(十四)ボッチくノ一、頑張ります! その二・わかる、わかるぞぉ
■この部分からの登場人物
・結衣:伊賀のくノ一。ポニーテールが特徴。
・伊蔵:伊賀の里長。
暴れ太郎を倒した後、藤兵衛と凛は自己紹介をするとともに、ここを訪れた目的を話すと、なんと結衣は尋ね人の伊蔵という人物を知っているとのことだった。それは渡りに船だと案内を頼むと、結衣は快諾した。
「でも、まさか、長の知り合いだなんて…… だから、あんなにお強いんですね! もう私、びっくりしてしまいました!」
結衣は興奮冷めやらぬという様子で、次々と話しかけてくる。そのはしゃぎぶりは、幼い顔立ちにポニーテールの髪型をした結衣とマッチして、なんとも可愛らしかった。特に凛とは話が合うようで、いつの間にか互いを『ちゃん付け』で呼び合うようになった。
「こっちも驚いたわよ、結衣ちゃん。たまたま見かけた人が、尋ね人を知っているだなんて。……でも、助かったわ。どうやって探そうかと思ってたから。ねえ、藤兵衛さん」
「ああ。あの婆さん、山奥にいるから探せ、運が良ければ迎えが来る、しか言わなかったからな。一歩間違えたら、遭難するところだったよ」
「あは。なかなか、凄い人なんですね~、そのお婆さんって」
こうして話してみると、結衣はどこにでもいそうな明るい少女であった。初めに見かけたあの光景は何だったのか、と藤兵衛が考えていると、凛がずばり尋ねた。
「ところでさ、結衣ちゃん。さっきのって、一体何してたの? 遊んでた、訳じゃないよね?」
あれが遊びだったとしたらちょっと痛いかも、と凛は考えている。問われた結衣は顔を赤く染め、言いづらそうに答えた。
「えと、実は、特訓してたんです」
「特訓?」
「はい。実は私、忍びの卵なんです。近いうちに忍びの大会があるので、それに向けて特訓中だったんです」
「あ~、そうだったんだね」
結衣が忍びであることは、服装から伺い知れたので別段驚きはなかった。忍びのことはよくわからないが、特訓であればあんな激しい真似をしてもおかしくはないだろうと、凛と藤兵衛はホッとする。が、もう一点気になることがあった。
「じゃあさ、結衣ちゃん。あの案山子は? なんだか、名前があったみたいだけど……」
「え“。あ、あれは、ですね…… その、仲間との、連携の訓練を、ですね」
凛が慎重に尋ねると、結衣は目をきょろきょろと左右に動かす。藤兵衛の目には、考えながらしゃべっているように見えた。
「ふ~ん。あ、わかった。里に仲間がいるけど、仲間には用事があったのね。だから一人で練習していたんだ」
「そ、そうそう、そうなんですよ。私、個人練習しないと、仲間の足を引っ張っちゃうから……」
結衣の表情が強張ったのを見て、藤兵衛は気付いてしまった。彼女は嘘をついていると。
(きっと、仲間なんていないんだ。長っていう人と山奥で二人きりで暮らしているんだ。それで、寂しすぎるから、大会だの特訓だのと勝手に妄想して、自分を慰めているんだ)
何故か藤兵衛はそんな妄想をし、結衣にいたわりの目を向ける。
(俺も見た目で避けられた時期があったからなあ…… わかる。その気持ちはわかるぞお、結衣)
右目の月光石のせいで気味悪がれ、孤独だった幼少期を思い出し、藤兵衛は結衣に仲間意識を持つ。
「偉いんだね~、結衣ちゃんは」
凛の会話、というか追及はまだ続く。
「あの案山子のこと、喬とか亮とか呼んでいたけど、それは実際の仲間の名前?」
「う“!」
結衣の動きが固まった。
(いけない、大家さん! それ以上、この話題に触れてはいけない!)
そう直感した藤兵衛は、
「と、ところで結衣。住んでいる山里って、まだ遠いのか?」
と、話題を逸らそうとした。
「あ、は、はははい! も、もうすぐですよ! 着いたら、すぐに長のところに連れていきますから」
渡りに船とばかりに結衣も藤兵衛の振りに乗っかり、案山子の件は避けられたのであった。
◇
その後すぐに山奥の中の、狭くはあるが開かれた土地に出た。ここが結衣の住んでいる山里であった。
山里は小さな集落で、粗末な建物が十数軒固まっている程度であった。見ると、畑仕事やら道具の手入れやらで人がぽつぽつと働いていて、こちらを珍しそうに見ている。
(あれ? 二人暮らしじゃないのか?)
こうして藤兵衛の妄想は、あっけなく崩れ去ったのであった。
結衣は案内するように二人の前を歩き続け、そのまま集落の中心にある、周りより大きな建物に入った。
「長、失礼します」
「おお、結衣か。どうした?」
囲炉裏の近くに老人が座っており、結衣が声を掛けると老人は振り返った。老人は白髪に加え、顔には多くの皺が刻まれていたが、背筋が伸び、かつ眼光が鋭く、一目見て只者ではないことがわかった。
「あの、長。長に用事があるという方を二名、連れて参りました」
「ほう、わしに用事、とな」
「あ、私、凛と申します」
「私は藤兵衛と申します」
結衣に続けて二人は自己紹介をし、そのまま尋ねた目的を話した。
「なんと、それではお二人は、梅殿のご紹介、ということですな?」
「ええまあ…… ただ、用件は何にも聞いていなくてですね……」
藤兵衛が頭を掻きながら話すと、結衣が口を挟む。
「あ、あの、長。梅殿って、もしや、長が話したことのある、あの伝説の!?」
「ああ、そうじゃ。伊賀の里に突然現れて食糧庫を荒らし、捕まえようとした忍びたちを次々と沈めた、あの『上方から来た災厄』と呼ばれた女性じゃよ」
「そ、そんなことがあったんですか……(何やってんだ、あの婆さんは)」
凛を見ると、普段はお梅婆さんを尊敬している彼女もさすがにこれは受け入れられなかったのか、顔を引きつらせていた。
「まあ、もっともそのことがきっかけで、その後の縁を結ぶことに繋がったからの。じゃから、特に恨んでなどおらんよ」
「そ、それじゃあ、そんな凄い方のお使いだから、あんなに強かったんですね!」
「……どういうことじゃ? 結衣」
怪訝に思った長が理由を尋ねる。結衣は興奮した面持ちで、暴れ太郎の一件を話した。
「……本当に凄かったんですよ! たった一撃で、壊しちゃったんですから!」
「な、なんと…… あの、幾多の忍びに『僕、もう忍びを辞めて田舎に帰ります』と言わせた、暴れ太郎をか……」
驚愕の目で長は見つめてくる。藤兵衛はというと、
(やば…… もしかして、弁償しろって言われるのかな)
と、内心冷や冷やする。
「これなら、任せられるかも、しれんのう」
長はポツリと言う。
「? なんのことです?(……よかった。どうやら弁償とかの話は無さそうだ)」
藤兵衛は聞き返しながらも、心の中では安堵する。
「い、いや、こちらの話じゃよ。……ところで結衣、すまぬが水を汲みに行ってくれぬかのう? もう、水甕が空でのう」
「はい、わかりました」
結衣は素直に従い、外へと出る。結衣が外に出るまで目で追った後、長は藤兵衛たちに顔を向けて話を切り出した。
つづく




