プロローグ【呪いの種が蒔かれた日】
暗い夜、赤い月が空を覆う。静寂に包まれた森の中、一人の旅人が焚き火の前で語り始めた。
「この世界に生きる者なら、誰もが知っている話だ……。だが、それが真実なのかどうか、確かめた者は誰もいない」
旅人は目を閉じ、ゆっくりと続ける。
「だが、ひとつだけ確かなことがある。この大地に生きる限り、我々は『成長を止めることは許されない』ということだ」
火の粉が舞い上がる中、旅人は語りかけるようにこう言った。
「この話を聞けば、なぜそんな呪いが生まれたのか、少しは分かるかもしれない――」
◇
【呪いを広めた女王さま】
昔々、エルデリアという大地に、人々が豊かに暮らしていました。
しかし、豊かさに甘えた人々は「もっとほしい」「もっと強くなりたい」と欲ばるようになり、争いが始まりました。
そんな中、「クラリス」という美しい女王さまが、魔法の塔から現れました。
クラリスさまは争いに苦しむ人々を見てこう言いました。
「争いを止めるために、私はみなに“成長”の力を与えましょう」
クラリスさまは大地に魔法をかけ、人々に「成長の呪い」を与えました。
「力を鍛えなければ命を失う人」
「知識を集めなければ消えてしまう人」
「他人を助けなければ体が腐っていく人」――
さまざまな呪いが大地に広がりました。
これにより、人々は争いを止め、成長することで命を繋ぐようになりました。
しかし、呪いを受けた人々はこう言いました。
「これは平和ではなく、新しい苦しみだ……」
そんな声を聞きながらも、クラリスさまはこう答えました。
「本当の平和は、苦しみの中で成長を選び、自分の道を見つけること。だから、この呪いは試練なのです」
その後、クラリスさまは姿を消しました。今でも人々はこの話を語りつぎます。
「成長の意味を問い続けるために――」
◇
旅人は語り終え、焚き火の火を見つめた。
「……それが『呪い』の始まりだ。今の世界を作り出した物語だと言われている。だが、本当にそれだけなのかは分からない。人々が語り継ぐ真実は、どこまでが真実なのか誰も知らないんだ」
彼はふっと笑い、立ち上がった。
「さあ、そろそろ行くとしよう。呪いの真実を探る旅をな」
その後ろ姿を見送りながら、焚き火の炎が消えていった。夜の闇が再び大地を包み込む――。




