~メアリー編~
〜定期会議が始まる3日前〜
ジェシカは業務をする傍ら、時間が出来れば一ヶ月に一度はこうして他の差し入れを渡すついでに他の星見の様子を見に行くのだ
だが、今日は思ったよりかなり仕事が長引いてしまい、深夜になってしまっていた。
ほとんどの星見は流石に就寝してる時間帯だ、差し入れを渡しに行っても誰も対応しないだろう。
「あ、そうだ」
そう思い付いたジェシカが向かったのはーー…
神殿の外に座って星を眺めている人影がいた
「こんばんは、メアリーさん。差し入れを持ってきたのだけど」
こちらに気付き振り向いたのは蠍座の星見であるメアリーだった。
彼女は人間の星見ではない。人間の血を好む吸血鬼だ。なんでも日の昇らないこの国、エクリプシアを気に入って住み着いていたら星見に選ばれたという。本人から聞いた話では少なくとも100年以上前から蠍座の星見でいるという
不老長寿で人ではない「吸血鬼」。人間とは生きる時間の流れも違う生き物だ。
「あら、今晩は。なにを妾にくれるのだ?血か?」
色白の肌 風に揺れる長髪 整った顔立ち 妖艶だがどこか憂いを帯びた眼差し。妖艶な雰囲気を纏っている。どれをとっても欠点がない絶世の美女。人ならざる者故の美しさだろう。
夜空の星を見ている姿さえ美しいなんて。
メアリーは本当に美しい人だ。
吸血鬼は夜じゃないと生きていけないらしい
例えて言うなら「月下美人」だろう。
暗闇の中で神秘的に咲く芳香な美しい花
「艶やかな美人」「秘めた情熱」「儚い恋 」と言った花言葉がある。
エクリプシアには年中咲いているが、月下美人は本来はそもそも夜にしか咲かない花。
それはまるで夜でしか生きられない彼女のようだった
ただ残念ながらこの月下美人は「毒」がある
上手くは言えないが、その魅力に魅入られて常に見えない甘い蜜の中にいるような。その蜜に身を委ねたら理性を失ってしまいそうな。
彼女は美しいだけではない甘い毒を持つ妖艶な美女だ
ーーこれがジェシカが彼女を警戒する理由なのだ
これがタチの悪い吸血鬼ならば周りに毒を撒き散らして破滅させる悪女だったかもしれない
だが、幸い目の前にいる彼女は友好的な姿勢だし、その結果人間にとっては害悪になってない。
だから警戒しつつも表面上は良好に会話出来る
それに本当にタチが悪い性質であればわざわざ血をもらうのに相手に同意をもらうなんていちいち回りくどい事はしない。さっさと殺して吸血すれば良い話なのだから。
「あ、お菓子なのだけど……血の方が良かったのかしら!?」
あ、そうだ忘れてました。彼女はお菓子よりも血の方が喜ぶわ
「お菓子か、それも良い。渇きは潤わぬが甘いからのう。血もデザートにくれるなら欲しいぞ。」
「ま、まあ構いませんけど。あ、やだ星見の業務じゃないからかつい口調が」
気が緩んでまた外見年齢に引っ張られた
「外見年齢に言動が引っ張られてるので気にしないでもらえば……」
気まずそうに言うジェシカ
「別に構わんぞ。確かに汝、いくつだったかのう?他の人間より歳をとるのが遅く感じる気もするのう。」
オホン、と咳払いをする
「ええ、私はこのような外見ですが本来は30以上です。成長が異様に遅かったみたいで。」
「おお、そうか。まあ妾にとっては10も30も変わらぬ。汝が赤子のように振る舞ってもあやしてやるぞ。」
はい?
