File.2 笑顔って、ホント素敵!
淡い薄緑色の光に全身が包まれる。
「さぁ、お仕置きだ。」
ラプは、意識を取り戻した。
台の上に手足を縛られている。眼前には、凶器を手に持った醜い男。逃げ場なんてどこにもない。
――あぁ、僕の番か。
「君は、どんな苦悶をしてくれるのかな?」
右足の親指が、ぐちゅ。と音を立てて、大きなペンチで潰された。
……!!!
めいっぱい口を広げるけど、嗄れた声一つでない。
「叫ばれると困るだろう?私はいつも声帯を切っておくんだ。折角のお楽しみの時間なんだよ。ゆっくりやろう。」
痛みで頭が真っ白になる。視界がチカチカと点滅して、体の痙攣が止まらない。
「すごいだろう?コレには毒が塗ってあるんだ。傷口から直接神経に激痛を伝えてくれるんだ。作り上げるのに、随分の時間と犠牲が必要だったよ。」
……もう、意識が――。
「まだ、一本だ。19本も残ってる。」
再び、淡い光がラプを包む。意識が復活する。
「ほうら、これが神の力だよ。何度でも、治療してあげるからね。」
一本、一本と、潰されていく。そのたびに、泡を吹いては、治療され、意識を飛ばしては治療され、その、繰り返し。
…………。
「お~い。ありゃ、この痛みには慣れちゃったかな?」
――刃こぼれした、錆塗れのノコギリ。
ザリッ、ザリッと時間をかけて骨を切断していく。
指から、手首、手首から、肘、肘から肩へ。だんだんと切り落としていっては、治療してくっつける。切断面には光を当て続けているおかげで、ほとんど血はでない。
何回も。
何回も、何回も。
何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も、何回も。
切っては治して、その、繰り返し。
「そろそろ、コエが聞きたくなってきたな。喉も治してあげる。」
――きっと、それは大層、狂気たっぷりの顔をしていた。
「ふふふ、はは。うふふふふふ、あは、あははは、あはははははははは。」
何処か、ココロの奥底の深いどこかで。壊れちゃいけないモノの、壊れる音がした。いっぱいに溢れてくる。大きな流れはもう、止まらない。
「あはははははははははははははははははは。」
部屋いっぱいに響き渡る嗤い声。きっちり閉ざされた金属扉は、その声を外には通さない。神父は、我が子に話しかけるような優しい声で耳元へ囁く。
「ふふ。タノシイデショ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
小鳥が、囀りだした。
神父は、鋭い棒状の物を手に持つ。
「フツウの人間はね、脳ミソのココの部分を弄れば、少しばかり、記憶が無くなっちゃうんだよ。大丈夫さ。何事もなかったかのようにまたいつもの日常を送れるから。」
終わりを悲しむような目つきで、頭蓋骨へと突き刺した。
「おやすみなさい。」
いつも通り、太陽の光が孤児院に朝を告げようとしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
――怖い、怖い、怖い。
まだ、全身が震えている。昨日の光景が鮮明に頭に残っている。
幸か不幸か。ラプの記憶が消えることは無かった。
「うぇ~!ラプの奴、おねしょしてやがる!」
面倒くさそうに、シスターがやって来る。
「もぉ~。11歳でしょ、あんた。粗相なんて……って、何でそんなに泣いてるわけ?」
えずくばっかりで、言葉を発することはできなかった。
必死に伝えようとするけれど、何をどう話してよいか分からないし、頭の中はぐちゃぐちゃで、呼吸さえままならない始末だった。
……もう、全くもって痛みは無い。
それなのに、どこかが痛い。
「ほら、朝ご飯の時間よ。」
シスターの手をぎゅっと握って、放さなかった。
「はぁ~、おねしょくらいでそんなに泣かないの!」
涙で右も左も分からないまま、傍から見れば何の変わりもない一日が始まろうとしていた。




