第一話 3人の願い
「ほら、はやくしろよ凉香。早くしないと終わっちゃうぞ!」
「はぁっ…はぁ、待ってよぉ。そんなに急がなくても大丈夫だって…」
じめじめと蒸し暑く、真っ暗な山道。月明かりで微かに見える道を頼りに、勢いよくかけていく。周りは静かな虫の鳴き声、微かな風の音、そして少年たちの足音しか聞こえない。
「はぁ…はぁ、着いたー!」
「よし、新、早く願い事!!」
汗だくになりながら息を切らし、頂上にたどり着く。
辺りに広がる一面の銀宇宙。星々が無数に同じ方向へと流れていく。
「わぁーきれーい!!」
一足遅れて少女もやって来る。
「凉香も早く願い事しないと終わっちゃうぞ!」
少女はあわてて手を合わせ、目をつむる。
生まれて初めて見た流星群は、言葉には言い表せないほど神秘的で少年たちは、その光景を忘れないようにと必死に目に焼き付けているようだった―
―「で、結局どんなお願いしたんだよ。」
前髪を綺麗に波打たせている天然パーマの少年が尋ねる。
「おれは、まぁ、今のところはプロ野球選手ってことで」
これまた、対照的にサラサラストレートヘアーの少年が答える。
「私は綺麗なお嫁さんになれますようにって。」
パッチリとした二重まぶたに、ぷっくりとした頬の少女が嬉しそうに答える。
「ふっ、お前らガキだなー笑」
「なんだよ。じゃあ快人は何願ったんだよ?」
快人と呼ばれる天然パーマの少年は後ろから2人の間に入り、肩を組んだ。
「来年、小学校入っても3人一緒に楽しく、仲良くいられますように。ずっと大人になっても一緒にいられますように。ってさ」
しばらく3人は嬉しそうに笑いあった。
「でも、なーんだ。私たちがいないと寂しいんだね。快人くんもガキじゃーん」
凉香が快人をからかうように言った。
「何だとー?ガキって言うほうがガキなんだぞ!」
「先に言ったのは快人くんじゃん!」
2人はいつものごとく、くだらない喧嘩をはじめたのだった―
「ねぇ、そんなことより早く帰らないと、お母さんたちにバレちゃうよ」
2人の喧嘩を呆れて見ていた新が言った。
「やべぇ!早く帰るぞ!」
結局3人はこのあと、こっぴどく親に叱られたのであった。