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暴剣娘の傍見的冒険  作者: 軌条
暴剣暴走
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スレイド

 スレイド以下、明星戦士団6名はフェリックスの登場に驚きはしなかったが、その真意を知りたがった。フェリックスは魔剣グリニスのことを話すことにした。あの魔剣がスレイドたちを襲ってくるのなら、どうせ話さずにはいられないことだ。


魂喰グラトニの魔剣――それに囚われた二人の女」


 スレイドが感慨深げに言う。


「よもや山賊ポルの討伐に出向いた地で、その名を聞くことになろうとはな」

「知っているのか?」


 フェリックスは驚いた。スレイドは頷く。


「歩きながら話そう。私がこうして若手の戦士を率いてケナルラで傭兵稼業をしているのも、全ては魂喰グラトニを仕留める為」


 フェリックスは明星戦士団と共にグラント市を出て、山賊たちの死体があった白銀街道の峡谷に向かうことになった。全員が徒歩だったが、一人を除いて魔人トレイターであり、常人の比ではない健脚であった。唯一の人間であるスレイドも、その巨躯のおかげで歩行速度が非常に速く、まるで一行は獣の群れのような機敏さで先を急いだ。


「何か因縁でもあるのか。魂喰グラトニと」

「因縁というより、運命とでも言うべきか……。私の故郷は、魂喰グラトニによって滅ぼされたのだ」


 スレイドが淡々と述べる。


魂喰グラトニは他の魔物の形質エキスを喰らい、無尽蔵に肥大化する性質を持っている。その力は強大であり、一度人肉の味を覚えたら、魔人トレイターを積極的に狙うようになり、加速度的にその凶悪性は増すだろう」

「人肉の味……」

「国を滅ぼすほど巨大化した魂喰グラトニは、早晩餓死する運命にある。当然、周辺のモノを根こそぎ喰らい尽くした後のことになるが、一番の方策は魂喰グラトニを隔離し、その力が衰えるのを待つことだ」


 スレイドによれば、魂喰グラトニは歴史的に国の隆盛と密接に関わってきた魔物であるという。スレイドはふと遠くを見る目になる。


「西方、海を隔てたキルオーム王国、そこで私は生まれ育った。そこで魂喰グラトニの魔物が現れ、多くの人間が食い殺された。ときの王は、魂喰グラトニを辺境に隔離し餓えさせる為、多数の生贄を投入し、かの魔物を僻地に誘導した。その方策は成功し、キルオーム王国は今もなお健在、国を滅ぼすと懼れられた魂喰グラトニをこれ以上ない手際で葬ることに成功した」


 フェリックスは何も言えなかった。スレイドは魂喰グラトニという魔物のことを恨んでいる。そのことは語り口から透けて見える。


「……どうも、俺はいらんことを話してしまったかもしれないな。やはり黙っていたほうが良かったか」

「そうでもない。その魔剣グリニス……。放置するのは危険だ。グリニスという女性だけが囚われている状態だったなら、まだ共存は可能だったかもしれん。だがあの凶悪食人鬼ポルを取り込んだとなれば、事態は急を要する」


 スレイドの目は前だけを見ている。彼の中にある信念の炎はそう簡単に弱めることができないだろう、フェリックスはそれを悟った。


「俺は、まだその魔剣を殺す覚悟が定まっていないのだがな……」

「知り合いならばその心情は理解できる。だが、一つ言っておく。魂喰グラトニは国を滅ぼすぞ。フェリックス殿、覚悟を定められないのなら退くといい。事情があるからといって問答無用で知り合いをも斬ることのできる者のほうが異常だ」


 スレイドの言葉には優しさがこもっている。フェリックスにはそれが新鮮に感じられた。普通、賞金稼ぎなんてしている者は、もっと険しい考え方をするものだ。獲物の生死を問わず凶悪犯を追うような人間は早晩そうなる。他人の心情を慮るような優しい人間に、人殺し稼業なんて務まるはずがない。


