File.0 オマエ、アナタ、キミ、you、ワタシ
えぇ。そこの君だよ、そこの君。
ちょっと考えてみてはくれんかね。
空を飛んで、ビームを放ち、大型トラックをも持ちあげる。
――そんなスーパーヒーローになったら、君はどうする?
呪文を唱え、奇怪な力を繰り出し、人を魅了する。
――そんな魔法使いになったら君はどうする?
皆こう答えるのさ。やれ、悪を倒すだの、みんなを守るだの。
じゃァ、ここに、透明になれる薬がある。君はコレを飲んでナニをする?
……何だい?さっきまでとはうってかわって、随分悩むじゃないか?
まぁ、いいのさ。じゃ、ちょっと問いの趣向を変えよう。
……金と欲望と権力に塗れた世界で、人智を超えた力を持った人間はどうなると思う?
残念ながら、今この社会に、みんなを脅かす悪魔も化け物もいないのさ。
せっかくの力もみんなのために使えないんじゃァ、宝の持ち腐れかい?
あァ、私の力を発揮できるようなみんなの敵が現れてくれたらなァ、って嘆くかい?
そんな社会の癌細胞が都合よくいりゃぁ、大層いいご身分ってか?
まぁ、そんなもの今の世の中にゃいないのものねぇ。
はぁ~ァ。つまんないの。
……………あれぇ?こりゃ失礼。ソコにあるじゃァないか。癌細胞。
力を持った欲望の権化がソコに。
……まァ、少しお話でもしようじゃァないか。
人智を超えた力をカミサマからもらい受けて、僕がみんなを守る、と息巻いていた青年がいたのさ。
あァ。大いに高尚な願いじゃァないか。
ソイツは数年後どうなったと思う?
こいつァ傑作よ。
――欲望に喰われちまったのさ。
貰いもんの力を盾に、豪邸に住み、絢爛な絨毯の上で暴飲暴食、屈服させた女共を侍らせ抱き放題。
最期にゃ女に寝首掻かれて死んじまった!
何でだろうなァ、せっかくカミサマに力を貰ったやつらは、揃いも揃って屑ばっかりさ。
残念なことに、大いなるチカラを前にすりゃ、人の子、誰も逆らえない。そんな訳で、クズどもは今でもうじゃうじゃ蔓延ってやがる。
――人智を超えた力。うちじゃァ「ギフト」って呼んでる。
君が除去すべき社会の癌は、その受け取り手。いわば「神の子」共さ。
分かったかい?実験体α君?
この暗い研究所を飛び出して、屑ども渦巻く外界に飛び出る準備はいいかい?
……まァ、どうせすぐ之までの記憶はリセットされるんだ。
最後に一つくらい望みを聞いてやってもいい。
って、喋れなかったか。ごめんごめん。すぐ外すからさ。
「……鎖を解け」
あら、今にも噛みついてきそうじゃァないか。そんな鋭い目でご主人様を見つめるんじゃァないよ。
ほぅら、ワタシの集大成ちゃん。仕事の時間さ。
劇薬を注ぎ込んであげようじゃァないか。
……あァ、食べちゃいたいくらいに濁った眼。
早くワタシに見せておくれよ。
一体全体キミに渦巻く欲望は、どんな色をしてゐる?




