風邪の日 【月夜譚No.247】
良くも悪くも頑張り過ぎてしまうのは、悪い癖である。そうと解っていながらも、こうして頑張り過ぎて周囲に迷惑をかけてしまうのだから、ほとほと自身が嫌になる。
彼は温かなベッドの上から見慣れた天井を眺めて、そっと溜め息を吐いた。
身体が熱くて、頭がぼんやりとする。ただの風邪ではあるが、一日布団の中にいるのは辛い。
昨夜は、ついつい後回しにしてしまっていた細かな業務を片づけるのに夢中で、気づいたら疾うに日付が変わっていた。慌てて帰宅して眠ったのだが、朝目覚めてみると発熱していて出勤できる状態になかった。
熱を出したのは、昨夜のことだけが原因ではない。ここ一週間、大事な案件を抱えていたから、少々の無理には目を瞑っていた。その積み重ねが今爆発したのだろう。
年齢が大人になったからといって、中身まで全て大人になるとは限らない。寧ろ、殆どの人が大なり小なり幼い自分を抱えて生きているのではないだろうか。
「パパ、だいじょうぶ?」
ふと声がして横を見ると、大きな瞳が彼を見つめていた。心配そうな表情に、彼は笑ってみせる。
「大丈夫だよ。今日一日寝ていれば、良くなるから」
それを聞いて花が咲くように笑う娘を見て、少しだけ元気が出てきたような気がした。