ー第3節 屋上決戦。田中、空に向かって消臭スプレーを噴射。それはただの家事ではなく、神話級の「大気洗浄」だった
第3節 屋上決戦。田中、空に向かって消臭スプレーを噴射。それはただの家事ではなく、神話級の「大気洗浄」だった
ビルの屋上に出た瞬間、強烈な腐臭が鼻をついた。
空は分厚い紫の雲に覆われ、太陽の光は遮断されている。
地上を見下ろせば、黒い霧のような瘴気が生き物のようにうねり、建物を飲み込もうとしていた。
「うわっ、くっさ! これはひどいな。生ゴミの日を忘れた時の百倍は臭いぞ」
田中はハンカチで鼻を押さえた。
普通の人間なら、この濃度の瘴気を吸い込んだ時点で発狂するか、肉体が崩壊している。
だが、田中の肉体はすでにおつまみとの契約により、「汚れ」という概念に対して絶対的な耐性を獲得していた。
『勤ちゃん、やるなら派手に行こう! この空全部が、君のキャンバスだ!』
おつまみが田中の肩に乗り、空を指差す。
「おうよ。これじゃあ洗濯物も干せやしないからな」
田中はスプレー缶を構えた。
ただの数百円のスプレーだ。だが、そこに込められるのは、おつまみが増幅した「清掃への執念」と、田中の「美味いビールを飲みたい」という強烈なエゴ。
「スキル発動……『全域・空気清浄』!!」
プシューーーッ!!
田中がトリガーを引いた瞬間。
スプレーの噴射口から放たれたのは、霧状の薬剤ではなかった。
それは、視界を埋め尽くすほどの、圧倒的な「光の奔流」だった。
ドォォォォォン!!
光の柱が天を突き刺し、分厚い紫の雲に風穴を開けた。
そして、その穴から波紋のように衝撃波が広がり、空を覆っていた瘴気を物理的に「吹き飛ばした」。
キィィィィン……。
高周波のような音が響き渡る。
それは、空間そのものが洗浄され、磨き上げられていく音だった。
光の粒子が雨のように降り注ぎ、地上を覆う黒い霧に触れると、ジュワッという音と共に霧が中和され、透明な空気に変わっていく。
「落ちろ! 落ちろ! しつこい汚れは根こそぎだ!」
田中はスプレーを空に向けて乱射する。
彼が腕を振るたびに、空が青さを取り戻していく。
ビルにこびりついたヘドロが剥がれ落ち、アスファルトが洗車したてのように輝き出す。
地上で戦っていた探索者たちは、空を見上げて絶句していた。
「な、なんだあれは……?」
「光の雨……? 瘴気が、消えていく……?」
光の雨を浴びた人々は、その場で力が抜け、へなへなと座り込んだ。
毒気が抜かれたのではない。
あまりの空気の美味しさに、脳が強制的にリラックスモードに入ったのだ。
「あぁ……空気がうまい……」
「体が軽い……」
「明日会社行きたくない……いや、行ってもいいかな……」
街中の人々の顔から、恐怖と絶望が消え去り、代わりに温泉に浸かった時のような、とろけるような笑顔が浮かんでいた。
それはまさに、集団的な「究極の癒やし体験」だった。