 だからこそ、スレイドは魔人トレイター狩りをしているのかもしれない。その形質エキス剥がしの技術を使って、殺さずに賞金を稼ぐ、それが彼のやり方なのか。ただ、彼の冷淡な瞳を見る限り、そんな単純な話でもないだろうという気もした。


「その魔剣は、とある少女を狙っているそうだが……」

「コーラという、グリニスの友人だか肉親だかよく分からんが、とにかくそういう間柄の女がいる。今はラグトの聖騎士たちに庇護してもらっているが」

「それが正解だ。ラグトの聖域には魔人トレイターの力を弱める加護が施されている。魔剣がその少女のことを探していても、その気配を探り当てるのは簡単ではないだろう」


 それなら安心してグリニスを探すことができる。フェリックスはひとまず安堵した。ここでスレイドはじっとフェリックスを見た。


「……なんだ」

「魔剣討伐の折、加勢してくれるならまだいい。しかし貴殿が我々の邪魔をするなら」

「分かってる。容赦しない、とでも言いたいんだろう」

「いや」


 スレイドはかぶりを振った。


「そうではない。覚悟が定まっていないのなら今の内に退いたほうがいいが、しかし本気で我々と相争ってでも魂喰グラトニの味方をし、グリニスを守るというのなら、それならそれで構わない」


 スレイドの言葉に、彼の部下たちもぎょっとした様子だった。

 フェリックスは首を傾げる。


「……どういう意味だ?」

「貴殿と戦うことになっても恨みはしない。皆が己の信念に従い、生き、戦い、そして死ぬ。大勢の人の生き死にを見てきた身としては、命の長短などに大した意味はない。己の信念を貫き、いかに幸福に生きたか。それが重要だ……」


 スレイドはここで小さく笑む。口角を僅かに持ち上げただけの彼の笑みには経験を多く積んだ人間の深みがあった。


「後悔しないように生きろ、と?」

「貴殿のような百戦錬磨には分かり切ったことかもしれないが」

「いや、そうでもないさ」


 フェリックスはまだ悩んでいる。それは確かだ。


「スレイド、あんたは何が何でも魂喰グラトニを殺す。そう決めているんだろう」

「そうだ」

「俺は、そうだな、ポルなら葬り去ってもいいと考えている。だがグリニスと会話できたのは一瞬だけだが、悪いやつではなかった。少々強引なところはあったが」

「そうか」

「だから悩んでいる。ただ、俺もあの魔剣は放置できないと考えていることは確かだ。俺も良い大人だ、清濁併せ呑むだけの度量が欲しいものだが」

「度量、か……。これは私の持論だが、そんなものに個人差はない」

「ほう?」

「自分を誤魔化せるかどうか。それだけだ」


 黙り込んだフェリックスを見たスレイドは続けて、


「そして、自分を誤魔化すのは不幸だ。信念を持ち、それを貫くことが必要だと言ったのは、そういうことだ」

「……なるほど。野暮なことを言ったな」


 フェリックスが言うと、スレイドは肩を竦めた。


「……フェリックス殿、市中で会ったときは魂喰グラトニのことを話してはくれなかったな。しかし今はあっさりと話してくれた。それも一つの覚悟の表れだと思うが?」

「そうだろうか」

「そうだ。魔剣と戦う覚悟、あるいは、我々明星戦士団を相手取って戦う覚悟。そのどちらかは、私には分からないが」

「俺も分からん……。だが、これは勘だが、あんたは俺より強いな」

「そうかね?」

「ああ。どうも隙がない。俺は臆病者なんでね、勝てない相手とは戦わないことにしている。つい最近、死にかけたことだし」

「それは、本当かな?」


 スレイドは面白がる顔をしている。フェリックスは未来の自分が無謀な真似に出ないことを祈った。でないと、死ぬことになる。そんな予感があった。








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