エピローグ
ウォーレイ辺境伯家は日を追うごとに浮ついた雰囲気が色濃くなってきた。そしてその色が一番濃いのが今日。
今日はウォーレイ辺境伯令息ルカとその番セアラの結婚お披露目である。
竜人族は結婚式という概念はなく、互いの家族や仲間が一堂に会した場所で番を披露して結婚の報告とするのが慣例となっている。
セアラの成人まで離れて生活していた若き番たちの門出を、仲間を大切にする竜人族らしく皆が心待ちにしていた。
王城から辺境伯領に移ってからしばらくたつ。ここに来たときからセアラのことを歓迎してくれていたが、正式なお披露目ということでのこの雰囲気。
ずっと蔑ろにされて育ってきたセアラにとって、この雰囲気はくすぐったくもあり、あたたかくもあり。セアラも番だけでなく、他の竜人族の人たちも大切にしていこうと再度決意した。
そこへドアから控えめなノックが聞こえた。
「どうぞ」
セアラが入室の許可を告げるとドアが開いた。そこから現れたのはルカだった。セアラはソファから立ちあがってルカを迎える。
「俺のために着た花嫁衣装姿のセアラが想像以上に美しすぎる」
いとしさを噛みしめるルカはセアラの姿を目に焼きつけようとするかのごとく、まばたきせずに凝視しながら近づいてくる。ルカの瞳はあの細長い瞳孔。今日のそれはいまに始まったことではなく、朝の挨拶をしたときからずっと。
「わ、わたしのために着た花婿衣装姿のルカ様も素敵すぎます」
見目のよいルカは盛装も騎士団の制服もプライベートなラフな服だってかっこよく見えるのだが、セアラのためのものとなれば他のものとは比べものにならないぐらい輝いて見える。ドキドキの止まらない心臓をかばうように胸もとに手を押しあてた。
「セアラ、俺の目を見て」
ルカのかっこよさと自分の胸の高鳴りに顔は熱い。目の潤みはもう条件反射すぎていまさら。そんな顔でルカの目を見るのは恥ずかしいけれど、甘い声で懇願されては逆らうことはできない。
背の高いルカを望まれるままに見あげると、ルカの手が頬を包み込んだ。その手はセアラの顔に負けないぐらい熱い。
最近、条件反射がひとつ増えた。
それはルカのもので、潤んだ瞳でルカを見つめると、もれなく彼の顔が近づいてくることになった。
「セアラ」
甘さと熱っぽさをたっぷり含んだ声で名前を呼ばれてぞくぞくした。「あ」とこぼれた声を奪うように唇を重ねられてしまって、セアラはおとなしく目を閉じた。
辺境伯領に来てから知ったルカの唇。
初めて口づけされたときは驚いたし、いまもドキドキがうるさいけれど、少しもいやではない。むしろルカと熱を共有できることは幸せなことだと知った。
(だけど、いまは……)
啄むように何度も口づけを繰り返すルカの腕に手をかけ、そして唇が離れた瞬間に訴えた。
「口紅が剥がれてしまうから、これ以上は……」
なんて言っているそばから深く口づけられてしまった。
「ルカ様っ」
乱れた息で抗議したセアラをルカがしっかりと抱きしめた。
「あとで侍女に直させるから問題ないが――」
「ルカ様?」
「やはり誰にも見せたくない。このまま蜜月に突入したい」
そう言ってまた口づけを繰り返すルカに少し呆れつつも、それを塗り潰すほどの幸福感に包まれる。
(わたしの番の独占欲が今日も強い)
ずっと蔑ろにされていた反動か、この強めの愛情表現を心地よく感じてしまう。
そうはいっても、この番は時間になると侍女を招き入れることも結婚披露を行なってくれることも知っているセアラは、そのときが来るまで愛情とともに包み込んでくれるルカの腕のなかで身を委ねた。
最後までのおつきあい、ありがとうございました!
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