ー第3節 物理的・精神的大掃除。ブラック企業の瘴気が晴れ、社長の強欲な心がホワイトニングされていく。これが真の働き方改革だ
第3節 物理的・精神的大掃除。ブラック企業の瘴気が晴れ、社長の強欲な心がホワイトニングされていく。これが真の働き方改革だ
「ひっ、来るな! 化け物め!」
黒井が後ずさるが、壁に追い詰められる。
俺は容赦なく、洗剤をスプレーした。
シュッ!
「うわぁぁぁ! 目が、目がぁぁ!」
実際には無害な洗剤だが、彼の「薄汚れた心」には劇薬のように効いているらしい。
俺は雑巾で彼の肩をガシッと掴んだ。
「まずは外側の汚れから!」
キュキュッ!
俺は彼の高級スーツを拭き上げた。
すると、不思議なことが起きた。
脂ぎっていた彼の肌から、黒い煙のようなものが噴き出し、雑巾に吸い取られていくのだ。それは「強欲」「傲慢」「怠惰」といった、彼の負の感情そのものだった。
「痛い! 痛くないけど、何かが抜けていくぅぅぅ!」
「まだまだ! 心の垢まで落としますよ!」
俺の手は止まらない。
背中をさすり、頭を撫でるように拭き、顔のテカリを拭い去る。
おつまみが『そこだ! 耳の裏! 加齢臭と共に悪だくみも拭き取れ!』と的確な指示を飛ばしてくる。
「悪しき労働慣習、サービス残業の強要、パワハラ気質! すべて拭き取ります!」
シュババババッ!
俺の高速清掃により、黒井社長の身体からどす黒いモヤが完全に消え去った。
そして仕上げに、俺は彼の胸に手を当て、優しく「乾拭き」をした。
「……終了です」
俺が手を離すと、そこには別人のようになった黒井社長がいた。
脂ぎった顔はさっぱりとし、濁っていた瞳は澄み渡り、まるで新人研修を受けた直後の新入社員のようなピュアなオーラを放っている。
「……あれ? 私はいったい……」
黒井は自分の手を見つめ、キョロキョロと部屋を見回した。
そこは、チリ一つない清潔で明るいオフィスに生まれ変わっていた。
窓から差し込む光が、神々しく彼を照らす。
「田中くん……」
黒井が口を開いた。その声は、かつての威圧的なものではなく、穏やかで透き通っていた。
「私は今まで、なんてひどいことを……。君たち社員を道具のように扱い、私腹を肥やすことしか考えていなかった……」
彼はポロポロと涙を流し始めた。
「申し訳なかった! 本当に申し訳なかった!」
土下座。
あの傲慢な社長が、平社員の俺に土下座をしている。
しかも、その土下座のフォームが美しい。床が綺麗だからだろうか。
「い、いえ。わかってくれればいいんです」
俺は少し毒気を抜かれて、頭を掻いた。
やりすぎたかな、とも思ったが、結果オーライだ。
「改心します! 今日から我が社は生まれ変わる! 全社員の給与アップ! 残業代の完全支給! 有給消化率100%を目指す! そして田中くん、君は……」
黒井は顔を上げ、俺の手を両手で握りしめた。
「君は我が社の最高執行責任者(COO)兼、清掃技術顧問になってくれ! 君のその素晴らしい『清掃道』を、全社員に伝授してほしい!」
「ええっ!?」
まさかの大出世である。
おつまみが『やったね勤ちゃん! これが現世の楽園化計画だよ!』とガッツポーズをしている。




