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いぐのーぶる  作者: 紫雨
孤児院編
3/4

File.2 笑顔って、ホント素敵!

淡い薄緑色の光に全身が包まれる。


「さぁ、お仕置きだ。」


ラプは、意識を取り戻した。


台の上に手足を縛られている。眼前には、凶器を手に持った醜い男。逃げ場なんてどこにもない。



――あぁ、僕の番か。



「君は、どんな苦悶(かお)をしてくれるのかな?」




右足の親指が、ぐちゅ。と音を立てて、大きなペンチで潰された。




……!!!


めいっぱい口を広げるけど、(しゃが)れた声一つでない。



「叫ばれると困るだろう?私はいつも声帯を切っておくんだ。折角のお楽しみの時間なんだよ。ゆっくりやろう。」



痛みで頭が真っ白になる。視界がチカチカと点滅して、体の痙攣が止まらない。



「すごいだろう?コレには毒が塗ってあるんだ。傷口から直接神経に激痛を伝えてくれるんだ。作り上げるのに、随分の時間と犠牲が必要だったよ。」



……もう、意識が――。




「まだ、一本だ。19本も残ってる。」



再び、淡い光がラプを包む。意識が復活する。


「ほうら、これが神の力だよ。何度でも、治療してあげるからね。」


一本、一本と、潰されていく。そのたびに、泡を吹いては、治療され、意識を飛ばしては治療され、その、繰り返し。



…………。



「お~い。ありゃ、この痛みには慣れちゃったかな?」


――刃こぼれした、錆塗れのノコギリ。


ザリッ、ザリッと時間をかけて骨を切断していく。


指から、手首、手首から、肘、肘から肩へ。だんだんと切り落としていっては、治療してくっつける。切断面には光を当て続けているおかげで、ほとんど血はでない。



何回も。



何回も、何回も。



何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も。



切っては治して、その、繰り返し。



「そろそろ、コエが聞きたくなってきたな。(ココ)も治してあげる。」




――きっと、それは大層、狂気たっぷりの顔をしていた。




「ふふふ、はは。うふふふふふ、あは、あははは、あはははははははは。」



何処(どこ)か、ココロの奥底の深いどこかで。壊れちゃいけないモノの、壊れる音がした。いっぱいに溢れてくる。大きな流れはもう、止まらない。



「あはははははははははははははははははは。」



部屋いっぱいに響き渡る(わら)い声。きっちり閉ざされた金属扉は、その声を外には通さない。神父は、我が子に話しかけるような優しい声で耳元へ囁く。


「ふふ。タノシイデショ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


小鳥が、囀りだした。


神父は、鋭い棒状の物を手に持つ。


「フツウの人間はね、脳ミソのココの部分を弄れば、少しばかり、記憶が無くなっちゃうんだよ。大丈夫さ。何事もなかったかのようにまたいつもの日常を送れるから。」


終わりを悲しむような目つきで、頭蓋骨へと突き刺した。


「おやすみなさい。」


いつも通り、太陽の光が孤児院に朝を告げようとしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



――怖い、怖い、怖い。


まだ、全身が震えている。昨日の光景が鮮明に頭に残っている。


幸か不幸か。ラプの記憶が消えることは無かった。



「うぇ~!ラプの奴、おねしょしてやがる!」


面倒くさそうに、シスターがやって来る。


「もぉ~。11歳でしょ、あんた。粗相なんて……って、何でそんなに泣いてるわけ?」


えずくばっかりで、言葉を発することはできなかった。


必死に伝えようとするけれど、何をどう話してよいか分からないし、頭の中はぐちゃぐちゃで、呼吸さえままならない始末だった。


……もう、全くもって痛みは無い。



それなのに、どこかが痛い。



「ほら、朝ご飯の時間よ。」


シスターの手をぎゅっと握って、放さなかった。


「はぁ~、おねしょくらいでそんなに泣かないの!」


涙で右も左も分からないまま、傍から見れば何の変わりもない一日が始まろうとしていた。












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