吸血鬼になったので、不老不死の集会に参加することになりました
う〜ん……。
これはなんなんだ?
机の上には、やたらと高級そうな紙が置いてある。
誰かから来た手紙のようだ。
差出人の名前はない。
だが、中身を見た時、思わず二度見してしまった。
『不老不死の集会へのご参加を歓迎いたします』
「……は?」
意味がわからない。
手紙には、さらに不可解なことが書かれていた。
『あなたは昨日、吸血鬼になりました』
……どういうこと?
昨日はゴブリン討伐の依頼を受けていただけだ。
吸血鬼に噛まれた覚えも、怪しい薬を飲んだ覚えもない。
……。
そういえば、日光が妙に眩しく感じるような……。
……いや、まさかな。
……そうだ。
簡単に試す方法がある。
というわけで、部屋の鏡の前に立ってみたが……。
「写ってない……」
認めたくはないが、手紙の内容は事実のようだ。
「さてと……日暮れ頃に来い。と書かれていたな……」
集会場所は、この町から離れた所にあった。
そこには、大昔からあるとされる古代遺跡がある。
古代遺跡といっても、大きいだけのものだ。
建物は劣化が激しく、人もほとんどいない。
「ここが入り口か……」
遺跡の中に入った途端、空気が変わった。
外の世界とは、明らかに違う。
そこには確実に、人知を超えた『何か』の気配がある。
そんな風に感じられた。
「……今さら引き返すわけにもいかないよな」
奥へ進むに連れて、『それ』の気配は徐々に強まっていく。
やがてそれは、明確な『声』となって聞こえてきた。
人の話し声だけではない。
低く響く獣の唸り声。
鳥の鳴き声のようなもの。
聞いたこともない言語。
様々な音が混ざり合っている。
「……本当に行っていいのか?」
そう思いながらも、声を頼りに確実に進んでいく。
そしてそこの角を曲がり、広い道へと出た瞬間……。
「ッ!?……これは……!?」
思わず足が止まった。
言葉が出ない。
目の前の光景が、信じられなかった。
広間には、多くの者たちが集まっていた。
だが、そのどれもが普通ではない。
巨大な竜。
全身に炎を纏った鳥。
人の姿をしているが、明らかに人間ではない者たち。
どれも、とてつもない存在感を放っている。
伝説や神話の中でしか語られないような存在ばかりだ。
ここは危険だ。
逃げた方がいい。
そう頭ではわかっていたが、足が動かない。
俺が立ち尽くしていると、目の前の竜がこちらを見た。
『ん? 見慣れぬ奴だな』
頭の中に直接響くような声だ。
竜の声で、周りの注目も集まった。
「本当だ」
「誰だアイツ?」
「新しく来たのか?」
遺跡が騒がしくなる中、1人の男がこっちに来た。
一応、見た目は普通の人間だ。
そして
「君は、もしかして新人かな?」
と、聞いてきた。
……。
……あっ、俺に聞いてるのか。
「あっ……ハイ。昨日、吸血鬼になりました」
「なるほどね」
……あれ?
思ったより反応が薄いな……。
人が吸血鬼になるって、意外と珍しく無いのか?
と思っていたら、また騒がしくなった。
「前に新人が来たのって、いつだっけ?」
「たしか120年ぐらい前じゃないかな?」
「意外と最近だな」
ん?
誰だ120年前を最近とか言ってるヤツは?
俺の表情から察したのか、男が説明してくれた。
曰く、
「ここのみんなは、時間感覚がおかしいんだ。君もいずれこうなるよ」
とのことだ。
なっ、なるほどね……。
ここで、竜が突然、割り込んできた。
『そういえば、お前は元々人間だったのだな?』
「えっ?……えぇ。まあ」
『現代の世界については知っているな?』
「えっ?……まあ、少しなら……」
『聞きたいことがある』
……なんだろう?
普通、竜の方が物知りだよな?
その竜も知らないことを、俺が答えられるのか……?
「どっ、どうぞ……」
『では……あの帝国は今、どうなっている?』
あの帝国?
『北の山の上にあった帝国だ』
北の山の上といえば……。
「その帝国は、300年前に滅びましたよ?」
『なんと……』
竜が目を閉じる。
あの帝国に思い入れがあったのかな?
『では、つい最近まであったのだな』
……300年前が……最近?
これが、不老不死の感覚なのか……?
