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ブラックミスト  作者: さい はじめ
第0章 プロローグ
3/3

2

ルーナはそそくさとサーベルボアを血抜きしてソリを作りその上に乗せていた。

途中ソリを引くのを代わったがほとんど前に進まなかった。

ルーナが規格外ということがわかった。代わりに彼女のリュックを背負うが、これもなかなか重たいが、ソリに比べればどうということもない。

「ハッハッハッ!お前は情けないな。」

「…」

「私も10年も前にはソリなど引けなかった!安心しろ!」

ルーナは機嫌よく笑う。心底愉快な奴だ。不思議と癒されるし。とても惹きつけられる魅力がある。

「ルーナは何歳?」

「22だ!」

「年上なのか。力量とかは納得したけど、外見的に納得できないな。」

「そうか。間違っても王都じゃそういう軽口を言わないことだ。間違いなく女の顰蹙を買う。」

「王都?しばらく行かないから大丈夫だ。それよりボアを狩れる人間になりたいから狩りを教えて欲しい。」

「お前みたいな軟弱者ができるのか?現にソリも引けないんだろう?」

「…返す言葉もない。」

まずはソリを引けるようになるまでは鍛えないといけないということか。

「人族は面白いな。まぁちったあマシなツラするようになったことは喜ばしい。あとは腰を落ち着けてから考えろ。他の村人からも打診があるだろう。」

「っぁ!!」

「足でもつったか?キツかったらソリに乗っていいぞ」

「つってない。」

「意地はらなくてもいいだろうに。知らんぞ?」


ーー1時間後。ユキは村が小さく見えたとたんに急激な疲労と脱水、貧血で倒れた。

「バタッ」

「言わんこっちゃない。根性はあるみたいだがな。」

にかっと笑ったルーナにソリに乗せられ村へ運ばれてゆく。

ーーー

「ガラガラ、門兵!」

「ルーナか?おい!ルーナ!ボアの群れの様子見るだけつってたよな!なんで狩ってきた!」

「今日はセルシスが当番だったか。何も無事に帰ってきてるんだ。文句なんかあるまい。それより門を開ける仕事をしろ。」

「王都じゃ持ち込み品の検査も仕事のうちだってんだぜ。んで、この人族はなんなんだ?」

「森に落ちてたから拾ってきただけだが?」

「またか、、王都にいつ捨てに行くんだよ?」

「なんでもここでボアを狩りたいとか言いだしたぞ。」

「おいおい。自殺志願者か?バカなのか?」

「面白いだろう?」

「面白いが、面倒事増えそうでかなわないな。まぁいい。入れ。お疲れさんよ。」

「あい。お疲れさんよ。」

ーー

「ルーナだー!やーい。いきおくれー!」

「ハッハッハッ。ケルン、いきおくれがどういう意味か知ってるのか?」

「んー?離婚?」

「誰が私がいきおくれと言ってたんだ?」

「えー!言っちゃダメだって!セルシウス言ってたんだもん!あっ!」

「そうかい。セルシスは教育がなってないな。」

「これ、ルーナ1人で狩ったの?変なのもいるー?」

「そうだな。変なのは拾っただけだぞ。そうだ。ケルン。ソリ引いていってくれないかい?」

「引く引く!」

ーー

「ルーナ!どうだった?」

「群れの規模は確実に大きくなってる。しばらくはサーベルボアしか狩れないかもしれないな。魔王種が発生してると見た方がいいだろう。」

「今年は騎士団に頼むしかないのかもしれんなぁ。」

「命あってこその村だ。誰も村長の決定に文句は言うまい。」

「しかしのう。辺縁の屋敷のお嬢さんに頼んだ方が誰も傷つかないのではなかろうかな。と」

「人形姫さんは生憎取り合わないんじゃないかい?」

「1度は上手くいったことがどうしても頭から離れなくてなあ」

「上手く行っても今回は規模が規模だから被害が計り知れんよ。まだ、騎士団の方が住民に降りかかる被害を減らせるだろうさ。実績だけなら騎士団の方が回数が多いけどね。」


喰われる恐怖から戻ると命ある幸せを感じられた。

インフルエンザで死ぬかと勘違いするくらいだるく辛いのが、翌日起きたらなくなってるのに似ている。


仰向けになり怪我した方の尻を浮かせて半身になる。

上体を起こす。


左手の窓から風が吹いてきた。


外を見ると三角屋根の住宅が並んで見えた。囲むように塀も見える。

塀の向こうが畑になっていそうだ。

住宅の前を4足で駆ける獣人の子供たちがいた。

家に飛び乗ったり飛び降りたりと器用なものだ。

そして今は大人に怒られているようだ。

鬼ごっこだろうか?だいぶ違うが、懐かしい風景だと感じる。


「気づいたようだね。お客人さん。」


いつの間に近づいたのか。

