表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新版】転生帰録 - 鵺が呪う輪廻に終止符を  作者: 城山リツ
第一部 三章 君を取り戻す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/31

第24話 不安定な二人

 部屋に引きこもって出てこない鈴心(すずね)に興味を持ってもらうべく、(はるか)はアプリでこの場の会話を文章にして送信する事にした。永の怪しい友人が作った怪しいアプリの存在はともかくとして、蕾生(らいお)はどんな話題をするべきなのかわからなかった。何しろ、自分には前世の記憶も、銀騎(しらき)詮充郎(せんじゅうろう)についても知識もないのだから。


「で、何を話せばいいんだ?」

 

 蕾生の問いに永はやや渋い顔をする。ちょっとした()をはった割に、今日の話題については思い悩んでいた。すると星弥(せいや)が小さく手を挙げて喋り始める。

 

「あの、わたし聞きたいことがあるんだけど」

 

「なに?」

 

 永は軽く返事をして星弥に注目した。

 

周防(すおう)くん達は、九百年の間に三十回以上も繰り返し転生してるって言ったけど、どうやってるの?」

 

「どうやってる、とは?」

 

「具体的な方法のこと。先週、すずちゃんの今回の転生は、もしかしたらお祖父様がうちの秘術か何かを使ってるかもって言ってたけど、それより前はどうやって転生してたの?」

 

 素朴だがとても重要な質問だと蕾生は思った。転生しているという事実のみ永から聞かされ、その詳細は未だに教えられていないのだから。

 

「あー、そうだね……うーん、白状すると僕らは好きで転生してる訳じゃない。(ぬえ)に殺されて気づいたら生まれ変わってるんだ。転生に関しては僕らの意思は関係ないんだよね」

 

 永が歯切れ悪くそう答えると、星弥は更に食い下がった。

 

「なら、その鵺の呪いって何なの? 何度も転生させること?」

 

「いや、鵺の呪いは転生させることじゃない」

 

「じゃあ、何?」

 

「それは……まだ言えない」

 

 やはり永は口を噤んでしまった。鈴心が現れ、蕾生にも現状の理解が進んできたところだが、永が知る事実に比べたらまだほんの入口に過ぎない。

 そんな永の態度を見て、星弥は遠慮がちに尋ねた。

 

「……わたしがいるから?」

 

「いや、ライくんにもまだ言えない」

 

 蕾生は黙って二人の会話を聞いてるしかなかった。もどかしいけれど、どうすればいいかわからない。一体永は何を恐れているのか、それを知らなくては本当の意味で一緒に運命に立ち向かう、などと偉そうには言えない。

 

「どうして?」


 蕾生の気持ちを代弁するような、星弥の問いが投げかけられる。

 

「それを今ここで言ったら、確実に日常は消え失せる」


「……」

 

 永が躊躇いながら、言葉を選びながら放った言葉に、蕾生は絶句した。

 

「まだなんの準備もできてないし、情報も揃ってない。軽はずみに口にすれば、僕らは君を巻き込んで即死するだろう」

 

「……」

 

 大袈裟ではない表現に、星弥は微かに震えていた。それほどの恐ろしい事実を永は抱えている。

 

「今は、そうだな、このまま時を無駄に過ごしていくと、僕ら三人に大きな呪いが降りかかる。こんな表現しかできない。ごめん」

 

 永の軽口は、それだけ深刻な事情があるのを蕾生に悟らせないためのものであることは、蕾生本人が一番わかっている。

 

(ただ)くんは、それでいいの?」


「ん……」


 納得していないような、問いつめるような口調で星弥は蕾生に尋ねる。転生や呪いに関わる事は、永だけの問題ではない。蕾生にも鈴心にも大いに関わりがあり、二人の命の危険さえ孕んでいるのに、永が全てを抱えて秘匿している。星弥はそれを暗に諌めようとしていた。

 

「気にはなるけど……」


 蕾生にはまだ自信がなかった。

 永から全てを無理やり聞いたとして、その未知なる事実を全て飲み込んで、「俺は大丈夫」とか「俺に任せろ」などと言える自信が出てこない。

 胸に暗い不安だけが積もっている。永が全てを話してくれないのも、自分が頼りないから。背中を預けるに足らないからと考えてしまう。それなのに、永を問いただす事ができない。



 

『僕は鵺の呪いを解くために三十回以上同じことを繰り返してきた』

 

『僕はね、それだけ沢山……九百年の間ずっと失敗してるんだよ』

 

『その僕が、今は話すべきじゃないと思ってるんだ。どうか尊重して欲しい』



 

 あの時公園で、永はそう言った。永の願いは聞くべきで、蕾生にとっては何より大切なもの。

 自分の不安感よりも優先するべき感情である。


「永がここまで躊躇するんだ。何度も繰り返してきたからこその判断だと思う」


 蕾生の信念と呼べるものは、永の全てだった。

 

「……そっか。わかった」

 

