第4章 第1節 クリーン・ダンジョン社の社長室にて。無理難題を押し付けられ、退職金ゼロの解雇通告を受ける社畜・田中の心に、真っ黒な怒りの炎が灯る
第4章 ブラック企業の浄化
第1節 クリーン・ダンジョン社の社長室にて。無理難題を押し付けられ、退職金ゼロの解雇通告を受ける社畜・田中の心に、真っ黒な怒りの炎が灯る
株式会社クリーン・ダンジョン、本社ビル最上階。
社長室の豪奢な革張りソファには、脂ぎった顔の男がふんぞり返っていた。この会社の社長、黒井だ。
彼のデスクには高そうな葉巻とブランデーが置かれ、部屋全体から「搾取」のオーラが漂っている気がする。
「おい、田中。聞こえてるのか?」
黒井の声が、部屋の空気を振動させる。
俺、田中勤は、直立不動でその声を聞いていた。
「は、はい。聞こえております」
「今回の件、お前が責任を取れと言っているんだ。六本木、渋谷、新宿。お前が担当したエリアから『モンスターが消えた』という苦情が来ている」
「えっ? そ、それは清掃業務の一環で……ゴミだと思って片付けただけで……」
「うるさい! ダンジョンは資源だ! モンスターがいなくなったら、探索者たちが稼げないだろうが! 管理組合から『お宅の社員がやりすぎだ』とクレームが来てるんだよ!」
理不尽だ。
俺はただ、汚れた場所を綺麗にしただけだ。探索者たちが「快適だ」と喜んでくれているという話も聞いている。それなのに。
「というわけでだ、田中。お前には懲戒解雇を言い渡す。退職金はなしだ。むしろ、会社に損害を与えた賠償金を請求したいくらいだな」
黒井はニヤニヤと笑いながら、解雇通知書をテーブルに放り投げた。
三十八歳、独身。この歳で職を失う恐怖。しかも、今まで会社のためにサビ残も休日出勤も厭わず尽くしてきたのに、この仕打ち。
「そ、そんな……。あんまりです社長。俺は、この会社で十五年も……」
「代わりなんていくらでもいるんだよ。お前のような中年清掃員はな! さっさと荷物をまとめて出て行け!」
黒井の罵声が突き刺さる。
俺の中で、何かが音を立てて崩れ落ちた。
絶望。悲しみ。
そして、それらを上書きするような、ドス黒い感情がふつふつと湧き上がってくる。
(ふざけるな……ふざけるなよ……!)
俺は拳を握りしめた。
我慢してきた。ずっと我慢してきた。
上司のパワハラも、低賃金も、劣悪な労働環境も、「いつか報われる」と信じて耐えてきた。
だが、その結果がこれか?
俺の人生は、使い捨ての雑巾と同じなのか?
『おーっと、これはすごいねえ!』
不意に、能天気な声が響いた。
誰もいないはずの空間から、あの毛玉――おつまみが現れた。
社長には見えていないらしい。おつまみは俺の顔の周りを飛び回り、興奮した様子で声を上げた。
『勤ちゃん、今、君の中から極上のスパイスが出てるよ! 「理不尽への怒り」! 「搾取への憎悪」! これは激辛だ! 最高にビールが進む味だね!』
おつまみは俺から立ち昇る黒いオーラを、猛烈な勢いで吸い込み始めた。
ジュルルルッ! という音が聞こえてきそうだ。
『んぐんぐ……くーっ! 辛い! でも美味い! 腹の底から熱くなるねえ!』
おつまみの体が、これまでにないほど赤く発光し始めた。