「その帝国なら、私も知っているぞ」
今度は、火の鳥が口をはさんできた。
「あの時の皇帝は、『我が国は不滅だッ!!』とか息巻いていたがな」
『我が国は不滅だ』……か。
その言葉って……。
「その皇帝が誰か……わかりますか?」
「ん?さあな……500年ぐらい前のことなのでなんとも……」
……やはりか。
500年前は、その帝国の最盛期。
当時の皇帝の、『我が国は不滅だ』という言葉は、あまりにも有名だ。
「私が聞いた時は、『もうダメだッ!!この国はおしまいだッ!!』と言っていましたね」
「ん、エルフ殿か」
今度は、長く尖った耳の美丈夫が話に入ってきた。
「まあ、400年ぐらい前のことなので、詳しくは覚えてはいませんが」
400年前か……。
その頃は、帝国内で大飢饉がおきて、国中が大混乱だったと言われているな……。
『あの頃は大変そうだったが、今思えばよく持ち堪えられた方だ』
まあ、あれから100年以上続いたと考えればね……。
「我からも一つ聞いていいか?」
うわっ……。
今度は、明らかにヤバそうなのが話しかけてきた。
赤い肌で、腕が6本ある。
おそらく魔神か何かだろう。
「な、なんでしょう……」
「今の勇者はどうなっている?」
……え?勇者?
「現代に勇者はいませんよ?」
「ほう、では魔王も?」
「いません」
「ほう、では最後の魔王討伐はいつだ?」
最後の魔王討伐?
あの伝説のを最後とすると……。
「500年以上前ですかね?」
「あぁ、そうだった」
何かを思い出したのか、魔神が頷く。
「そうだそうだ。あの頃に魔王国と人間の王国が同盟を結んだんだったな」
……えっ?
そんな内容、歴史書にはなかったぞ?
「魔王国と人間の王国って、同盟を結んだんですか?」
「ああ、そうだ。その時の使者が今、勇者として語り継がれているんだ」
えっ?じゃあ、勇者がやったことって……。
「王の伝言を伝えて、魔王と酒を飲んだだけだな」
『魔王は飲みすぎて、次の日は一日中寝ていたな』
「酔った勇者の裸踊りも面白かったですね」
マジか……。
勇者が酔って裸踊りしてたなんて、知りたくなかった……。
ん?待てよ?
そういえば……。
「まるで、実際に見てきたかのように語りますね……」
『そりゃあ、見てきたからな』
……えっ!?
「うむ、我もその祝宴に招待された」
「私も魔王に誘われて出席した」
「私は勇者に誘われました」
みんな、実際にその場にいたのか……。
あらためて、ここの人たちはやっぱりすごいな……。
それにしても、そんな昔からいたということは
「みなさんは今、何歳なんですか?」
一瞬、静かになった。
「……」
『……』
「……」
あれ、何かまずいことを聞いたか?
『……忘れた』
「えっ?」
「我は、自分の年齢を数えたことなどないな」
数えたことがない?
「私は確か七千を超えた辺りから面倒になりましてね……」
「私も、最後に数えたのが大体二千年前で、その時は確か、一万ぐらいだった気がするな」
……。
不老不死って、こんな感じなのか……。
『まあ、長く生きると、年齢はほとんど意味をなさないからな』
「我にとっては、百年も千年も似たようなものだ」
「あなたも、いずれこうなりますよ」
そういうものなのか……。
正直、全く想像ができない。
百年ですら長いのに、千年も一万年も生きるなんて。
考えただけで気が遠くなりそうだ。
そんなことを考えていると、
『そろそろ終わる時間か』
と、竜が言った。
「あっ、もう終わりなんですね」
『まあ、この集会は、主に近況報告や雑談をするための場だからな』
「今回は新人も来たし、なかなか面白かった」
「ちなみにこれは、定期的に行われるんですよ」
「では、そろそろ終わりです」
集会の司会役のような男が立ち上がった。
「本日の集会を終了する前に、次回開催の日程を発表します」
おっ、次回の日程か。
いつだろうな?
「次回開催は百年後。場所は、ここに集合です」
……。
……。
百年後?
聞き間違いか?
「えっ?」
思わず声が出た。
「百年後ですか?」
「はい」
司会役の男は当然のように頷いた。
いやいや……おかしい。
百年後なんて、人間の寿命より長いじゃないか。
……あ。
そこで気付いた。
俺はもう、人間ではないのだった。
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