない、何が原因で弟のようになるかわからないからだ。
「貴族について学ぶことは平民の彼女にとって辛いことでしょう。平民のような雰囲気を持ち、使用人からも人気があり相談されやすいユリウスにそのことを彼女が相談することも将来的にあるかもしれません」
ユリウスは庭師としても門番としても優秀で最低限の礼儀はあり、長らくローズ公爵家の派閥であるトリファー男爵家の三男坊であるためそのような態度を取っていてもここで働くことができるらしい。
私にとっても気安く話せる彼はある程度心の癒しにはなっている。
ユリウスは相談されやすい体質なのだろうかそれとも人の好さがにじみ出ているのだろうか彼は内の使用人の中でも人気がある。
まあ、そんなことは置いておく。
「貴族の勉強がいやになり平民であることを望むかもしれません、人が良く優しいユリウスはそんな彼女を助けたい……彼女は貴族ではなく平民として生きていきたい、そうなれば二人は……」
「黙れ! アメリア! 彼女はそんな人じゃない」
途中で割り込み怒声をあげる兄に驚き口を止める……が、これは言わなければならないので興奮している兄に告げる。
「心が弱まれば、何かに縋りたがるのが人間です。きっとアル兄様には相談できない、それはアル兄様にもわかるでしょう?」
そう、彼女が優しいのなら貴族になるための勉強が辛いなど兄には言えないはずだ。
兄のためにする必要があるのにしたくないなんて言えない。
最も彼女が貴族の勉強が辛いかどうかなんて私にはわからないことだし、しないといけないのかと言われれば愛人になるなら必要はないし回避する手段もあるだろうがあえてそのことは言わない。
更に言うならば本当に優しいのか疑わしいということもある、彼女が天然でクズなのか悪女なのかまだわからないのだ。
うっというような表情の兄様に更に告げる。
「で、アル兄様と付き合うのをやめてユリウスと生きたいと彼女が望んだらどうするのですか? 優しい彼女のためにアル兄様はあきらめるのですか?」
「諦めるわけないだろう! ユリウスに諦めるように言うか仕事を辞めさせる、それでもダメなら当主となった場合に男爵家との繋がりを切ると脅してもいい」
兄から感じたことのない激情が私を打つ、だが……それがどうしたというのだ。
それと同じ思いを今姉様はしているのだろう、そのことにすら気付かないこの愚兄は死んだ方がいいと思う。
「脅すですか、とても有効な手段ですね。優しい彼女にはわからないようにするのでしょうが、ばれたとしても優しい彼女はユリウスを守るためにあなたと一緒になるでしょうね」
そう告げると兄は苦い顔をした、ざまあ。
「で、非道な手段を考えたアル兄様? 今アル兄様が訴えた手段、しようとしたことと姉様がその優しい彼女にしたこと。どう思われます?」
多分この時私は笑っていたと思う、姉様のためというよりかはイケメンざまあに近かったんだと思う。
「それは…………」
「つまり、そう言うことですよ。リーゼアリア姉様はアル兄様を取られたくなかった、わかりませんか?」
近づくなと警告、噂を流しいじめた、頬を叩いたのは目撃したらしいが可愛いものだろう。
噂もどんな噂かによるがかなり悪く言われて淫乱とかだろう、男性を複数侍らしていればそう思われても仕方ないと思うけど。
「リーゼアリア姉様をそんなことをする"悪魔"に変えたのはアル兄様ですよ」
悪魔のところでびくっと震える兄を見て嬉しく思う、私のトラウマの一つでありこの兄が原因でもあるからだ。
「婚約者がいる立場にいながらリーゼアリア姉様を遠ざけ、別の女性へ心を傾ける。結果姉様がそんなことをするようになった」
分かりますよね? と口には出さないけど顔を兄の方へ向け理解させる。
「更に言うならそんな風にアル兄様を悪魔へ変えた彼女もまた、悪魔ということになりますね」
「彼女は悪魔なんかじゃない!」
「では続けましょう」
兄の言うことを聞いているように見せて内心は兄の発言をスルーして続きを話す。
