(十四)ボッチくノ一、頑張ります! その七・意外な場所で、意外な人と
■この部分からの登場人物
・ひさ子:ミステリアスな女泥棒。藤兵衛とは昔からの知り合い。
・お華、風丸、美流陀:お庭番衆の面々。
翌朝、藤兵衛たちは仮里の者と一緒に競技会の会場へと出発した。五年に一度の大きなイベントだけあって応援の者も多く、仮里の者はほぼ総出でのお出かけであった。伊賀の里からは藤兵衛たち、そして先日絡んできたあのお爆のいる組の二組が出場予定である。
湖のほとりにある会場に到着すると、藤兵衛と凛は驚いてしまった。
「は~、凄いわね。この人だかりは」
「確かに……」
会場は人、人、人でごった返していた。出場者だけではなく、競技会の関係者や応援の者も含まれているのだろうが、忍びの格好をした人たちがそこかしこにいた。出店まで出ており、そこでは食料品や道具、各々の里の特産品が売られ、まるでお祭りのような光景であった。
「それではわしは受付をしてきますでのう。大会は辰の刻(約午前八時)から開始ですじゃから、それまでは会場を自由に見物くだされい」
と、伊蔵は言い残すと、幕が張られた場所へ向かっていった。里の者も散り散りに分かれたので、藤兵衛たちも自由に行動することにした。
藤兵衛が一人で会場をウロウロしていると、後ろから声を掛けられた。
「は~い、藤」
「ん?」
振り向くと、そこにはひさ子がいた。
「あなたも大会に出るんだって? 応援に来て上げたわよ~」
「え!? ひさ子!? なんでここに!?」
「なんでって、お梅様から頼まれたのよ。審査員の代返をしてくれって。ついでに依頼の話も聞いたけど、凛と二人、仮忍枠で出場するんですって?」
今回の件は、お梅婆さんに手紙で一報を入れていた。そのため、仕事の関係上ひさ子の耳に入っていてもおかしくはなかった。
「まあな。でもどうせ、あの婆さんもこうなることを見越していたんだろ? ……ところで、仮忍って何なんだ? 知っているなら、教えてくれよ」
藤兵衛は鉢巻きを見せる。大会が始まったら付けるつもりでいたが、今はまだ恥ずかしさもあって付けてはいなかった。
「ん? 仮忍っていうのは、里の出身者以外でも忍びの仕事が出来るように作られた、派遣枠みたいなものね。まあ、仮っていうくらいだから本職じゃなくて、あなたがやっている傘張りの内職みたいなものよね。平和な時代になったせいか、忍びの世界は成り手不足になっちゃって、そういう制度を作ったそうよ」
「そうなんだ…… 長はちっとも教えてくれなかったよ」
「その制度、裏があるからね。だから、詳しく説明したくなかったんでしょ」
「裏?」
と、藤兵衛は、なぜか鉢巻きの裏を見た。
「その裏じゃ、ないってば。仮忍だけど、本人から辞退の申し出がない限り、ず~っと継続更新されるからね。あなたたちを手放したくなかったんじゃない?」
「そういうこと…… ん? ああ“!!」
藤兵衛が何かを見つけたようで、大声をあげる。
「なに? どうしたのよ、急に大声なんか出して?」
「こ、ここに、小さく、書いてある……」
鉢巻きの裏地のある部分を指して、藤兵衛がわなわなと声を震わせる。ひさ子が覗き込むと、そこには、
『仮忍は本人からの意思表明が無い限り、自動的に継続更新されます。あしからず』
と、書かれてあった。
「……本当ね。随分とまあ、ち~っちゃい字で書かれてるわね。よっぽど、知られたくないんでしょうね」
ひさ子が呆れたように言う。
一方の藤兵衛は、詐欺まがいのやり方に怒りが湧き、
(大会が終わったら、辞退宣言してやる!)
