(十四)ボッチくノ一、頑張ります! その八・開会式
■この部分からの登場人物
・江島 平六:日本忍び協会会長。やたらと声がでかい。
・宗吉:柳生の里の里長。
「……ということがあったのよ」
「そうか…… なんか、面倒そうだな」
大会開始の時刻が近づき、藤兵衛と凛、結衣は開会式の会場で合流し、各々遭遇した人たちとのやり取りを伝え合っていた。
話を聞き終わった後に藤兵衛が会場を見回すと、遠くの方にお庭番衆が見えた。そのうちのお華が視線に気付いたのか、こちらを睨むように見返してきたので、慌てて逆の方に顔を向ける。すると、同じ伊賀の里のお爆がこちらを恨めしそうな目で見ていたので、すぐに元の位置に戻した。
「なんか、大会そのものより、人間関係の方が面倒だな……」
つい愚痴を口にすると、今度は凛が見つめてくる。
「何言ってるのよ、藤兵衛さん。私も初めは面倒だと思ったけど、よくよく考えたら売られた喧嘩は倍にして返さないと! そうやって立ちふさがる者はとことん叩き潰す、それが私たちの信条だったでしょう? もっと、気合を入れないと!」
「さ、さすが凛ちゃんですう。そうやって、自らを鍛えてきたんですね!」
相変わらずの過激発言だったが、結衣はなぜか感心する。
(そんな信条、お前だけだろ……)
呆れる一方で、凛の暴走も止めなければと、別の意味で藤兵衛も気を引き締めるのであった。
◇
開始時刻になった途端、
____ブォオ~~、ブォオ~~
と、法螺貝の音がけたたましく鳴り響いた。
「わっ! な、なに!?」
驚いて音がした方角を見ると、前方に設置された舞台の上に大男が立っていた。鬼瓦のような顔をした大男は、木製の拡声器を口元にあて、大声を出す。
「よくぞ集まった、全国の忍びたちよぉお!! わしが日本忍び協会会長、江島平六であぁぁる!!」
大声は会場中にビリビリと響き渡り、藤兵衛に凛、結衣の三人は思わず耳を塞ぐ。
「これよりわしの司会のもと、『第十五回 大忍羅漢競技会』を開催するのであぁぁある!」
あまりにうるさいので、時折「うるせー!」と野次が飛ぶが、平六という男は気にする様子は全くなく、大声を出し続ける。
「忍びとは、この弾幕に書かれているが如く、己を捨て、仕える主の為に、一心不乱に働く者であぁる! 例え、仕える主がどんなに馬鹿でも! どんなに阿呆でも! 顔で笑って心の中では唾を吐きかけ、『お仕事、ありがとうございます』と言って、黙々と用件を済ませるのが、理想の忍びなのであぁる!」
平六が立っている舞台の中ほどに弾幕が掲げられており、そこにはこう書かれてあった。
『世の中は 忍んでなんぼ ホトトギス 江島平六』
「な、なんなの? あの声が馬鹿でかい人は?」
「あの人は、有名な方なんですよ」
凛が耳を塞いだまま尋ねると、結衣もまた耳を塞ぎながら説明する。
「なんでも忍びとしては優秀だったんですけど、仕えてた主人の阿保っぷりに我慢できず、つい殴ってしまったことがあったんだそうです。そのせいで忍びをクビになったんですけど、漢っぷりが気に入られて協会に拾われたそうで。自分の過ちを反面教師にして忍びの心得を伝えている方で、業界では有名なんですう」
「ぎ、業界、ね…… (汗)」
平六の大音声は続く。
「この大会はぁ、全国の将来有望な忍びが集まり、日頃の研鑽の成果を試すとともに、忍び全体の技量を上げることが目的であぁる! 従って、勝利するのみが、目的ではなぁい! しかぁし! ここで良い成績を残したものは、お役目が選り取りみどりであるから、明るい未来が待っているのであぁる!」
ここまで言うと、いったん、
「か~~~、ぺっ!」
と、痰を吐いた。
大きな声を出すせいで痰が絡みやすいのだろうが、大勢の前でやるのは如何なものかと藤兵衛は思った。案の定、凛と結衣は顔を引きつらせている。
「ではここで、審査員の方々を紹介するのであぁる! 審査員はいつもの通り、各里の里長が務めるのであぁる!」
平六が促すと、各里の長が壇上に上がり、用意された座布団に腰をおろす。平六が甲賀、真田、と参加した里の長達を紹介していく中には、当然伊賀の里長、伊蔵の姿もあった。
