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(十四)ボッチくノ一、頑張ります! その九・悶絶試練

 三人は児雷、伊也を伴って壱の試練会場へ移動する。会場の広場には、長さ一尺ほどの棒が、今でいうボウリングのように一定の間隔で三角の形に十本並べてあり、それが幾つもあった。


「ここが、私たちの場所みたいね」


 凛は大会の職員から手渡された紙と、立札を見比べる。立札には『第参霊園』と書かれてあった。


「ここで、何をやるんですかね?」


 結衣は脇に積まれてある焙烙玉を見て、不思議そうな顔をする。とその時、またしても銅鑼が鳴った。


「皆の衆う! これより、『焙烙玉坊輪具』について説明するのであぁる!」


 音がした会場の中央には、いつの間にか平六が焙烙玉を持って立っていた。


「焙烙玉坊輪具とは! この焙烙玉を投げつけ、あそこに立ててある棒をなるべく多く倒すという、非常に単純な試練であぁる! どんなものかは口で言うより、見た方が早いのであぁる!」


 平六が促すと、黒子がやってきて焙烙玉の導火線に火を点ける。そしてそれを、十本並んだ棒に向けてゴロゴロと転がすように投げた。


 焙烙玉は並べてある棒の間を通ったところで爆発し、周囲の棒を何本か吹き飛ばした。


「わかったであるか、皆の衆う! 棒は焙烙玉自体で倒すか、爆風で倒すかは自由であぁる! 但ぁし! 焙烙玉は必ず転がすこと! そして、この線より外から投げることが決まりであぁる! これを各々が二投ずつ投げ、合計六回で倒した棒の総数を競うのであぁる! ……か~~、ぺっ!」


 以上が、焙烙玉坊輪具の説明であった。


「それでは今より、第壱の試練、開始であぁる!」


 平六の宣言の後に、銅鑼が一度大きく鳴らされる。これで、競技開始となった。


「しっかし、あの人の声といい銅鑼といい、いちいちうるさいわね。わざと、やってるのかしら」


「まあまあ、凛ちゃん、抑えて抑えて。きっと、大きな音を出さないと死んじゃうタイプなんですよ。さ、誰からやります?」


 結衣がさらっと流し、三人で投げる順番を話し合う。その結果、藤兵衛が最初に投げることになった。


「では、いきます」


 導火線に火を点けて狙いを定めるが、シュ~~という音につい気を取られてしまう。それでも狙いをつけて一投目を投げた。玉はゴロゴロと、棒のど真ん中に向かって転がっていく。


「お、お!? いいんじゃない!?」


 凛が期待の声を出すが、玉は一番手前の棒を倒してその先の棒の手前で爆発。両脇の棒が残るスプレッドの形となり、倒した数は六本であった。


「あ~、惜しい! せっかく真ん中に行ったのに!」


 凛は両手で頭を抱え、悔しがる。投げた藤兵衛の方も、この一投で競技の難しさがわかったようだった。


「なるほど。投げる場所だけじゃなく爆発する位置も予測して、投げるタイミングや転がす速度も考えるのか。なかなか奥が深いな」


 一投目が終わると、控えていた黒子たちが爆発地点の整地や棒の並べ直しを手早く行う。なかなか、手慣れた動きであった。続く二投目は、爆発のタイミングに気を取られたせいかコントロールが甘くなり、真ん中より少し横側に転がってしまう。それでも、爆発のタイミングはドンピシャで、八本を倒すことが出来た。


「ふう、まあ、こんなものか」


 二人目は凛であった。棒を狙う眼つきが異様に鋭い。


「私は倒しやすいと言われる、曲がる軌道で行くわ。……てい!」


(お前はやったことがあるのか?)


 凛の発言に、藤兵衛は心の中でツッコみを入れる。


 凛の放った一投目は、きれいな左曲がりの曲線軌道を描いて棒の中心部へと向かう。そのまま二本を倒したところで爆発し、倒したのは七本であった。


「あ、あれ? 全部いけると思ったんだけど、なかなか難しいわね。……それなら次は剛速球で行くわよ。うりゃあ!」


 気合とともに放たれた二投目は物凄い勢いで転がっていく。

 初めの棒を吹き飛ばし、その棒が別の棒を吹き飛ばし、おまけに近くにいた黒子まで吹き飛ばす。だが、速度が速すぎて、棒を大きく通り越したところで爆発した。結果、四本であった。


「あれま。……黒子は特別点とか入らないのかな?」


「入るわけないだろ…… (汗)」


 気の毒なことに、吹き飛ばされた黒子は担架で運ばれていった。


 最後、トリを飾るのは結衣である。彼女は、地獄の特訓(児雷にとってだが)を思い浮かべる。


「……児雷の頭で爆発、児雷の頭で爆発……」


「ゲコゲッコ!(やめい! そういうこと言うのは!)」


 怖いことを呟く結衣に児雷がツッコむが、彼女は気にしない。


「いきます! て~い!」


 気合を入れて投げたが、玉は全然違う方向へと転がってしまった。


「や、やばいですう!」


「ちょっとお! 結衣ちゃん!」


 思わず絶叫してしまう結衣と凛。だが、次の瞬間、奇跡が起こった。

 玉が地面に転がっていた石に乗り上げて、軌道を変えたのだ。そして玉は、そのままコロコロと棒の中心地点に転がって爆発し、十本全てを倒したのだった。


「え!? や、やりましたぁ!」


「う、うそぉ!?」


「すげ……」


 運が良かっただけであるが、それでも十本倒したことに変わりはなかった。続いての二投目は、軌道がわずかにそれたが爆発のタイミングはドンピシャで、四本倒すことが出来た。


