表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴剣娘の傍見的冒険  作者: 軌条
漆黒の竜精
20/36

山賊討伐

 地を這う羽虫。フェリックスには男がそのように見えた。風の刃の間隙を縫うようにして跳躍し、持っていた剣を投げた。凄まじい速度で迫った剣の刃を男は避けることができず、腹にまともに喰らった。貫通した刃がそのまま地面に突き刺さり、さながら昆虫の剥製のように地面に貼り付けとなった。


 さすが魔人トレイターだけあって、それだけでは致命傷とはならなかったようだった。しかし腹に刺さった剣を抜くだけの力が入らないらしく、無様にもがいている。フェリックスはゆっくりと近づいた。


「何か言い残すことはあるか?」

「な、何者だよ、お兄さん……。ぼ、僕はこれでも、東の槍剣都市でそれなりの成績を残した、闘技屋だったんだけどな……。お兄さんなら天下を取れたかもね……」

「天下? 闘技屋の? お前らの首領もそうだったんだろう」

「もちろん、首領が引退した後の天下って意味さ……。ふふ、首領は強いよ……? お兄さんも、ほら、ちょうど今僕がやられたみたいに、あっけなく死ぬだろうね……」

「それはおっかないな」


 フェリックスは男の腹から剣を引き抜いた。男は血を吐き、ふふふと笑った。


「お兄さん、相当殺しに慣れてるね……? 良いこと教えてあげるよ。山賊団には僕を含めて7人いる……。全員が魔人トレイターで……。全員が元闘技屋……。首領の他に一人、とんでもなく強い人がいる……。きっと、お兄さんも楽しめるよ……。存分に遊んでね……、ふふ……」


 フェリックスは男の首を刎ねた。食人鬼の最期としてはあまりに穏やかな死だったのかもしれない。しかし死にかけの人間をいたぶる趣味がフェリックスにはなかった。


 穴を掘り、そこに男の死体を埋めた。フェリックスはそして、破壊された我が家を眺め、また一から作り直すか、と決めた。ただし山賊はまた襲ってくる可能性がある。建築に勤しむのは山賊どもを討伐してからになるだろう。せっかく建てたのにまた壊されてしまった、というのではさすがにしんどい。


 フェリックスは剣の汚れを引き取ると、グラント市に向かった。コーラが先に向かったが、よくよく考えてみると、フィス以外の衛兵にとってコーラはただの賞金首にしか過ぎない。衛兵全てが賞金首の顔を周知しているとは限らないが、結構危険なことを頼んでしまった。うまくフィスと会えていればいいが、妙な騒ぎを起こしたら一発で牢獄行きなんてこともある。


 と、思っていたら、道中、岩場に腰掛けて休憩しているコーラを発見した。フェリックスが後を追い始めて数分後のことだった。この女、ろくに歩かずずっとこの辺でぼうっとしていたことになる。フェリックスの姿に気付いたコーラは慌てて立ち上がった。


「あうっ、師匠! 師匠じゃないですか! どうしたんです、私が恋しくなっちゃったですか?」

「お前、まだこんなところにいたんだな」

「あ、いえ、さぼってたわけじゃなくて……」

「いや、いい。丁度良い。一緒にグラント市に行くぞ。報告したいことがある」

「報告? ま、まさか、私を突き出すとか……」

「別にそうしてもいいんだが、残念ながら今回はそうじゃない。山賊を見つけたんだ」

「山賊?」


 フェリックスはざっと事情を話した。人食いの山賊団がいること、その山賊の一人がフェリックスを襲ってきたことなど。


「え? また家を壊されちゃったですか? うわあ、師匠、しっかりしてくださいよ……」

「悪かったな。だが、山賊どもは相当に強い。俺がさっき戦ったのは下っ端だったが、たぶんお前とやっても互角以上の戦いを演じただろう。それだけの魔人トレイターだった」

「え。私と互角ってことは、その辺の犬より弱いってことになりますけど」

「……俺が悪かった。グリニスと互角以上、と言いたかったんだ」

「そうですよねー。師匠が剣を教えてくれたら、もうちょっとマシになる気がするんですけどねー。ねー。……ねえぇぇ~!」


 二人はそんなことを話しながらグラント市に向かった。無事に着き、衛兵たちと話をする。コーラの知り合いの衛兵はフィスしかいないので彼に話をするように言いつけたが、フェリックスなら新人以外の衛兵とは顔見知りである。山賊が現れたことを知らせると、血相が変わった。


