ー第2節 おつまみからの指令。「我慢して死んで来世に期待するな」。怒りを燃料に変え、田中の清掃魂(スキル)がブラック企業の根源的汚れ=社長をロックオンする
第2節 おつまみからの指令。「我慢して死んで来世に期待するな」。怒りを燃料に変え、田中の清掃魂がブラック企業の根源的汚れ=社長をロックオンする
『さて、対価交換の時間だ!』
おつまみは俺の目の前でビシッと(手はないが)指を差した。
『勤ちゃん、君はずっと「我慢すればいい」と思ってただろ? 「来世で幸せになれればいい」って諦めてただろ?』
図星だった。俺は心のどこかで、現世での幸福を諦めていた。
『ダメだダメだ! そんなのツマミにならない! 今ここを! この瞬間を! 最高の楽園にしなきゃ嘘だろ!?』
おつまみの言葉が、俺の脳髄を揺さぶる。
そうだ。なんで俺が割を食わなきゃいけないんだ。
俺はただ、綺麗にしたいだけなんだ。部屋も、ダンジョンも、そしてこの腐りきった会社も!
『デバッグの時間だ、勤ちゃん! その社長という名の「バグ」を、修正してやれ!』
カッ!!
おつまみから放たれた真紅の光が、俺の身体を貫いた。
これまでとは比較にならないほどのエネルギーが全身を駆け巡る。
それは「怒り」を燃料とした、爆発的な「是正衝動」だった。
「……社長」
俺は顔を上げた。
さっきまでの卑屈な態度は消え失せていた。
俺の目には、社長の黒井が人間ではなく、「部屋の隅にこびりついた、最も醜悪で頑固なカビの集合体」に見えていた。
「あぁ? なんだその目は。文句があるなら……」
「汚いですね」
俺は静かに言った。
「え?」
「あなたの心も、この部屋も、この会社の経営方針も。すべてがヘドロのように汚れている。……掃除が必要です」
「な、何をわけのわからないことを……! 警備員を呼ぶぞ!」
黒井が受話器に手を伸ばそうとした時、俺はポケットから商売道具を取り出した。
使い古した雑巾と、どこにでも売っているマイペット(住居用洗剤)。
だが、今の俺の手にかかれば、これは聖剣と聖水に等しい。
「スキル発動、『徹底清掃・完全浄化』!!」
俺が叫ぶと同時に、俺の身体から眩いばかりの白い光が放たれた。
それはただの光ではない。高濃度の洗浄成分を含んだ、物理的な「清掃オーラ」だ。
バシュゥゥゥゥン!!
衝撃波のような風圧が社長室を吹き抜けた。
書類が舞い、ブランデーの瓶が倒れる。
だが、何も壊れない。
代わりに、部屋に充満していたタバコのヤニ、床のシミ、そして空気中の淀みが、一瞬にして消滅した。
「な、なんだ!? 何が起きた!?」
黒井が腰を抜かして床に這いつくばる。
俺はゆっくりと彼に近づいた。
その一歩ごとに、床が鏡面仕上げのように輝き出す。
「さあ、社長。あなたも綺麗になりましょう」
俺は右手の雑巾を構え、ニッコリと笑った。




