表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/262

(十四)ボッチくノ一、頑張ります! その四・大忍羅漢競技会

 こうして藤兵衛と凛は、伊賀の忍び、結衣と一緒に忍びの大会に出ることになった。まずは競技会の具体的な中身について、長の伊蔵から簡単な説明をしてもらう運びとなった。


「競技会が開かれるのは、五日後ですのじゃ。この大会は五年に一度開かれましての。国中のあちこちにある忍びの里から将来有望な若手が集まり、技を競い合う名誉ある大会なのですじゃ」


「忍びの里は有名なもので私たち伊賀や甲賀があるんですけど、実はたくさんあるんですよ。真田(さなだ)伊達(だて)柳生(やぎゅう)などもあって、それこそこの国の各地域に一つは忍びの里があるって言っても過言じゃないんです」


 伊蔵の説明に、時折結衣が補足を入れる。


「へえ~、そんなにあるんですね。……ちょっと気になったんですけど、他の忍びの里とは仲が良いんですか?」


 凛が何気なく尋ねると、伊蔵と結衣は顔を合わせ、渋い表情に変わる。どうやら聞いてはいけない質問だったようだ。


「それぞれ、ですね。私たち伊賀の場合、甲賀とは頻繁に交流があって、仲も良いんです。ただ…… 柳生とは……」


 結衣が言い淀んでいると、伊蔵がドスを利かせる声で言った。


「仲が悪い、どころではない。……あやつらは、敵じゃ!」


「「て、敵!?」」


 過激な言葉が出たので、凛と藤兵衛は驚いてしまった。伊蔵の表情がみるみる険しくなる。


「先祖が二代将軍のお気に入りだからと調子に乗りおってぇ…… 栄えあるお役目、『お庭番衆』をず~っと独占しておるのじゃ。おまけに我ら古参の忍びをいっつも下に見おって、あの新参者めらが……」


 色々と含むところがあるようで、怒りのボルテージがどんどん上がっていく。


「結衣! 競技会では、決して柳生に(おく)れを取ってはならぬぞ!」


「は、はいぃ!」


 結衣が気をつけの姿勢で答えると、次いで藤兵衛と凛をきっと睨みつける。


「藤兵衛殿に凛殿ぉ!」


「「は、はい!」」


 あまりの迫力に、二人はつい返事をしてしまう。


「大会では、勝利よりも、奴らの邪魔をすることに専念くだされい! 殴る蹴る、足を引っかける、落とし穴に嵌める、なんでもいいですぞぉ! でなければ…… でなければぁあ!!」


 ここで怒りが限界を越えたのか、プチっと何かが弾けた音がした。


「ううっ!!」


 突然伊蔵はうつ伏せに倒れ、慌てて結衣が近寄る。


「お、長~~~! しっかり! 発奮は良くないと、医者も申していたではないですか~!」


 結衣が背中をさすると、伊蔵ははぁはぁと息を切らしながら、起き上がる。


「こ、これは失礼しましたですじゃ。どうも柳生のこととなると、抑えが効かなくなってしまいましてのう」


「「…………は、はあ (汗)」」


 とここで、藤兵衛はお庭番衆という単語が気になった。


「あの~、さっき仰っていた『お庭番衆』って、そんなに名誉ある職なんですか?」


 凛と藤兵衛はひさ子の一件でお庭番衆とやり合った過去があり、その時の様子があまりにもぐだぐだだったため、お庭番衆とは大したお役目ではないと思っていた。(※第四話参照) 


 が、長の反応は違った。


「そりゃあ、公方(くぼう)様をお守りする最後の砦ですからの。忍びにとって、これ以上の栄誉はないですじゃ。……初代将軍の時は、我ら伊賀の忍びが務めておりましてのう。それを、あの柳生めが……」