「山賊が……!?」

「構成員は全てで7名。その内の1名は既に俺が殺した」

「さすがです、フェリックスさん! 上にも知らせてきますね!」


 衛兵たちはしきりにフェリックスを誉めそやした。それがコーラには不満なようで、


「師匠! さっきからにやにやし過ぎです! 私だって、グリニスちゃんだって、その風精シルフの変態野郎と戦ってたら、見事な勝利を収めてたに違いないのにっ!」

「お前、戦いたかったのか?」

「だって、師匠が何も教えてくれないから。実戦の中で学ぶしかないじゃないですかっ!」

「いや、そうかもしれんが、随分と好戦的なんだな、お前」

「グリニスちゃんをしっかり制御することが私にもできれば! こんなみすぼらしい生活を続けなくても済むのに! ああ、夢の都市生活!」


 しかしなんだかんだ言って、コーラとグリニスは上手くやっているように見える。グリニスの腹が減ると暴走して見境なく人を傷つけてしまうようだが、それならきちんと食事管理をして暴れないように世話をすればいいだけのこと。思うに、コーラには注意力が足りない。剣術の腕前よりそちらのほうを磨いたほうが良い気がするが……。


「フェリックス殿」


 呼びかけられ、そちらに顔を向けると、以前見たような顔がそこにあった。甲冑に身を包んだそのいまいち頼りにならなそうな男。


 確か、ラグトの聖騎士隊の切り込み隊長、ディール。ガノクの既婚女性から絶大な人気を誇る、魔人トレイター狩りの男。そう聞いている。


 ディールはフェリックスの前に立つと、深々と一礼した。


「先日は、どうも。まさかあなたがかの高名なフェリックス殿とは知らず、失礼な口を利いてしまいました」

「そうだったか? よく覚えてないが。……それよりお前、俺のことを知っているのか」

「ガノクの戦士であなたのことを知らない者はいないでしょう。あなたがグラント市に群がる魔物の一部を引きつけてくれているおかげで、この都市の安全性が一層向上している。そのように聞き及んでおります」

「いやいや、俺なんかがいなくとも、グラント市は安寧だと思うが」


 ディールは静かに首を振った。そしてちらりとコーラのほうを見る。職務熱心な彼のこと、コーラのことを知っていてもおかしくなかった。しかし彼はそれについては触れようとしなかった。


「例の山賊団と接触なさったそうですね? 一人を討伐したとか……」

「ああ」

「山賊団の首魁ポルは、長年、私が追っている標的なのです。漆黒の竜精セイタンであり、その力は半端な魔人トレイターでは相手にもならない。彼女を追った賞金稼ぎのほとんどが彼女に喰われて絶命しています。一部の悪党どもからはカリスマ的な扱いを受けていますが、彼女の取り巻きは非常に少ない。真の強者しか彼女の仲間として同道することが許されていないからです」

「ほう……」

「村を襲い、人を喰らい、掠奪し、全てを破壊し尽くす。その所業は残虐非道。一日でも長く彼女らを放置することは、この世の平和と安全を損ねることを意味します。一刻も早く、彼女らを征伐しなければならない」


 ディールの言葉には熱がこもる。フェリックスは頷いた。


「まあ、落ち着け。各都市から戦力を出し合って、連中を討伐しに行くのだろう。今からそんなに昂奮していたら躰がもたないぞ」

「いえ。それではあまりに遅過ぎます。ポルは野蛮ではあるが、けして無謀ではない。討伐軍が組織されたと知れば、遠くへ逃れるでしょう」


 ディールの目は使命感で燃えている。それをフェリックスは間近で見てしまった。この男、本気で山賊団を潰滅させようとしている。それも、今すぐにでも走り出してしまいそうな気迫を感じる。


「……どうするつもりだ」

「私一人ではポルには勝てない。しかし、フェリックス殿と一緒なら……」

「馬鹿言え。俺の他に適任はいるだろうし、すぐにでも軍が組織されるっていうのに、どうしてそう功を焦る」

「功を焦る? あなたは私が名声を求めて剣を振るっているとでも?」

「いや……」

「これは使命なのです。力を持つに至った人間の使命です」


 ディールは力説する。フェリックスは頷けるはずがなかった。どうしてここに山賊に襲われたと報せにきたと思っているのか。多勢によって山賊団を潰して貰う為だ。フェリックスが山賊の一人を殺してしまった以上、連中はフェリックスのことをつけ狙うだろう。さすがにフェリックスは山賊の残り6人を一人で相手しようなどとは思っていなかった。


「師匠、ディールさんに協力しましょうよ!」


 コーラがフェリックスの服の袖を引っ張り、言う。


「黙ってろ、クソガキ」


 フェリックスはうんざりした。身の程知らずが。そんなに死にたいのか、この女。フェリックスでもポル率いる山賊団と対峙したら、生き残れるかどうか分からないのに、お前ごときが立ち向かっても連中に喰われるだけ。それが分からないのだろうか。


「フェリックス殿、私は明日の夜明け前に出立致します。私と同道してくださるのなら、門前にてお会い致しましょう。お待ちしております」


 ディールは一礼し、その場を去った。コーラがばいばーいと手を振っていた。フェリックスは嘆息する。行ってたまるか。彼はしばらく都市の中に籠るつもりだった。戦いは嫌いではない、だが自ら進んで死にに行くのは狂人か、正義感に人格を塗り潰された聖人君子だけ。フェリックスはそのどちらでもない。そう思っていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