と、心に誓った。
「大会が終わったらどうするかはあなたの勝手だけどね。ちなみに、お梅様は『名誉仮忍』らしいわよ。……もっとも、仮忍も特別なことが無い限り仕事もないみたいだし、忍びの数の水増しの意味合いもあるみたいよ」
「? 水増し? どういうことだ?」
「忍びたちも組合みたいなのを作っていて、自分たちに有利な政策をするよう、幕府に圧力を掛けるんですって。そのための水増しよ。数は力なりって言うでしょ?」
「……随分、現実的だな」
「ま、忍びの世界も、世間一般と同じってことよね。まあ、そのことはともかく、大会では頑張ってよね。面白かったら、高得点付けてあげるからさ」
そんなことを言い残すと、ひさ子は去っていった。
◇
一方その頃、凛は結衣と一緒に会場を見て回っていた。二人で出店を覗いたり、飴を買ったりと、半ばお祭り気分で楽しんでいると、後ろの方で自分を呼ぶ声が聞こえた。
「あ! あの時の、茶髪娘!」
「ん?」
何ごとかと振り向くと、そこには見覚えのある女性が立っていた。
「そういうあなたは…… あ! お庭番衆とかいうへっぽこ集団!」
あの時は五人組だったと記憶していたが、今はお華とかいう女性に、戻ってくる鎌を投げて自滅した風丸という男性、それに見慣れぬ男性を加えた三名だった。(第四話参照)
「(凛ちゃん、この人たちがあの……?)」
「(そ。あのお庭番衆の人たちよ。公方様を守る最後の砦のはずだけど、スッカスカなのよ)」
結衣が小声で尋ね、凛もひそひそと返す。
「聞こえてるわよ、茶髪の! そもそも、なんであなたがいるのよ? 忍びの関係者しか、ここにはいないはずよ!?」
「そりゃあ、私たちも出場するからよ。伊賀の里としてね」
凛は例の仮忍鉢巻きを突き出してみせた。但し、『参上!』の部分は、手で隠すように持っている。
「な、なんですってえ…… てことは、あの隻眼の男と、泥棒女も!?」
「ひさ子さんはいないわ。私と藤兵衛さんと、ここにいる結衣ちゃんの三人よ」
お華は結衣を睨むように見ると、すぐに凛を見た。
「こ、これは、ライバル出現ね……」
お華がぼそっと呟き、後ろの二人も驚いた表情をする。
「え? そう言うってことは、あんたたちも出るの? この大会って若手が出るんじゃなかったっけ? どう見てもあなたは、年がいってるように見えるけど……」
凛が言うと、風丸が「ぷっ」と吹き出した。お華は風丸に、すぐさま肘打ちを食らわす。
「相変わらず、ずけずけ言うわね、この茶髪娘は…… って、そもそも出る羽目になったのは、あんたたちのせいなんだからね! あの一件の後、上からたっぷり絞られて、一からやり直せって無理矢理出場させられたのよ! あと、付け加えるけど、この大会は若手が多いってだけで、特に年齢制限は無いのよ!」
最後の方は、特に強調するように話す。
「私たちのせいにしないでよ。あんなぐだぐだやっていた、自分たちのせいでしょ! 解雇されないだけマシだと思いなさいよ!」
言い返すと、凛はあることに気付いた。
「ん? ってことは、出場するのはそこの三人で? そっちの男の人は新人? あの時にはいなかったわよね?」
凛は見慣れぬ細身の男性を指さした。男性は、どこか悟りを開いたかのような遠い目をしている。お華は、ことさら驚く表情をした。
「な…… あんた、自分が追い詰めた男を忘れたの?」
「へ?」
「あれは美流陀よ! 腕相撲で勝負したでしょう!?」
「あ、ああ…… あれ、ね」
これでやっと凛は、腕相撲で返り討ちにした男性だと思い出した。あの時は筋肉盛り盛りだったが、今はその面影が全くないほど、スレンダーな体型である。かろうじて、顔に面影が残っている程度だった。
「あの一戦のあと、自分が今まで積み重ねてきたものが信じられなくなったみたいで……」
「お華さん。これからの時代は、筋肉じゃないですよ。筋肉は適度にあればいい、細末緒の時代ですから」
お華が美流陀を向くと、彼は乾いた表情で語る。顔には覇気が感じられず、どこかを彷徨っている感があった。
「うう…… 昔は暑苦しいほど熱かったのに、今はこんなに冷めてしまって……」
お華は目に手拭いを当てる。その後、すぐに凛を睨みつけた。
「あんたも、あの男も出るってことは丁度いい機会だわ! あんた達には、負けないから!」
「ふふん、やれるものならやって見なさいよ。私たちの、若い力で返り討ちにしてあげるわ」
『若い』の部分を特に強調すると、お華は苦虫を嚙み潰したような顔になる。後ろの二人は巻き込まれたくないのか、素知らぬ顔をして、あらぬ方向を見ている。
「覚えておきなさいよ! ……風丸! 美流陀! 行くわよ!」
そう言うと、お華たちはどこかへ去っていった。
三人の姿が遠くなったところで、結衣が興奮した面持ちで語りかけてくる。
「あ、あれがお庭番衆の方たちなんですね…… 見るからに、腕が立ちそうな人たちでした」
「え? そうなの?」
「そうですよ! ……でも、ああいう人たちにライバル視されるだなんて、凛ちゃんはやっぱりすごいです!」
「……それは、どうも……(あまり、ありがたくは、ないなあ)」
結衣はあの場にいなかったから目が曇っているのだろうと思う一方、あのお庭番衆に大会の間絡まれるのかと思うと、小さなため息が漏れ出るのであった。
つづく




