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暴剣娘の傍見的冒険  作者: 軌条
暴剣暴走
28/36

魔剣ポル=グリニス

 一日は安静にしているよう忠言を貰ったが、包帯でぐるぐる巻きになった右腕を動かそうと力を込めると、縫合してもらったばかりなのに指先がぴくりと動いた。指先と言っても、適当につぎはぎしてもらった肉の塊に過ぎず、完全に元通りになるのは時間がかかるだろう。とはいえ義手に頼るような生活になることはなさそうで、ひとまず安堵した。


 コーラを運び入れたという医院に向かった。このままあの少女を放置してもいいかもしれないと思いかけたが、魔剣がもしコーラを追ってここまで来たら厄介なことになる。一応、近くにいたほうがいいだろう。魔剣はポルを捕食した後、姿を晦ましていた。いつ、どこから現れるか分かったものではない。


 医院の入口の前に立ち、受付の人間にどう説明して入れてもらおうか考えていると、扉が開いてコーラがひょっこり顔を出した。


「あ、師匠!」


 コーラがにこりとする。そしてフェリックスの右腕をぎょっとして見る。


「あ……、夢じゃなかったんだ……。師匠の右腕が」

「問題ない、じきに治る」


 フェリックスの言葉にコーラは目を丸くした。


「えっ!? それ、義手じゃないんですか!」

「義手に包帯を巻くかよ。拾い集めて繋ぎ合わせた。死神の形質エキスで俺の肉体はとんでもない治癒能力を得ているからな」

「うっわ、師匠化け物。化け物じゃないですかー」


 そう言うコーラは安堵したように笑っていた。フェリックスはそんな少女の頭を小突く。


「あいてっ」

「それより、お前。来るなと言ったのにどうしてあの場所まで追って来たんだ」

「いや、それは……」

「お前まで死ぬところだったぞ。ポルは相手が女子供だろうと容赦なく殺しただろう」

「でも、師匠……」


 コーラは目をうるうるさせていた。フェリックスは、別にそんな彼女の様子に気後れしたわけではないが、これ以上強く言えなかった。


 なにせ、コーラが魔剣を引っ提げてあの場に現れなければ、フェリックスは死んでいただろう。魔剣グリニスの力がなければ、ポルには絶対に勝てなかった。そういう意味ではコーラの無謀さがフェリックスを救ったことになる。


「いいか、コーラ。二度と俺の言葉をたがえるな。でないとお前を容赦なく衛兵に突き出すからな」

「は、はい……。あの、ポルは倒せたですか?」

「……ああ」

「さすがです、師匠! やっぱり師匠は凄いなあ! あんなに負けそうになってたのに!」

「うむ……」


 コーラは笑顔で捲し立てる。


「私が来たときは死にかけてましたよね! ポルのほうが実力は上だったんですか? でも逆転しちゃうなんて! どうして逆転できたんだろう?」

「ほら、そろそろ行くぞ、コーラ。指名手配書を見た誰かがお前に気付くかも……」

「グリニスちゃんがいないから大丈夫ですよ。あ、グリニスちゃんといえば、どこにいったんだろ?」

「いや、どこか都市の外をうろついてるだろ」

「グリニスちゃんは戦いで役立ちました? 師匠ってば、グリニスちゃんを遣えば誰にも負けないのでは? あー、というか、もしかして、師匠、グリニスちゃんを使ったから逆転できた感じですか?」

「……いや、その」

「そうなんですね、グリニスちゃんを使ったと?」

「……うむ」

「ということは? 私があの場に行かなかったら? 師匠は? し・ん・で・た?」

「……」

「……図星ですか? 的中ですか? コーラちゃんの言う通り?」

「……ああ」


 渋々だったが、認めるしかなかった。コーラはにんまりと笑って、それ以上何も言わなかった。


 しばらく歩いて、門を出てグラント市の外に出たとき、ふうとコーラは息を吐いた。


「いやね、師匠、別にいいんですよ? 私も師匠のこと大事に思ってますし? 師匠はちゃんと病院まで足を向けて、そう、私のこと心配してくれてたんだって分かりましたし? グリニスちゃんだけじゃポルには勝てなかったと思うし? ポルを倒せたのは師匠の実力あってのことだと思いますし?」

「……ああ」

「まあ諸々勘案してね、そう、今回は師匠のお手柄ってことで良いと思いますよ? ね? そうですよね?」

「……いや、だが」

「いや? だが? 何ですか? なになに、何ですか?」

「……お前が来なかったら俺はポルに勝てなかった」

「ですよねー! じゃ、どうして最初私のこと叱ったのかなー? あれあれー、おかしいなー、おかしいよー、うーん」


 コーラがあんまり調子づくので脳天に拳を置くように叩いた。


「あいてっ」

「調子に乗るな。いいか、もしお前が魔剣を自在に操れるんだったらな、あの場で気絶せずに俺と連携して戦うことも可能だったはずだ。最初からお前を戦いの場に連れていくことができていれば、聖騎士の連中も死なずに済んだかもしれない」