「わ、わかりましたから! どうか、落ち着いて!」


 またしても発作を起こしそうになったので、凛が慌てて制止した。


「そ、そうだったんですね。前に会った時は、そんな凄そうな人たちには見えなかったですけど。ねえ? 藤兵衛さん」


「ああ。お笑い芸人を目指しているのかと思ったからな」


 藤兵衛の感想は本心からだった。だが、忍びたちの受け止め方は違った。


「ぬ、ぬわぁんとぉ! お庭番衆とやり合い、しかもお笑い芸人扱いしてしまうとは! これは頼もしい! これ以上の助っ人はない! のう? 結衣」


 伊蔵は大いに驚き、結衣も言葉が出ないようでこくこくと頷く。


「いやいやいや。もしかしたら、あの時のは補欠だった可能性もありますから。そんなに持ち上げられると、かえって重圧が……」


「あくまでも控えめな態度、さすがですな。しかし、藤兵衛殿の言う事ももっともですな。では、説明を続けましょう」


 伊蔵も結衣も期待をふんだんに込めた目で見つめるので、藤兵衛はなんだか疲れてしまった。


 伊蔵の説明によると、競技会の概要は次の通りであった。

 まず予選会として点数制の体力試験と知力試験があり、点数が上位の組だけが本選に進めるとのことだった。しかも、試験内容は当日にならないとわからないという。


「そうなの? どんな内容かもわからないんだ?」


「はい。だけど、忍びであれば出来て当然の内容が出されるって聞いてます。なので、基礎をしっかりやるのが確実かなと思います」


「たしかに、結衣ちゃんの言う通りね」


「しかし、体力はわかるけど、忍びで知力っていうのがピンとこないなあ……」


 藤兵衛がぼやくと、伊蔵が引き取った。


「そんなことはありませんぞ、藤兵衛どの。忍びはどんな危険に遭うかもしれませんし、生きて帰って報告するまでが忍びの義務ですからの。知力がなくては、危機を切り抜けることができませんじゃろ」


「まあ、確かに。でも、どういう試験内容なんだろ?」


「忍びの道具や歴史などの知識、それに算術、読み書き、浮気がばれた時の対処方法、などが過去に出ておりますな。まあ、これは過去の問題が載った『赤本』を軸に勉強すればよろしいじゃろう」


「……そんな本があるんですね。それに、浮気がばれた時の対処方法って…… (汗)」


 忍びの知識は奥が深い、と藤兵衛は思った。


「まあ、予選は何とかなりますじゃろ。問題は、やはり本選ですな」


「いや、何とかなるって、随分軽い…… で、本選が問題って、どういう意味です?」


 勝手に決めつけないで欲しいと思いつつ、藤兵衛は発言の真意を尋ねる。


「与えられたお題をいかに早く解くかの勝負になるのですじゃが、殺しさえしなければ相手の邪魔をしたりとか、罠に嵌めたりとか何でもありじゃからのう。じゃから、もしそこで柳生めの組がおったら、勝負のついでにぼっこぼこにしてもかまわん、ということですじゃ」


「いやだから、個人的な恨みは無いので……」


 むしろ、お庭番衆の方がこちらに恨みを抱いているのかもしれないと藤兵衛は思う。あくまで彼らが柳生の代表として出場し、そのうえでかち合ったらの話ではあるが。


「でも、お話だけ聞くと、凄い大会ですね…… 大会の名前とか、あるんですか?」


「おうそうか、言っておりませんでしたのう。その大会の名は『大忍(だいしのび)羅漢(らかん)競技会』と言いますのじゃ」


「……随分仰々しいというか、なんというか」


「確かに」


 藤兵衛と凛は、引き受けたことを少し後悔した。


「となると、大会までみっちり特訓しないとダメそうだな……」


「そうね…… あ、だから、お梅さんは日数が掛かるって言ったんだね」


「だな……」


 相変わらずの先を読む力の鋭さに、藤兵衛は舌を巻く。ここで凛が、う~~んと背伸びをした。


「よし! じゃあ早速、特訓を始めましょうか」


「おう」


「はい!」


 三人が立ちあがると、伊蔵が呼び止めた。


「待たれい、藤兵衛殿に凛殿」


「なんですか? 長」


「お二人は仮忍認定されましたからのう。その証拠となるものをお渡ししましょう」


 そう言うと、伊蔵は二人にそれぞれ鉢巻きを手渡す。


「この仮里は、あくまでも外から秘密にしておりますからのう。部外者のままですと、何かと不便な事がござろう。それを付ければ仮忍だと里の者もわかりますから、里にいる間は頭に巻いてくだされい」


「「は、はあ……」」


 気を遣ってもらうのはありがたかったが、返事はなんとも歯切れが悪いものになった。というのも、その鉢巻きには中央部に『仮忍参上!』の文字が書かれていて、恥ずかしいことこの上なかった。ついでにぺらっと裏返すと『仮忍特典』の文字と、仮忍になると受けられる数々の特典が、小さな文字で書かれていた。


「……あの、長」


「なんですかの?」


「仮忍って、なんですか?」


 つい口にすると、長の目が左右に動くのを藤兵衛は見た。


「ま、まあ、ある時は市民、またある時は忍び、のようなものですかのう。あまり、気にすることはないですぞぉ」


 最後はごまかすように笑っていた。明らかに怪しかったが、それ以上は答えてくれなさそうなので、二人は渋々、仮忍鉢巻きを頭に巻くのであった。


 つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