真実は逃走、そして爆発と共に
トンネルを歩く間、改めてこれまでのことを考えた。あまりにも一瞬の間にことが起こりすぎている。
多分これまで起こったこと全部を話しても誰も信じる奴なんかいないだろう。何せ犬が話し始め、自分の体が変異してきて、おまけに記憶を失い、自分を助けてくれた家主は行方不明で、街が荒廃している。
・・・なんとタチの悪い冗談だろうか。冗談で話すには少々重すぎる上にありえないことだ。現実味がなさすぎる。だが一番の問題は、これは冗談が下手な奴の話ではなく、おそらく現実で俺がたった数時間で体験する羽目になってしまった出来事だ。
「はあ、もうすでに俺の情報処理能力の許容範囲を2倍は超えてるわ。」
「何々?どんな面白いことがあったの?聞かせてワン!」
「はあ・・まず人間の生存者だと思ってどうにか助けたら犬でさらにお前が喋り出すだろ、で俺は記憶を失うだろ、さらに体はおかし・・」
「! シッ、 静かにするワン!」
トンネルをもうすぐで抜けそうな時、そう言って突然ライは俺を押さえつけた。
「突然なんだ?」
「ヤバい奴らがいるワン。とにかく気付かれないよう静かにするワン。」
そういうとライはこっそりトンネルの外を覗いて、すぐに戻ってきた。
「奴らワン。」
相当焦っているようだ。
「一体なんだ?」
「あいつらは、僕を犬体改造してきた組織の人間ワン。見つかったら何されるか・・」
「お前、改造された後、もしかして逃げてきたのか?」
「そうワン。奴ら、僕に他にも色々なことしようとしてきたワン。そしたら突然、大きな音が鳴り響いて、なんかみんな焦ってたから、その隙に逃げたワン。」
「で奴らはお前を探しにきたと。」
「・・・そうかもしれないワン。」
「分かった。ちょっと見てくるぞ。奴らの構成と武器を把握したい。」
「待つワン!危険だワン!」
俺は静止を振り切ってトンネルの外をこっそりと除いた。そこに見えたのは
「なんなんだあれは・・・ ・・・」
そこに広がっていたのは、白い白衣のような服を着た連中が、人間を連れていた。・・・いや、連れ去っていた。連れて行かれる人間はほとんどが女性に子供だ。ほとんどが何らかの負傷をしている。
その時、1人の小柄な女性が地面に倒れた。
「おいそこ!さっさと歩け!モタモタしてると殺すぞ!」
そう言って白衣の連中の1人が銃のような物を向けた。
「それとも、この武器の試し撃ちに協力するか?」
「丁度いいな。おそらくこのジュウとやらの方がこの生命体には効果的だろう。」
「ああ。まさかアルカナが奴らにあんまり聞かないとは思わなかったからな。」
そう言って1人が引き金を引こうとした時、1人の子供が突然前に立ち塞がった。
「おじさん達やめて!お母さんは大事なの!」
「ほう?じゃあ代わりに的になってもらおうか。」
そう言って奴らは再び狙い直して引き金を引こうとした時。
「待ってください・・私なら歩けます。」
「ッチ、さっさと歩け!次倒れたら容赦なく打つからな!」
どうにか母親と思われしき女性が立ち上がった。
(はあ、危うくこっちがトリガーを引く羽目になるところだった。)
にしても奴らは一体何なんだろうか?おそらく話の感じだと地球の者ではないだろう。この世界に銃を知らない人がいるとは思えない。いるならどれほど平和な国で育ってきたのだろうか。
「よし、じゃあオメガはこのまま被験体1=Zの捜索を行う。アルファはこいつらを本部に運べ。」
「あいあい、了解。・・・オメガさん、いつまでこの仕事続くんです?」
「さあな。いいからさっさと行け。」
どうやら奴らは二手に分かれたようだ。1人だけ残って他はどうやら人々を奴らの本部とやらに連れて行くらしい。さて、おそらくだが・・・
「・・なぁ、被験体1=Zって、」
「僕の番号だわん・・・」
「はぁ、一難去ったと思ったんだがな。三難くらい増えたぞ。状況は劣勢どころか絶望的だな。」
そう言って俺はホルスターから拳銃を取り出して構えた。スライドはスムーズに動いている。特に発射機構に問題はなさそうだ。
「拳銃 !? 何するつもりワン!」