「いや、でも」

「お前は未熟なんだ。今回はたまたまうまくいっただけ。それはお前にも自覚があるだろう」

「はい……」

「今回は礼を言っておく。だが、二度と同じようなことをするんじゃない。次こそお前、死ぬぞ。お前が死んだらグリニスがどのように振る舞うか、分かったものじゃない」

「そうですね……」


 ここでコーラは上空を見上げた。


「おかしいな。グリニスちゃん、どこに行ったんだろ。そろそろ顔を見せてもいいはずなのに」

「もう少し都市から離れてから呼べ。この辺だとまだ人目がある」

「はーい」


 二人は、かつてのフェリックスの家があった場所まで移動した。家の残骸がまだ転がっていて、また最初から作り直しか、と少々うんざりした。


 コーラは辺りをきょろきょろと見回している。


「あれ、グリニスちゃん、どこだろう……」

「どうした」

「どこにもいないんです、グリニスちゃん。いつもなら顔くらいは見せるのに」


 コーラは不安そうだった。フェリックスも周囲を見渡した。すると、森の方向の空に、魔剣グリニスがこちらに向かって飛翔しているのが見えた。


「ほら、コーラ。お前は視野が狭いな。あそこにいるぞ。こちらに向かってくる……」


 しかしフェリックスはここで悪寒を覚えた。魔剣グリニスがこちらに向かって飛んでいる、飛んでいるが……。どうも勢いが桁違いだ。


 コーラが「おーいグリニスちゃーん」と手を振っている。少女は何の警戒もしていないようだ。


 しかしフェリックスは胸のざわつきを抑えることができなかった。咄嗟にコーラの隣に立つ。


 魔剣の勢いは弱まることがない。切っ先をこちらに向けて突進してくる。


「おーい、グリニスちゃーん、元気だったー?」

「……危ない!」


 フェリックスはコーラの首根っこを掴んで横に跳んだ。グリニスの切っ先が先ほどまでコーラの首があった位置に一閃した。勢い余って地面を抉りながら一回転し、機敏に方向を変える。


 グラント市で新調していた鉄剣を引き抜き、魔剣グリニスの攻撃を受け止める。魔剣は牙を剥いていた。コーラが口をぱくぱくとさせている。


「ど、どうしちゃったの、グリニスちゃん! らしくないよ!」

「コーラ、下がってろ」

「し、師匠……」

「こいつ、どういうわけだかお前を狙っている。逃げろ」

「で、でも!」

「お前、さっきの俺の言葉を忘れたか! 師匠の言葉に従え! 逃げろと言っているのが聞こえないか!」


 フェリックスの怒声に、コーラはびくりとして、小さく頷いた。そしてトテテテと駆けだしていく。


 魔剣グリニスはフェリックスを振り切り、そのままコーラを追おうとした。だがフェリックスは魔剣の柄を掴むことに成功し、その場にねじ伏せた。


「どういうことだ、グリニス……。お前、コーラを守るのではないのか」


 フェリックスの言葉に、グリニスの刃が明滅する。そのとき魔剣の中から声が聞こえた。


《フェリックスさん……。コーラをよろしく頼みます……》

《殺す……、殺す……! 喰う!》


 声は二つ聞こえてきた。二つとも聞き覚えがあった。


 一つは依然聞いたグリニスのもの。もう一つは……、ポル?


 魔剣がフェリックスの手から逃れた。しかしコーラのほうに向かうわけでもなく、空中で錐揉状態になったり不規則に浮かび上がったり、動きがしっちゃかめっちゃかだった。フェリックスは直感した。


「あの魔剣の中で……、グリニスとポルが戦っているのか?」


 そうだ。そうに違いない。魔剣がポルを捕食し、どういうわけかポルの人格が魔剣に反映されているのだ。確信した。


 魔剣は空高く飛ぶと、コーラが逃げたほうとは反対のほうへ飛び去った。グリニスの意思が勝ったのか。フェリックスはそれを見届けると、素早くコーラのほうへと向かった。


「どうして……。グリニスちゃんが」


 コーラは路傍に手を突き、四つん這いになって泣いていた。


「逃げろと言ったろ。どうしてこんなところで止まってる」

「だって……。だって!」


 コーラは泣いていた。フェリックスに叱られたり、見捨てられそうになったときより、激しく泣いていた。フェリックスはこれ以上何も言えなかった。空を見上げていつあの魔剣が襲ってこないか警戒を続けた。またいずれ魔剣が襲ってくるだろう。そのとき、どう対処すべきか……。フェリックスは悩んでいた。



























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