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いぐのーぶる  作者: 紫雨
孤児院編
2/4

File.1 拝啓、親愛なる神父様へ。

名もない孤児院。


毎日朝8時に始まる讃美歌(おうた)の時間。部屋の角で口を(つぐ)んでいる少年は、黒く(くす)んだ目で、壇上に立っている男を睨みつけていた。


「ほら、ラプ君も、ちゃんとお歌を歌いなさい。」


少年の名はラプ。齢は11になったばかりである。


「神父様に言って、お仕置き部屋に連れて行ってもらうわよ。」


若いシスターが、ラプの背中を軽く小突いた。


その瞳孔は、瞬きさえ惜しむように男を捉え続けていた。


ラプは既に決意していたのだ。





神父を殺す――と。



神父の名はオラクルム。


孤児院を管理するこの神父は、()()()を起こすことができるのだ。



讃美歌が終わり、神父は女神像の前に立ち、祈りを捧げる。


……すると、天井があるというのに、神々しい光が差し込むのである。



村の人々は神の使いだ、と言ってこの神父を崇め奉る。


何かあったら、オラクルム様の孤児院へ――。


村の人々は(こぞ)って孤児院へ押しかける。


怪我をしたなら、神父様が神の力で、治してくれる――。


村一番の聖人。我らを守ってくれる神父様。という評判である。



……(オモテ)では。



ラプは()()()()()()


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



つい先日のことである。皆が寝静まった深夜。三段ベットの最下層で、寝息を立てていた少年は慢性の頭痛で起きてしまった。


「うぅ……。」


いつにもまして酷い痛みだ。今までは何となく避けていたが、今回ばかりはしょうがない。


神父様に診てもらおう。


そう思って、ドアをそっと開けた。



もう、廊下のロウソクは消えている。いつもなら突きあたりが見えないくらい真っ暗なはずなのに、遠くの方から、微かな光が見える。


不思議に思いながらも、他の部屋の子供たちを起こさないよう抜き足差し足で進む。



進入禁止!と書かれている扉が半開きになっていて、そこから光が発せられているようだ。


普段は神父によって固く閉じられている扉である。


好奇心と不安がせめぎ合う。



いつもならこんなところ絶対に入れない……。



ラプは少しの間、頭を悩ませる。しばらくして、左手をギュッと握り、右手をドアノブへと伸ばしていった。


そこには階段があり、コツ、コツと歩みを進めていくと、捧物部屋(ほうもちべや)、と書かれた部屋の前に辿り着いた。



「……?」



部屋から、神父様がキセキを起こすときの神々しい光が漏れ出ている。


誰かを治療しているのだろうか。この孤児院では夜の来客も珍しいことではない。


不思議に思いながら、ラプはそーっと部屋を開けた。




――少年の脳は。そこに広がっていた景色を理解するのを強く拒んだ。




台の上にきつく、縛られた少女。


周りには、拷問器具のようなものが並べられている。


少女は体の至る所から流血していて、所々人間にあるべき部位が欠損している。


その真正面には、千切った耳を片手に息を荒めている肥えた裸の男。


神父、いや、オラクルムであった。


少女は助けを求めるような、涙ぐんた左目で、ラプに目線を合わせた。


右目は抉られ、床に落ちていた。


「う……あ…………。」


ラプは腰が抜けて、体を恐怖で震わせることしかできなくなってしまった。


「……ん?何だ?」


神父が、動きを止め、ゆっくりと振り返る。


「……扉は、閉めとくもんだね。」


一歩、一歩とラプへ近づく。


「君は、()()()()、だ。」


まるで、モノを扱うかのように、ラプの顔面を鷲掴みにして、隣の部屋へと引きずっていく。


「んー!むー!」


何が何だか分からないまま、必死に手足をバタつかせもがく。


「運びにくいガキだ。」




――ゴキッ。


鈍い鈍い、首の骨が折れる音。


少年の意識は瞬く間に暗闇へと誘われていった。






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