 当人達が納得しているなら自分がこれ以上詮索することではない、と星弥はそこで引き下がった。

 

「ありがと、ライくん」

 

「ん」

 

 二人のやり取りを見て星弥は思う。男の子同士の信頼関係っていいなと思う反面、それが崩れた時の危うさを感じていた。

 永と蕾生がまるでゴールのない綱渡りをしているように思えた。だから星弥は出来る限りの情報を得ようと試みる。

 祖父のためではなく、彼らのためでもない。何かの時に自分が適切な行動をとるためだ。


 

 

「じゃあ、鵺の呪いがふりかかったとして、貴方達を殺すことができたなら、呪いはそこで終わるんじゃない?」


 星弥は更に突っ込んだ内容を聞く。鈴心を含めた三人に何が起きているのか、自分なりに考えるために。

 

「そうだね、それは考えたことがある。僕らは産まれて、鵺に呪い殺される。君が聞きたいのは、何故それが繰り返されるのか、だね?」

 

「うん。もし鵺が貴方達を転生させ続けているなら、チャンスを与えてることにならない? 呪いって言うからには、必ず解く方法があるはずだよ」

 

 繰り返せば繰り返すだけこちらは要領を得ていく。そうして何度も鵺と対峙していけば、何らかの抵抗や対策の術は必ず現れる。

 永がこれまでやってきたであろう数々の事を理解して見せた星弥に、永は素直に賞賛の声を上げた。

 

「さすがに陰陽師の末裔は言うことが違うね。ろくにそっち方面の教育は受けてないんでしょ?」

 

「それでも、わたしの周りはそういう話題でいっぱいだから」

 

 困ったように笑う星弥を、永は初めて「理解者」として認識してもいいかも知れないと思った。少し安堵した所で蕾生が口を開く。

 

「繰り返させることが、目的だとしたら?」

 

「!」

 

「永と鈴心は九百年も苦しんでる。それこそが鵺の目的なんじゃないか? 俺たちを何度も殺すことが──無間地獄に落とすことがさ」

 

 蕾生の言葉に永はあんぐりと口を開け、星弥も目を見開いて言葉を失っていた。

 

「なんだよ?」

 

「ライくん、どうしちゃったの! 今回はなんでそんなに冴えてるの? 無間地獄なんて難しい言葉まで使って!」

 

「はあ!? いつも間抜けてるみたいに言うな!」

 

 そうやってすぐに茶化す永の心遣いに照れながら、蕾生も慌てて悪態をついた。

 

「僕とリンもその結論にたどり着いたんだよ。鵺は僕らに永遠の苦しみを与えたいんじゃないかって」

 

「お、おう、そうなのか……」

 

「ライくん、えらい! 賢い!」

 

「……そこまで言われるとうざい」

 

「えー!」


 

 

 周防(すおう)(はるか)という男は本当に読めない、と星弥は思った。

 今大袈裟にはしゃいでいるのは蕾生が言い当てたからなのか、それともわざと騒ぎ立てて誤魔化しているのか。星弥には後者に見えるが考え過ぎなのだろうか。二人が意味もなくはしゃいでいる隙に星弥は考えを巡らせる。

 

 永遠に苦しめたいのなら、何故蕾生だけが記憶を引き継がないのか。

 

 こうして永が試行錯誤しつつ抗っているのに、鵺が同じことを繰り返すのは何故か。

 

 もし鵺が同じ事を繰り返すだけの存在なら、彼らを転生させているのは別の何かである可能性は?



 

 情報が少な過ぎてもはや自分の妄想まで入ってきてしまった時点で星弥は我に返った。ふと携帯電話の画面を見る。

 

「あれ?」

 

「……どうした?」

 

 星弥の声に反応して蕾生が振り返った。

 

「すずちゃんの既読がつかなくなっちゃった」

 

「あちゃー」

 

 それを聞いた永は残念そうな声を上げる。やはり全部上手く行くはずがない、という顔で。

 

「あのやろう、電源切りやがったな」

 

 蕾生が拳を握りしめて怒ると、部屋の外でトトトと軽めの足音が近づいてきた。

 次の瞬間、ドアが乱暴に開けられる。そこにいたのは焦った表情をした鈴心だった。

 

「すずちゃん!」

 

「リン!」

 

 鈴心は自分の姿を見た途端に顔を明るくさせた星弥と永を無視して、注意深く部屋の外を確かめた後、音もなく部屋に入りドアを閉め鍵をかける。

 それから肩で大きく息をして三人、主に永を見据えた。

 

「……ハル様らしくない失敗ですね」




 鋭い視線。

 温室で初めて出会った時と同じような、それでいて何かに怯えてもいるような。


 鈴心の発する言葉も、部屋の中の空気も。

 震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
一歩間違うと即タヒなので、永は教えてくれないんじゃなくて教えられないんですよね。 蕾生が言う無間地獄なのも間違いじゃないのかもしれない。 タヒを繰り返して絶望させる復讐…。こわい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