エピローグ
長々とエンディングの音楽が流れた後、画面には無機質な文字列が浮かび上がった。
『諸事情により、このゲームアプリは十二月十四日午前零時をもって終了いたします。長らくのご愛顧に感謝いたします。Murder game 制作委員会』
壁の時計が十二時を打つ。午前零時ちょうど。美弥子はイヤホンを外し、スマホの画面を閉じた。線香の灰が落ちる音が聞こえそうな静寂が、あたりを包んでいた。新しい渦巻線香に火を移し替え、壇上に置かれた遺影を見上げる。
明日は母の本葬だ。通夜の不寝番は美弥子一人だけ。遺体を傷めないように温度が下げられた部屋で、美弥子は小さく溜息を吐いた。
一昨日、病院から、母が息を引き取ったとの連絡があった。長く病に伏していた母だったが、最期は穏やかだったようだ。
「娘さんにあんなに献身的に看病してもらって、お母様は幸せでしたね」
若い看護師はそう言って涙を浮かべた。
「そうだ、これ。娘さんに渡してくれって頼まれました。頭がしっかりしているときに少しずつ書いたんですって。きっと感謝の手紙ですね」
渡された封筒は綺麗な紫の地に藤の花が散っているものだった。
美弥子は未開封のその手紙を、一回り大きな白い封筒に入れて封をした。明日、母の棺に入れるつもりだ。読まれないまま、その手紙は本人に返される。
『娘さんからお母さまへの、想いを込めたラブレター』
葬儀司会者はそうアナウンスし、数少ない参列者は、それを信じるだろう。アナウンスを聞いた美弥子は、きっと笑い出しそうになってハンカチで口元を覆う。微かに漏れた声を、参列者たちは泣き声だと勘違いすることだろう。
その時を想像して、美弥子は声を立てずに笑った。
静かな部屋には線香の香りが満ち、目の前で、蝋燭の火が微かに揺らいでいた。
完