「赤子!?わ、私は赤子ではありませんっ」
子ども扱いされるのはローラで間に合ってるから結構です!と叫びそうになった
「ふふ、分かっておる。可愛いのう。よしよし」
……………。
「本当にわかってます……?私一応貴方の次に星見としては年長なんですが。というか、吸血鬼だからですかね?こんな時間まで起きていらっしゃるの。まあ私も大概ですが」
「分かっておる分かっておる。妾に昼も夜も関係ないからのう。」
なるほど。
ジェシカは間を空けてメアリーの隣に座る
「…全体的に今の星見の人間はどう見てます?貴方は」
メアリーはのんびりと答えた
「エクリプシアに来る前はむしろ夜しか動けなくて退屈だったのう。星見の人間たちか?とても可愛い人の子よ。思惑は各々あるようだが、妾は見守るのみ。」
つまり興味ないって事ですかね
「ああ、エクリプシアは常に夜ですからね。そうですか。特に関心は示さないようで。」
「関心はあるぞ。強く干渉しないだけよ。」
へーそれは気になる話ですね
「あるんですか。では特に誰に関心を持ってますか?メアリーさんは。貴方は質問には答えてくれるけど、自分の心の内は明かさないように見えたので。ああ、私が質問するのはただの好奇心。人間の星見としては最年長なので色々と把握しておきたいと言いますか」
あまり自分の心の内を話さない印象だ。まあただの秘密主義ってのもあるかもしれないにしてもどことなく壁を感じる
メアリーは穏やかな表情だ
「ふふ、好奇心か。そうじゃのう。星見の皆を妾は可愛らしくて好きよ。マリアンヌは同じように長い時間を生きる友人で、ローラも生まれた時から知っておるし可愛いのう。ニックはよく面白いものを見せてくれるしのう。マイクや、汝も血が美味しいのう。サンドラは…人の子なのかのう?汝のようによく話を聞きに来るが血が不味くて不味くて…」
不味いんですか
「ああ、お口には合わなかったようで。わかりますよ、その気持ちは。私は厳しいのであまり良くは思わない星見も反りが合わない星見もいますが…星見仲間は基本的にみんな愛しています。だからこそ、厳しくやります。」
そう、愛してるからこそ厳しくしなくては
「そうかそうか、愛しているのは良いことよ。それがずっと続くと良いのう」
「そうですね。だから相性の善し悪しはありますが星見の仲間はみな大事です。それがずっと続くのを願っていますよ」
と夜空の星を見ながら言う
「厳しくするのも時には必要よ。妾には優しくしてくれると嬉しいぞ。」
が、ジェシカはすかさず
「あら、厳しくしますが♡一応私よりも最年長ですし、貴方」
メアリーがしょぼんとした顔で
「あらあら、年上は敬うものと人の子は言っておった気がしたがのう。」
「はい、敬っていますよ?メアリーさん。ですが、怠慢や不真面目はダメです。特に会議の度に逃げ回るニックには手を焼いています」
「ふふ、厳しいのう。しかし、ニックも汝の言うことなら少しは聞くであろう?全く二人とも可愛らしいのう。」
とメアリーは楽しそうに笑う
「いえ、あまり響いてないかと。しばらくは大人しくしますがほとぼりが冷めたらまた遊び呆けるでしょうね」
それに……
「しかも、貴方とはよく、出かけているようで。」
「よく遊びに連れてってくれるのう。汝も共に来るか?」
「え、いえ!結構です!」
生真面目なジェシカはギャンブルだのお酒だの競馬だのは別に好きではない。
だからニックとは趣味が合わない
「そうか…残念よのう。」
はぁーと溜息を吐いて
「ギャンブルとか競馬とか何を考えてるのでしょう。メアリーさんにおかしな事を吹き込んでなきゃいいのだけど!」
遊んでばかりで会議もサボりがちな同僚にして幼馴染それがニックだ
「ふむ?スリリングで楽しい時間であった。」
一体何を考えてるの、あの人は
「その、女遊びとかお酒とかThe遊び人ですからね!メアリーさんみたいな美人がニックと並んで歩いたら目立つじゃないですか。そんな美人とあちこち遊びに出かけたら良くない噂が。あ、いえ別に噂になったら私が困るわけではないのですが、その、そう!!星見2人が遊び回ってるなんて星見としてのメンツってものがですね!」
私は何をまくし立ててるんだろう
「ふふ、顔を隠していっても妾の美貌は誤魔化せぬのう。汝、焦らなくても大丈夫よ。星見の地位はそんなものでは揺るがぬ。…それに厳しさと同じくらい自由も必要なものよのう。」
メアリーさんとニックが2人きりでよく遊びに行ってるなんてモヤモヤする
「そ、それはそうですが……ニックは自由過ぎるんですぅぅう」
……全くニックのバカ
「まあ汝が根気よく話せばいずれ丸くなるであろう。妾は見守っているぞ。」
保護者……?
なんとなくムッとして
「なんの事ですか( '-' )女大好きなニックの事です。貴方みたいな美人を連れ歩いて楽しんでるんでしょう本当にバカなんだから。美人と遊びに行ってるからって。鼻の下伸ばしてデレデレしちゃって。ニックの差し入れには辛いものでも仕込んであげます」
自分でも何を言ってるのかわからなかったが、ニックに関してはなんかムカつきます
メアリーは楽しそうに
「それは良いのう。まあ、人はすぐ歳を取る生き物。話せる時によく話して気持ちを伝えると良い。」
?
「?わかりました、覚えておきますね。では差し入れはしましたのでそろそろお暇します。夜分遅くに失礼しましたメアリーさん」
と言ってジェシカは立ち上がった
もう流石に帰って寝ないと仕事に支障が出る
「吸血鬼と言えど無理はしないでくださいまし。
血ならいつでも提供しますので。」
空腹で困っているというのでジェシカ的には同僚として協力するという感覚で血を提供している。
「ありがたいのう。うむ、しっかり寝るのじゃぞ。人の子よ。」
「はーいありがとうございました。ではまた」
そう言って蠍座神殿を後にする。
山羊座神殿に向かいながらジェシカは思った
メアリーさんの人柄は嫌いではないし、普通に雑談も出来る。
でもうーん、でもやっぱりメアリーさんは深入りしない方が無難かな!と思うのであった。