File.3 はりぼて。
――きっと、悪い夢。悪い夢だったんだ。
廊下に掛けられた絵も、走り回る子供たちも、何ら変わりない。
大広間で、長ーいテーブルを子供たちが囲む。いつもの風景。一人一個ずつの丸いパンと、あったかいスープ。食いしん坊達は待ちきれずにシスターの目を盗んで口に詰め込む。
「神に祈りを。」
子供たちは一斉に手を組み、神父様の一言で食事は始まる。
他愛のない日常。
きっと、きっと悪い夢。そうに違いない
――のに。手が、震えてる。
「ラプ?食わねぇなら貰っていいか?」
隣の食いしん坊。もう食べ終わったらしい。
「良いよ。要らない。」
吐き捨てるように言って、そそくさと立ち上がる。
「そういえば、今日、リリーちゃんいないねー。」
「ほんとだ~、どうしちゃったんだろう。」
ふと、そんな会話が聞こえてきた。……リリー?
――そういえば、あの部屋で見た見た女の名前って……?
歩き回っていた神父が、不意に立ち止まった。
「リリーちゃんは、急遽、今朝ここを離れることになってね。失礼、伝えてなかったね。」
「え~!?お別れの言葉も言ってないのに!」
「ホント、急だったんだよ。たまたま遠くの町から来た親族が孤児院を訪れてね、そのまま着いて行っちゃったんだよ。」
「さよならの一言も無いなんて酷いよ~。」
……たまたま、だよな。きっとそうだ。急にココを離れることになるのは珍しいことじゃない。こと女子においては、よくあることだ。
「明日は神誕祭なのにね~。」
神誕祭。春夏秋冬、季節の変わり目に行われるお祭り。そこで、神父様は特大の「キセキ」を起こす。不作の年は、辺り一帯の枯れている作物を蘇らせたり、病が蔓延したときは、村の病床者を一斉に治したり、という具合だ。
――ラプは、異常に記憶力が良かった。
おでこに手を当て、じっくりと思い出す。
……孤児院に入って4回、神誕祭を経験した。
そして、神誕祭の準備期間の度に、女子が1人、必ず孤児院を出ていく。
それも、毎回神父の席に一番近い右端の席。
――アレは……悪い夢?
――ホントウニ?
「む?どうしたラプ君?また、頭痛かい?シスター達からよく聞くけど……?」
黙れよ、神父。白々しい。厭味ったらしく入口のドアをバンッと閉めた。