 この結果、藤兵衛たち『伊賀の弐組』が倒した数は、総計三十九本であった。周囲を見ると、どの組も苦戦しているようで、合計一桁台という組もちらほら見えた。


「もしかして私たち、結構上の方なんじゃない?」


「うん! 私も、そう思いますう!」


 笑顔でうなずき合う凛と結衣であったが、その時、「ウォーー!」という歓声が聞こえた。何ごとかと周囲のざわめきに耳を傾けると、二投続けて十本倒した者が出たようだった。


「え!? すご! 一体、誰かしら?」


 人だかりが出来ている箇所に目を凝らすと、そこにはあのお爆が立っていた。


「焙烙玉は男と同じよ。上手くおだててやれば、勝手に転がっていくわ」


 前髪を手でかき分け、自信満々にお爆は語る。


「上には上が、いるものね……」


「はい…… さすがは『火薬使いのお爆』さんですう」


 二人はまだまだだと、気を引き締め直すのであった。


 ◇


 続いて、弐の試練が行われる会場に移る。そこには青やピンクなど、通常の食品ではありえない毒々しい色をした団子が積まれた皿が、机の上に並べられていた。


「次の試練って、もしかして……」


 凛の不安は的中する。毒々しい団子を眺めていると、またしても平六の大音声が響く。


「弐の試練は、早食いであぁる! 忍びは、いつ任務が舞い込んでくるかわからない。また、任務中は、いつ食事が出来るかわからない! よって、食事は手早く済まさなければならないのであぁる! 皆の前に置かれた団子は、そんな忙しい忍びに最適な非常用栄養食、『須田(すた)御名(みな)団子』であぁる! これを三人で、いかに早く食べるかを競う試練であぁる!」


「やっぱり……」


「そうじゃないかと、思ったけど……」


「これ、食べられるんですか? なんだか、きつい匂いがしますけど……」


 結衣が鼻をつまみながら話すのは、団子から強烈な匂いがしてくるからであった。とその時、


 ____ぷ~~ん


虫が一匹飛んできた。その虫は団子の上空に差し掛かった瞬間、勢いを無くし、そのまま地面にぽとっと落ちた。


「「「………… (汗)」」」


 三人は絶句してしまう。


「尚、この須田御名団子は栄養満点で保存も効き、忍びの間では古くから伝わる伝統料理であぁる! 材料は、トカゲにくさや、梅干し、あとは秘密であぁる!」


「トカゲ……」


「くさやに梅干し……」


「あとは秘密って……」


 ただでさえテンションが下がった状態に、中身の説明がトドメとなり、更にテンションが下がる。


「それでは弐の試練、開始であぁる!」


 そんな三人の様子などお構いなしに、開始の銅鑼が打ち鳴らされた。


「「「…………」」」


 しばし黙っていた三人であったが、やがて覚悟を決める。


「黙っててもしょうがないし、こうなったら三人いっせ~ので食べましょっか」


「そうだな……」


「そうですね。もしかすると、味はいいのかもしれませんし」


 その可能性はゼロに近いだろうな、と藤兵衛は思ったが口には出さなかった。


「よし! じゃあ、いくよ! ……いっせ~~の!!」


 凛の音頭で、三人同時に須田御名を口に入れた。その瞬間、三人の瞳孔が開く。やはりと言うか、恐ろしく不味かった。


「う~ん…… ねっちょりとして、それでいてぬっちょりとし、歯や歯茎にまとわりついて、時折鼻の奥を抜ける何かが腐ったような臭い…… 人生初かもしれない」


「ちょっと、やめてよ。そう具体的に解説されると、余計に不味く感じるじゃない」


 凛がげんなりした様子で注意を入れる。


「なんでしょうね、これ…… 非常用じゃなくて、拷問用じゃないでしょうか」


 結衣は泣きながら食べていた。

 当然のことながら、不味さに悶絶しているのは三人だけではなかった。周囲からは、


「うええ“~~~」


「おう“え~~、くせ~~」


などと、嗚咽や叫び声が聞こえ、中には、


「これ、う●こじゃねえのか!?」


などと、ぶっちゃける輩もいた。白目を剥いたり、口から泡を吹いて失神する者までおり、会場は修羅場の様相を呈していた。


 藤兵衛たちも一口食べては止まり、また一口食べては止まりを繰り返すが、凛が流れを変えようとする。


「こ、こうなったら…… 私の、奥義を繰り出すしか、ないわ」


「な、なんです、か、それは? 凛、ちゃん……」


 虚ろな目で結衣が答えると、凛は懐から紐のついた四文銭を取り出した。


「いい? 結衣ちゃん。これは、ちょっと柔らかい、みたらし団子よ。おいしい、おいし~いみたらし団子よ……」


 紐で垂らした四文銭をゆらゆら揺らしながら、凛は語りかける。


「甘くておいし~~い、みたらし団子よぉ。決して、うん●じゃないからね……」


 凛の奥義とは暗示であった。もっとも、最後の方は本音が漏れ出ていた。


「みたらし、団子……」


 暗示が効いたのか、現実から逃げだしたい気持ちがそうさせたのか、結衣の須田御名団子を食べる速度が増す。


「おいしい、おいしい、ですう」


 結衣は瞳孔全開で団子をどんどん口に入れる。すると凛は、今度は藤兵衛を向き、四文銭を同じように揺らしながら怖い笑顔で、


「いい、藤兵衛さん? 食べなきゃ家賃が倍、食べなきゃ家賃が倍、だからね……?」


と、語り掛ける。


「……それは暗示じゃなくて、脅しだろ(汗)」


 冷静にツッコむが、本当にやりかねないので、藤兵衛も我慢して須田御名団子を食べ進める。そこに、怖い笑顔の凛も加わって、藤兵衛たち伊賀の弐組は早食い競争でも上位に入ったのであった。


 つづく

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