「そして、なんと! 今回は、これに加えて特別審査員もいるのであぁる!」
ここで平六は、気合を溜める。
「伝説の名誉仮忍、お梅嬢の代役として来て頂いたのは、江戸を昼も夜も賑わす華、ひさ子嬢であぁる!」
紹介されて現れたのは、ひさ子であった。
「は~~い、みんな~。今日は頑張ってね~~」
ひさ子は皆に手を振り、愛想をふりまく。それを見て、凛はガクッと膝を崩す。
「な、なんで、ひさ子さんが審査員なのよ!」
「そう言えば、代返だとか言っていたな……」
藤兵衛は、そのことを凛に話していなかったことを思い出す。
「あ、あの! あの方は、藤兵衛さんたちのお知り合いなんですか!?」
一方、ひさ子との関係を知らない結衣は、驚愕の表情を浮かべる。
「ま、まあね。仕事仲間というか、ご近所というか……」
「代返とはいえ、審査員と知り合いなんて、すごいですう!!」
歯切れの悪い回答ではあったが、結衣は自分たちへの尊敬度をますます高めたようだった。
舞台に目を向けると、伊蔵と隣の甲賀の長が間隔を空け、間に座るよう促す。
「ささ、ひさ子殿。早うこちらへ」
「あら、ど~も~」
ひさ子が間に座ると、長達は鼻の下をだらんと伸ばす。
「何か、飲みますかな? ひさ子殿?」
「そうねえ。じゃあ、お高いお茶でも、頂こうかしら」
「それなら、玉露のええのがありますぞぉ」
そんなやり取りの後、お茶会が始まる。両隣の長達は至極ご満悦の表情で、その様子はさながら夜のお店のようであった。
「うぉっほん!」
ここで平六が仕切り直すように、咳を一つ入れる。
「それでは続いて、代表あいさつに移るのであぁる! あいさつは、前回優勝の柳生の里長・宗吉殿であぁる!」
紹介の後、里長たちの端の方に座っていた男性が立ち上がり、平六から拡声器を受け取った。宗吉は痩身で背が高く、頭髪はロマンスグレーの、ナイスミドルな容姿であった。
「皆さん、遠いところからこの会場までお越し頂き、誠にお疲れ様です。しかし、せっかく来て頂きながらなんですが、今回も優勝は我ら柳生でしょう。この大会の目的は我ら忍びの技量の底上げなのですから、もう少し我らを脅かすぐらいに頑張ってもらわないと困りますな。……まぁ、我らの優勝を引き立てるよう、せいぜい頑張ってくだされ」
外見とは裏腹の、超上から目線のあいさつであった。あいさつの後、他の里長たちは苦虫を嚙み潰したような顔で宗吉を睨むが、宗吉はどこ吹く風といった表情であった。
「すごい挨拶だな……(汗) それだけ、自信があるってことなんだろうけど。だけど、柳生ってのは、そんなに凄いのかね?」
「実力は確かにあるんですよ。前の大会もその前の大会も、そして、さらにその前の大会も優勝は柳生で、三連覇中なんです。素質のありそうな子を集めて、小さい頃から英才教育をしているって噂です」
藤兵衛が呟くと、結衣が答えた。
「あれ? 三連覇ってことは…… じゃあ、その前は、結衣ちゃんのご両親?」
結衣は恥ずかしそうに、こくりと頷く。
「そっか。じゃあ今回は、なお更負けられないわね。藤兵衛さん、負けたら傘張りのノルマ倍にするからね、気張ってよ!」
「ええ“っ!」
凛の突然の通告に、藤兵衛は暫し絶句してしまうのだった。
「ではぁ! これより、競技会の内容を説明するのであぁる!」
大声が再び響き渡ると、どこからともなく黒子が現れて、舞台の上から垂れ幕を下ろす。
「競技会はまず、予選から行われるのであぁる! 予選は、各々方の体力と知力を問う試練をこなしてもらうのであぁる! 各試練の成績で得点が与えられ、総得点の上位五組だけが本選へ進むことが出来るのであぁる! 尚、眷属の参加は本選のみで、予選会では不可であるので、気を付けるようにぃ!」
今大会の種目は、次の通りであった。
―体の試練
其の壱:焙烙玉 坊輪具
其の弐:早食い『須田御名団子』
其の参:水上丸太渡り
―知の試練
筆記試験 全五十問
試練の内容を見て、周囲でざわめきが起こる。それをかき消すように、平六が締めくくる。
「それでは早速、壱の試練『焙烙玉坊輪具』、開始であぁる!」
言い終わると同時に、銅鑼がジャ~~ンと鳴らされたのであった。
つづく




