ー第4節 勘違いは加速する。ただの業務日誌が「聖典」扱いされ、俺のモップが「聖剣エクスカリバー」と呼ばれるようになるまでの序章
第4節 勘違いは加速する。ただの業務日誌が「聖典」扱いされ、俺のモップが「聖剣エクスカリバー」と呼ばれるようになるまでの序章
その後、白石玲奈さんは俺の後ろをついて回ることになった。
いや、ついて回るどころではない。「田中様の清掃の邪魔をしてはいけない」と言って、彼女は俺が進む先々のモンスターを、俺が気づく前に瞬殺して回るようになったのだ。
「そこ、田中様が通ります。邪魔です」
ズドン! と轟音が響き、ミノタウロスが沈む。
俺が「あ、あそこのゴミ拾いたいな」と思う前に、道ができている。
「白石さん、そんな、俺なんかのために……」
「いいえ! 田中様の手を煩わせるほどの相手ではありません! 田中様は、もっと高尚な『汚れ』と戦ってください!」
高尚な汚れってなんだよ。俺はただのガムの噛み跡とかを落としたいだけなんだが。
数日後。
俺が担当した六本木ダンジョン第三層は、探索者たちの間で「奇跡のフロア」と呼ばれるようになっていた。
――あそこに入ると、状態異常が回復するらしい。
――精神的な疲れが吹き飛ぶパワースポットだ。
――謎の聖人が、毎晩祈りを捧げて(※掃除して)いるらしい。
そんな噂がSNSで拡散され、俺の知らないところで「田中ファンクラブ」なるものが結成されようとしていた。
そして俺はといえば。
「勤ちゃん、次は渋谷ダンジョンだね。あそこはネズミが多くて汚いから、やりがいがあるよ〜」
「おうよ。任せとけ。この最強洗剤(と信じ込んでいる俺のスキル)で、ピカピカにしてやるからな!」
おつまみという謎の相棒を得て、少しだけ仕事に前向きになった俺は、今日も今日とてモップを担いで夜の街へと消えていく。
自分の持っているモップが、実は探索者たちが血眼になって探している迷宮産アーティファクト級の威力を持っていることなど、露知らずに。
(第1章 完)




