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【新版】転生帰録 - 鵺が呪う輪廻に終止符を  作者: 城山リツ
第一部 四章 新たな仲間とともに

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第27話 忘れてしまった夢

 古い記憶か。

 それともただの夢なのか。

 今はまだ、わからない。




 ◆ ◆ ◆


 


「体は大丈夫か?」

 

 酒を手にしたハルが俺の所へやって来たのは、月が高くなって随分と経ってからだった。

 

「何がだ?」

 

 事後処理が忙しいだろうに、夜が明ける前に俺の様子を見に来てくれたことが照れ臭くてしらばっくれる。

 するとハルは笑いながら隣に座って杯を差し出した。

 

「あれだけ化け物の返り血を浴びたんだ。何か異常をきたしてないか心配で心配で」

 

「──夜も眠れないか?」

 

「そうそう。だから一杯付き合ってもらおうと思って」

 

 笑いながらハルは俺の杯に酒を注ぐ。(あるじ)に注いでもらった酒を飲むには相応しい名月だ。

 

「うまい」

 

「だろう? 奥の秘蔵のやつをくすねてきた」

 

「格別だな」

 

 月と酒。それにお前がいれば、俺の心は満たされる。

 

「──で、眠れない原因はあっちの方だろ」

 

 離れ屋の方を指してやると、ハルは「ばれたか」とまた笑った。

 

「あれから少し塞ぎ込んでいると聞いてな」

 

「そりゃあ、あんな化け物を間近で見たんだ。お前は忘れてるかもしれないが、あいつはまだ子どもだぞ」

 

「それはその通りなんだが……」

 

 言いかけて、酒を一口飲んだ後、「これは戯言だ」と前置いてからハルは語った。

 

「リンは、何かを抱えてるんじゃないかと思う」

 

「何かって?」

 

「わからない」

 

 お前がわからないことが俺にわかる訳ないだろう。酔ってるのか。

 

「まあ、でも、そうだな。今日び何も抱えてないヤツなんていねえよ」

 

 こんな戦ばかりの世で。血と泥にまみれて、それでも生き残った者なら、色んなものを背負っている。

 

「お前もか?」

 

 純朴な顔をして聞いてくるので、安心させるように笑って言ってやった。

 

「俺はお前を背負うので精一杯だ」

 

「そうか」

 

 安心しろよ、俺が守ってやるから。

 

「朝になったらリンに干し柿を持っていってやろう」

 

「また奥からくすねてくるのか?」

 

「なあ、おれの家のものなのに、どうしておれは自由に持ち出せないんだ?」

 

「知らねえよ」

 

 夜はこんな風にお前と笑い合えるから好きだ。

 そういう夜をずっと過ごしていけると思っていた。




 ◆ ◆ ◆


 


「…………」

 

 蕾生(らいお)が目を覚ますと、目覚ましのアラームが鳴った。

 

 不思議な夢を見たような気がするが、もう何も覚えていない。ただ、懐かしい匂いがした。何の匂いかは思い出せない。

 忘れてしまった夢が、心に穴を空けたようだ。言い表せない寂しさが残る。

 

「あー、くそ!」

 

 蕾生は苛立ちをかき消すように、勢いよく起き上がった。




 月曜日の学校は、まだ調子が上がらない者と、リフレッシュ済みで元気な者が半々の不思議な空間だ。

 (はるか)と蕾生は今週に限っては前者で、昨日の鈴心(すずね)とのやり取りを経ていたため疲れが少し残っている。

 

 だが、星弥(せいや)の方は優等生らしく月曜日から溌剌としている。昼休み、そんな星弥からある提案がされた。

 

「ねえねえ、三人でクラブ作らない?」

 

「うん?」

 

 昼食後、中庭に集められた永と蕾生は桜の木に寄りかかって欠伸を噛み殺しながら聞いていた。星弥の突拍子もない提案に、二人とも困惑するしかない。

 

「なんだよ、藪から棒に」

 

 蕾生が聞き返すと、星弥は少し興奮した面持ちで説明する。

 

「部室棟の端っこに、狭すぎてどの部も使ってない部屋がひとつあるんだって。でも同好会レベルなら広さは十分だよ」

 

「へー」

 

 明らかに永の反応はそれに興味がないことを表している。それでも星弥は続けた。

 

「それをね、わたしがクラブを設立するなら使ってもいいって先生が言ってるの!」

 

「はいはい、エコ贔屓」

 

 右から左へ受け流す永の態度に、星弥は少し苛ついたように眉毛だけ吊り上げて言う。

 