「どうせお前の居場所くらい、奴ら分かってるだろ。見つかったらどうせ俺も殺されるだろうし、お前も施設戻りだ。どうせならワンチャンス狙った方がマシだ。」
再び俺は外を覗いた。奴は何か装置を持っている。すると突然
「おーい。被験体、そこにいるのは分かってんだ。さっさと出てこい!」
といって、銃を乱射し始めた。
「おーい! 早く出てこないと殺すぞ!」
ライを見ると、ライは怯えた表情をしてうずくまっていた。
「お前、俺が奴に向かって撃った瞬間、すぐに逃げろ。逆サイドの出口に全速力でな。」
「!?でも!それじゃあお前が死んじゃうわん。」
「いいから逃げろ。どうせ死ぬなら記憶のないうちに死んだ方がマシだ。」
足音がしてきた。すぐに俺は拳銃を構える。
「ほーら見つけ」
奴が顔を覗かせた瞬間、俺は躊躇なく引き金を引いた。拳銃の無機質な銃声がトンネル中に響く。俺はトリガーを引き続けた。打つたびに緑の飛沫が飛び、マガジンが空になった時には奴は倒れ、白衣は緑で染まっていた。すぐに俺は奴に近づいて顔を一発思いっきり殴った。反応はない。絶命したようだ。
「・・・・・・」
あたり一体が静寂に包まれた。俺は何とも言えない感情に包まれた。何というか、不思議とそこまで罪悪感はなかった。言葉に言い表せないような、達成感のような、でも少し自分への恐怖というか。そんな感情だった。
「・・・ライはちゃんと逃げたか?」
振り返ってトンネルの後ろを見ると、入り口の方に不安そうにこちらを覗き込むライの姿があった。
「・・・終わったぞ。奴は始末した。オールクリアだ。」
ライは静かに駆け寄ってきて、俺に思いっきり抱きついてきた。俺は勢いのあまり押し倒された。
「・・怖かった、、助けてくれたお前まで巻き込んで死んじゃうかと思って、怖かった・・・」
「・・・ああ。大丈夫だ。もう大丈夫。」
顔を俺の胸に埋めて、泣き出した。・・いや普通犬は涙は流さないはずなんだが、大粒の涙が何滴も地面に落ちた。そしてふと思った。いや、あの、こんな小説なら感動シーンみたいなところであれなんだが、俺の服、一応パイロット用の服だから防火素材でできてるし、結構硬い気がするんだが。果たして痛くないのか?確か犬って顔のあたりの感覚が相当鋭かった気がするんだが。まあ顔を埋めてみたことはないからわからないが、まあいいや。
「・・・もういいか。そろそろ奴の武器と情報を確認したい。」
「・・・分かった」
俺は念の為拳銃をリロードして奴に向けたままゆっくりと近づいた。反応はない。おそらく大丈夫だろう。すると、奴の持っていたライフルに目が止まった。
「これは・・20式か?記憶が正しければ陸自で調達が始まったばかりの最新鋭の小銃じゃないか?」
「・・なんで記憶を失ってるのにそういう知識はあるの?」
「ああ・・・俺多分自分の事とか、同僚とか家族とかの記憶があんまりないんだ。でもなんかそういう自衛隊で習ったと思われる知識とか、常識みたいなやつはなんとなくデータみたいな感じで覚えてるんだよ。」
「都合のいい記憶喪失だ・・・」
「おかげで今の今まで生き延びれたから感謝だな。」
俺は20式を拾い上げた。確かこいつは相当耐久性と汎用性が高いはずだ。。この荒廃している町で扱うにはまさにぴったりだ。スコープもしっかりしている。これは相当ラッキーだ。
「お、マガジンが4つもポーチの中に入ってるじゃないか。これで120発+装填済みの弾か。火力としては十分だし、相当これは助かるな。」
「ねえ、なんでそんなに銃の扱いが上手いの?」
「ああ・・・言ってなかったか。俺は多分航空自衛隊員だ。だからだな」
「でも航空自衛隊って、航空ってついてるし飛行機じゃないの?」
「あー・・・パイロットでも最初に確か学校でみんな教わるんだよ。必須科目だ。まあ記憶はないが確かそんなところだったはずだ。」
「へーー」
俺は20式を確認した後、奴の体を漁ってみた。すると
「あ、この端末は・・なんか地図が映ってんな。これってまさかスマホか?」
しかし外見はとてもスマホには見えないような形をしている。液晶はタップしても反応するようだ。そして