窓の反対側には優しそうなネコっぽい獣人がいた。

あの乱暴少女よりは拳2つ分くらい背が高そうだ。それでもって、少しばかり、ふくよかな印象を受ける。最たる特徴はメガネと茶色の体毛だろうか。

水で満たされた木の器を差し出してきた。


「飲みな。」

「ありがとうございます」


喉がカラカラなので、それをありがたく頂戴する。


あの乱暴少女はというと部屋の隅で壁に背をつけて立っていた。さっきまでたっていなかったはずだが。


乱暴少女が口を開いた。

「歩けるか。」


「ルル。もうちょっと待ってあげて。」

「村長へ挨拶に行く。準備をしろ。」

「目が覚めたばっかりだよ。あんたのことだから何の説明もなしに連れてきたんだろう。ここで今の状況を少しくらい説明してあげてもいいんじゃないかい。」

「そうか。一応、話そう。私は狩りを生業としているルルと言う。お前は森で拾った。大した装備もしていない、膂力も見たところ少ない若者が森で倒れていた。呑気にずっと眠っておった。どうしたものかと思いつつ、狂人の類と見て、暴れることのないように縄で縛って様子を見ておった。その予想はおおよそ外れてはいなかったと思う。起きたときには精をつけさせようと、昼間に川で釣ったサイラを焼いて食わせたら吐き。しかも、私のローブを汚した。これは何か吐瀉物に仕掛けられたかもしれんと思い、嗅ぎ分けるも危なそうな臭いが無くただ臭かっただけ。汚かっただけ。腹いせも込めて気絶状態を保たせ、村へ連れて行くこととした。朝にをまとめ終えたら、目が覚めたらしいので、また腹いせを込めて気絶させようとしたら、避けた上に大声で怒鳴りよった。おかげでサーベルウルフの群れに囲まれた。餌役を頼んだにもかかわらず、妙な動きをするものだから何か妖術の類でも使うのかと思えば、尻をえぐられる始末。私は思わず笑ってしまったが、そのままにするのはいただけないと思い、一応、人命というものは儚くも尊いから、一応、捨て置くには惜しいと思って、一応、助けた。そして腹いせを込めて気絶させることに成功する。目が覚めぬ間はリリーに診てもらった方が良いと思ってここへ連れてきた。お前の素性は村長の家で聞くことになるだろう。」

ルルは胸を張りながら答えた。相当吐かれたことが気に食わなかったんだろう。だが、あれは事故だ。

「ルルが申し訳ないことをしてすみません。」

茶にゃんこ先生が謝罪を添える。

これに対してフブキは

(本人悪びれてもいないのに謝るなんて茶にゃんこ先生は謝ってくれる。なんて健気なんだ。)

とか思っているのではっきり言ってちょろい。

フブキはいきさつについて一応の納得をして、得意の営業スマイルで返事をする。

「そうだったんですか。命を救ってくださったこと感謝します。本当にありがとうございます。」


無論、なぜ助けようと決めた人間に対して気絶させたのかについては腑に落ちなかったので

(どこかで絶対復讐してやるがな!首洗って待っとけよ。)

と内心思うのであった。だが、


ルルは毅然とした態度で

「当然のことをしたまでだ。」

と言うが内心満更でもないのだろう。照れたように俯いた。


その様子を見て

(あー。復讐する機会ないかもなぁ。)

ころっと考えを歪めてしまうあたり、相変わらずちょろい。


「さて、お客人さん。私はリリー。村の薬師でルルの叔母よ。ルルの言う通り、これから村長のところへ挨拶に行ったほうがいいわね。しばらくは怪我の経過を見なきゃならないから終わったら戻っておいで。」

「フブキです。怪我の治療助かりました。ありがとうございます。また、これからお世話になります。お金がないのですが、治療費など、どうしたらいいでしょうかね?」

「どういたしまして。しばらく歩くのに不便するだろうからそこにある杖を貸しておくわね。金銭についての心配は今はいらない。何らかの形で村に貢献してもらうことになると思う。村の案内はルルに任されるかしら。」

「行くぞ。ゲボ男。」

「……フブキです。何も。魚の生臭さが強すぎただけなんです。元々気分が悪かったのもありますけどね。」

「なに?人族は魚の臭いは嫌うのか…。覚えておこう。」

「いや、まあ?」

ここで訂正するのも面倒なので、濁す。

獣人は血抜きもしない塩も振らない生焼けの川魚を好んで食えるらしい。と心のノートにメモした。


ーー


村の家は全て一階建てのようだ。二階まで作れるような技術もないのだろうか。地震とか起きるんだろうか。ここは日本なのだろうか。気になることはたくさんある。知りたいことが多すぎる。





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