「……二人はもうウチに来ない方がいいよ」


「えっ?」

 

 会話の方向転換が急角度過ぎて、蕾生は思考を繋げることが即座にはできなかった。


「ナニ、なんか兄貴から言われた?」

 

 永の方は敏感に察しており、それまで眠そうだった顔を突然真面目にして星弥に向き直る。

 二人の両極端な態度に、溜息を吐きながら星弥は言った。

 

「直接はないけど。多分兄さんには気づかれてると思う」

 

「ま、そりゃそうか。二週続けて大騒ぎしたしねえ」


 蕾生は心中穏やかではなかったが、永は落ち着いていた。その覚悟はすでにあったのだろう。

 

「すずちゃんが言うように、わたし達の行動くらい筒抜けだと思うの。昨日突然兄さんが戻ったのもタイミングが良すぎて」

 

「確かに……」

 

 なおさらヤバいと蕾生は焦った。そんな蕾生の気持ちを察している星弥は、落ち着いた声で穏やかに言う。

 

「だからね、兄さんやお祖父様の目の届かない場所が、これからは必要だと思うの」

 

「あ、そういうこと?」

 

 先に膝を打ったのは永だった。ここまで聞いてようやく最初の話と繋がったのだ。

 

「そのための部活か」

 

 蕾生もそれに続くと、星弥は眉をひそめて愚痴るように言った。

 

「そうだよ、察しが悪いよ。単純にクラブ作りたいだけなら誘わないよ」

 

「あ、ひどい言い方!」

 

 永がわざとショックを受けた様な反応をしたが、蕾生は冷静に納得する。

 

「それもそうだな」

 

「ライくん、それでいいの!?」

 

 また永がお得意のワチャワチャをし出す前に星弥が言い放つ。

 

「で、どうするの? 作るの、作らないの?」

 

「もちろん作りますとも、銀騎(しらき)サマ!」

 

 永は大袈裟に頭を下げる。

 銀騎邸にこれまでのように出向く事は、危険度が増してしまった。今後の話し合いに星弥を含めるためには、学校に隠れ蓑を作る事が一番効率が良い。

 星弥の先んじての提案は的確だからこその、降参である。

 

「何部にするんだ?」

 

 蕾生が聞けば、星弥はうーんと空を見上げながら呟く。

 

「そうだね……先生に受けが良くて、それでいて他の生徒は微妙に入りたくないクラブ、かな?」

 

「なんだよそれ、そんなもんあんのか?」

 

「だよねえ。部員募集しなければいいんだけど、それも角が立つし──」

 

 二人で悩んでいると、横から永があっさりと答える。

 

「そんなの簡単だよ」

 

「ええ?」

 

 星弥が目を丸くして聞き返すと、永は得意気に人差し指を立てて言った。

 

「名付けて『これからの地球環境を考える』部! 活動内容は主に環境問題の研究と校内ボランティア──清掃したり、ちょっとしたお手伝いしたり」

 

 付け足した内容は誰かの普段の行動を連想させた。

 

「げ。絶対入らねえ」

 

 蕾生が嫌そうに言うと、星弥はにっこりと微笑みながら怒る。

 

「二人とも、わたしをいじってるんだね?」

 

「まあまあ、そのおかげでいい思いしてるんじゃない。よっ、部長!」

 

 永が茶化すと星弥は白けた顔をして言った。

 

「何言ってるの、部長は周防(すおう)くんでしょ」

 

「え! なんで!」

 

「わたしが部長までやったら、先生との癒着がバレるもん」

 

 ついに認めた、と蕾生は開いた口が塞がらなかった。

 永の方は抵抗しても意味がないと悟り、すんなり承諾する。

 

「ハイハイ、わかりましたよ、銀騎サマ。じゃあ、先生とナシつけといてね」

 

「うん。じゃあ、放課後部室棟に集合ね」

 

「もう今日からできるのか?」

 

 蕾生が尋ねると、星弥は立ち上がってブイサインを掲げる。

 

「銀騎サマに任せなさーい!」

 

 勢いよくそう言いながら、星弥は小走りに駆け出し校舎の中に消えていった。

 

 月曜から行動力があるな、と蕾生はその姿を感心しながら見送る。

 話がついて安心したのか、永がまた欠伸をひとつ。そこで予鈴のチャイムが鳴った。

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― 新着の感想 ―
永と蕾生が女生徒に人気があるなら部活に入りたい人いそうw でもすごく良い案ですよね。 星弥が先生の信頼あるからこそです。 永と蕾生はちょっと星弥に負けてるな~。
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