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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ぼろきれのようなねこ

作者: 四路 章

 一年前ねこを見た。

 自分の住んでいる学生寮の玄関に、白いねこが居たのだ。

 そのねこに首輪はついていなかったが、撫でても逃げず、とても人に慣れているようだった。 毛並みも、とてもきれいだった。

 自分はそのねこを友達の下宿で飼えないかと思い、そのねこを抱きかかえて移動し始めたが、途中でねこは逃げてしまった。 それ以降そのねこがどこへ行ったか、自分は知らない。

 そんなことはもう記憶の彼方に消え去ったある日、自分は自転車に乗ってコンビニへ向かっていた。

 コンビニで買い物を終え、自転車のかごに荷物を入れ、自転車の鍵をはずそうとしたところで、おい、こら、と声が聞こえた。

 何が起こったのか分からず振り向くと、そのコンビニの店員が、店の入り口の横に座り込んだ真っ白なねこを追い払おうとしているところだった。

 かわいそうだなあ、寒そうだなあ、と、自分はのんきなことを考えながら店を後にした。

 数日後、自分は部活の遠征と学校祭でかかるお金を下ろすために郵便局へ行き、その帰りにコンビニへ立ち寄った。 数日前、ねこが居たコンビニだ。

 自転車を駐車場の隅に止め、自転車の鍵をかけ、ふと目をやると、そこには数日前のねこが居た。

 そのとき自分は、そのねこが一年前のあのねこなのではないか、と思った。

 確証はなく、ただの思い違いかもしれない、いや、おそらくは思い違いだろう。

 そのねこは、うずくまったままピクリとも動かない。

 死んでいるのだろうか、と思い、少しつついてみた。

 まだ暖かかった。

 そのねこはこちらに顔を向けた、生きていたのだ。 しかし、その顔を見て、自分ははっと息を呑んだ。

 そのねこの目は開いていなかったのだ。 何か血のような汁が流れた跡があり、その目は閉じたままだった。

 よく見れば、毛並みももうぼろぼろで、今にも死んでしまいそうな不気味さがあった。 まるで漫画に出てくるゾンビのようだった。

 もしこのねこが、一年前のあのねこだとしたら?

 きれいだった毛並みはぼろぼろで、もう目も開けられず、汚れたぼろきれのようになっているこのねこが、あのきれいな白いねこだったとしたら?

 いやそんなことよりも、今このねこになにかしてあげられることはないだろうか。

 しかし、近くには動物病院がない、どこに動物病院があるかなんて自分は知らない、そもそも連れて行っても、その後どうしようもないじゃないか。 寮でペットは飼えない、自分はこのねこを救っても、その後の責任を取れない。

 結局自分は、そのねこに指一本も触れず、コンビニで買い物を済ませ、寮に帰った。

 帰り際、最後にそのねこに背を向けようとしたとき、ぬくもりを感じた。

 エアコンの室外機だろうか、それとも他のなにかだろうか。 しかし、自分には、そのぬくもりが、そのねこから発せられているような気がした。

 自分はそれを振り切って、自転車のサドルにまたがった。

 帰り道で見た空は、夕焼けの赤に染まっていた。

 雲が幻想的な線を描き、太陽がそれを赤く染めていた。

 それはとても美しかった。

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