第六話 謎の少年
「トゥルルル! トゥルルル!」
目覚ましが鳴り響く。
「うーんっ!」
少女は目覚ましを停め、カーテンを開ける。
まばゆいくらいの朝日が部屋に注ぎ込まれる。
2階の部屋を出て、階段を降り台所へ向かうと、すでに父が座っており朝食がおかれていた。
こんがり焼けたトースト、ふわっふわのスクランブルエッグに、カリッカリのソーセージ、レタスとトマトのサラダ、グラノーラのかかったヨーグルト。
これが私の家のいつもの朝食。私はトーストにマーガリンを塗り、スクランブルエッグと一緒に頬張る。今日はマーガリンの気分♪
「あれ、おねーちゃんは?」
「もう、とっくに出ていったわよ。
あんたも、ゆっくり食べてると遅刻するわよ。何度も目覚ましなってたんだから!」
母が呆れた顔で答えた。
「はーい。」
学校へは正直行きたくない。どうせ行っても、またいじめられるだけだ。でも、お母さんやお父さんに心配はかけたくない。だから私は今まで一度も学校を休んだ事はない。
「ほら、食べたらさっさと行きなさい!!」
「もぅ、分かってるよー!行ってきまーす。」
はぁ、また今日も学校か…
「おーい岸本!はよっ!」
朝から爽やかな声が聞こえてきた。杉本蓮。全ての元凶。
「…おはよう。」
「ん?どーした?最近元気ないみたいだけど。」
「…なんでもない。」
正直こんな所で話しかけないでほしい。誰に見られるかわかったものじゃない。
「あっれー?杉本くーん。おはよー。どーしたの?」
はぁ…一番見られたくないやつに見られてしまった。
「おー坂梨。はよっ。
いや、岸本が最近元気ないから大丈夫かなーって。」
これまた爽やかに杉本くんが答える。
「えー、そうなのー?だいじょーぶ?優香?」
杏里が何くわぬ顔で聞いてきた。
よく、そんな真顔で思ってもない事を言えるものだ…
「おーい蓮!!」
「あ、呼んでるから行くわ。岸本、何か悩みがあるなら相談しろよ。じゃーな。」
またまた、爽やかな台詞を残し去っていった。
これで鈍い所がなければ完璧なのに…
「じゃーねー。杉本くん!」
杏里が満面の笑みで言った。
―となりから殺気を感じる…
「あんた、ふざけんなよ。杉本くんに何か言ったら分かってるよね?」
さっきとはうって変わった低い声で杏里が言った。
「…」
「坂梨さん。」
その時、男の子が杏里に声をかけてきた。
「ん?逢坂くん?」
またしても、さっきの低い声とはうって変わって高い声になった。
彼は確か今年初めて同じクラスになった逢坂くんだ。逢坂くんは授業中よく寝てるくせに当てられたらすぐに答えられるし、成績もクラスで一番いい。基本的に終始ダルそうに過ごしているようなひとだ。
「坂梨さん、今日日直だから早く行かないと怒られるよ。」
「あ、そーだった。ありがとー!」
杏里はささっと走っていった。
何が日直だ。自分は日直だろうが関係なくギリギリに来て先生に怒られているくせに(笑)
もしかして、助けてくれたのだろうか。
「お、逢坂くん…」
しかし、私が話かけようと思った時にはもうすでにいなくなっていた。
謎だ。謎な人間だ…