「誰にでも平等で優しい彼女、有名な上級貴族級や王子に好かれる彼女。それなのに彼女の周りに他の上級貴族級の方や下級貴族級の方がいないというのはおかしくないでしょうか?」
「どういうことだ」
なぜそれがわからないのか理解に苦しむが恋は盲目ということなのか……。
「彼女がアル兄様達から好かれるのであれば様々な人に好かれるはずです、教養もあり美しい女性達を見ているアル兄様達が惚れるくらいなのですから。そして級があるとはいえ王子と上級貴族級が一人の女性を求め、けん制しあっている……であるのなら身分差なんて関係ないといって割り込む他の上級貴族級の男性や下級貴族級の男性がいてもおかしくはないはずです。それなのにそんな話をアル兄様はしなかった……ということは少なくとも周りにはいない、それが意味することは分かりますか?」
兄はわからないといった顔をする…………なぜここまで話してわからないのか、盲目とは言え馬鹿になりすぎではないかと心配になってきた。
「つまり、彼女がその5人に対してだけ特別に優しいのか……彼女の周りにいる王子や上級貴族級の誰かが近づかないように脅しているのでしょう。平等で優しい彼女が欲しいために権力を使い彼女を手に入れようとする彼ら……」
「なっ……」
絶句する兄、それを見てため息をつく私、この反応を見る限り兄は脅している側ではなさそうだ。
でもさっきユリウスを脅すと言ったのになぜそこで驚くのか不思議でならない。
「さて、改めて言いますよ。前者なら彼女は優しいのではなく狡猾でこの国にとってかなり危険な女性でしょう、未来でこの国を支える若者を骨抜きにする恐ろしさを持っていますので。後者なら彼女は自覚、自覚してないとしても周りの男性を悪魔に変える恐ろしい女性、いえ悪魔でしょう…………アル兄様理解できますか?」
更に畳みかけるように言う。
「誰か一人を選び、付き合うのならまだそうは思わなかったかもしれません。まあこれも婚約者のいない男性に限られますが……それに優しい女性が将来を約束した関係に割り込むのは優しいのですか? お互いが想い合っていないのならまだわかります。片方でも想っているのなら、もう片方も嫌だと思っていないのなら応援するのが優しさではないですか? 多数の女性から想いを寄せられている男性を複数侍らせるのは優しいのですか?」
「それは……」
「兄様、初めて人を好きになり他に目が届いてないのではないですか?」
「……」
「それに婚約者である姉様が人として間違った道を行こうとしているのなら責めるのではなく、なぜ間違った道に行こうとしたのか考え、自身に原因があるのならそれを改善し、相手にだけ原因があるのなら諫め、正しい道へ戻してあげるのが姉様の婚約者であるアル兄様の役目ではないですか? 役目を放棄し婚約者であることを放棄しようとし自身を省みないアル兄様、その優しいかどうかは甚だ疑問の女性ですがそのアル兄様の想っている女性に対して自身が相応しいと思いますか?」
まあ、糞みたいな女性だと私は思いますけどというのは言わないでおく。
「わかった、しっかりとリーゼアリアと話して彼女について一旦身を引いて考えてみるよ」
「婚約者がいるなか他の女性を追いかけたことをまず謝ってくださいね、兄様」
「ああ、自分がどれだけ身勝手なのかわかったよ」
兄は私の元を離れ部屋を出て行った、これからどうなるかはわからない。話し合いの末、姉様の元へ兄が戻ればいいなあとは思う。
その糞みたいな女性を諦めきれず、もしその女性が兄と一緒になった場合は嫁いできても仲良くできないなと思いながら目を瞑り体を休めようとする。
元の世界にはなかった体を巣食う"それ"が強い不快感と倦怠感で私を苛む。
ああ…………こんな世界滅びてしまえばいいのに、不自由な体に生まれてしまった第二の人生を呪いながら私は思い想う……。
初めての小説です。
色々設定はあるのですが、思いついた話をとりあえず書きました。
このお話はなろうによくある乙女ゲーのような話を絶望少女が兄から聞くことになり、彼女の助けになっていたリーゼアリア姉様(悪役令嬢っぽい)を庇うお話です。
こっちの話で続きを書くか彼女のお話を書くか悩み中。