「なあ・・・これ間違いなくお前だよな。」
ライに端末をみせる。端末の中には現在位置、地図と赤い丸が表示されていた。赤い丸をタップすると
『被験体1=Z』
「間違いないわん。もしかして、発信機・・・?」
「とにかくおとなしくしてくれ、ちょっとくすぐったいかもだけど我慢しろよ」
俺はライの体をくまなく探した。しかし全く見つからない。
「く、くすぐったいワン//」ライは体を捻らせる。
「我慢しろ。じゃないとまた追われるぞ。でもなかなか見つからないな。まさか奴ら体内に埋め込んでたりしないよな。」
とその時、右耳に光る何かを見つけた。
「お、あった!」
と俺が右耳を覗いて取ろうとした瞬間
『接触を検知 爆発します。』
「\(^o^)/」
突然装置が赤く点滅し始めてそう発した。さて、まさにお決まりだ。どうやらこの装置がバレた時に逆探知とかを防ぐための証拠隠滅で最もコストがかかるが確実な証拠隠滅――ロマンの塊の爆発装置付きらしい。思考が一瞬のうちにフリーズした。
「爆弾だぁ!伏せろ‼︎」俺はそう叫ぶと思いっきり装置を掴んで投げ飛ばした。
直後、轟音と共に爆弾が爆発した。ゴゴゴ、、と鈍い軋みが響いた。あの爆弾、相当威力が高いらしい。土砂とコンクリートが崩れ落ちている。崩壊だ!バランスの崩れたトンネルは連鎖的にどんどん崩れていく。
(まずい、こっちに迫ってくる!)トンネルは俺を飲み込んでやろうとばかりに轟音を立てて迫ってくる。
「逃げるぞ!崩落範囲外まで振り返らずに全力で走れ!」
俺は全力で走りだした。ライもすぐさま走り出して俺を追い越していく。すぐ後ろから轟音が迫ってくる。あれに飲み込まれたらただじゃ済まない。その時、ふと思い出した。
「まずい!装置を置いてきた!」
振り返ると、すでに遺体と装置は瓦礫に飲まれる寸前だった。
「回収分析は不可能だ。ならばせめて破壊するしかない!」
俺はすぐに20式小銃を構えた。扱うのは初めてだが一応扱いは体に染み込んでいる。俺は迷わずスコープを覗く。
(落ち着け、距離的にも外す距離じゃない。)
弾を無駄に消費するわけにはいかない。だが轟音と土砂が俺を阻む。でもその程度なら問題などない。俺はトリガーに指をかけた。そして慎重に
パンッ!
乾いた発砲音が一瞬トンネル中に響いた。発射された弾丸は一直線に瓦礫の間を駆け抜ける。次の瞬間、端末は閃光と共に小さく爆ぜ、瓦礫の中に消えていった。
「ワン!(やった!!)」ライが叫んだ。
俺はすぐにセレクターを「安全」に戻し、再び全力で走った。(流石20式だ。何より俺の腕も鈍っていないらしい。)俺は安堵の中、わずかな痛みと共にふと少し記憶を取り戻したような感覚があった。とにかく急がなければ。そもそも俺が死ねば何も意味をなさなくなってしまう。なんとか俺がトンネルから抜け出した直後、トンネルは完全に崩落した。あれに巻き込まれていたらと思うとゾッとする。
「ワン(助かった・・)」
「ああ、そうだな。てかお前、なんで急にワンだけになったんだ?さっきまで普通に喋ってただろ?」
「ワンワン!(元から僕は喋ってなんかないよ?)」
「え?じゃあ一体なぜ?」
まあそんなことは気にしていられない。それよりもさっきの痛みだ。あれは前味わった激痛に似ていた。もしかしたらおかしいことになってるかもしれない。
「なあライ?俺の体がなんかおかしくなってたりしないか?」
「クゥ〜ン?(突然なんだワン?別に何もおかしくないよ。)」
「そうか。まあ一応確認してみるか。ライ、念のため周りを警戒しておいてくれ。」
「ワン!(わかったよ!)」
俺は再びシグナルミラーを取り出した。不便だが一応使えなくもない。本当なら手鏡が欲しいもんだ。しかし現実はそう上手くはいかないものである。シグナルミラーを取り出して頭を見ようとした時だった。一瞬だけピカっと光が目に入った。てっきりシグナルミラーが太陽光を反射したものだと思ったが、にしては光が弱すぎる。位置的には少し遠いビルの中層階くらいだ。・・・まさかあれは!
「11時の方向にスナイパーだ!隠れろ!」




