(十)新商品を売ろう その五・発明、サボン玉!
■この部分からの登場人物
・お梅婆さん:「いろは」のオーナー。裏世界も含め、色々な商売をしているやり手の婆さん。
「さて…… と。じゃあ、アイデアがある人は?」
凛が仕切ると、ひさ子が口火を切った。
「そうね・・ この商品の長所は、『ぬるぬる』にあると思うのよ。だから、そこをアピールして吉原とかに売り込みに行くのはどう? 具体的な使い方はね……」
「「却下」」
言い終わる前に、ひさ子案は凛と藤兵衛に即座に却下される。
「なによ~。まだ、何も言ってないじゃない」
ひさ子がぷんすか怒るが無視し、つづいて藤兵衛が案を出す。
「この液体、かなり滑るから防犯向けにはどうだろうか? 例えば、敵に追われた時に、こいつを撒いて転ばせるとか……」
「……敵に追われている人なんて、数えるぐらいしかいないんじゃない?」
藤兵衛案はあまりにもニッチ過ぎるという事で、却下となった。
「そう言うあなたは、何か案はないの?」
「そうですね…… 私は料理に使えればな、と思って。調味料に使われれば、数もそこそこ出るし」
「「「なるほど」」」
食い意地がはった凛らしい案であった。それならばと、早速調理をしてみた。
「とりあえず、煮物に使ってみましたけど……(汗)」
「……凄いわね、これ(汗)」
凛が手に持った鍋を覗き込んで、ひさ子は顔を引きつらせる。芋の煮物のはずなのだが、洗い汁の影響で全体的に泡立ち、かつ芋がぬらぬらとぎらついていた。はっきり言って、美味しそうには見えなかった。
「ま、まあ、見た目はよろしくないけど、食べてみると案外おいしいかも? ……ということで藤兵衛さん、味見お願いね」
「やっぱり……」
目の前に突き出された鍋を見て、藤兵衛は小さくため息をつく。そうして、おそるおそる口に運ぶと……
「ぶ~~~~!!」
やはりと言うか、盛大に吐き出した。
「ちょっと! 汚いわね!」
「しょうがないだろ! これ、この世のものとは思えん味だったぞ!」
「やっぱダメか…… うん?」
ふと玉次を見ると、目を輝かせて藤兵衛を見つめていることに凛は気付いた。
「どうしたんですか、玉次さん?」
「お、おい…… 今、口から泡を吐き出したよな?」
「そりゃあ、泡を食ってる感じでしたからね」
藤兵衛はまだ口から泡を出している。
「これだ、これだよ! これを工夫して、口から泡を出す遊び道具にすれば、売れるんじゃねえのか? こりゃあ逆転満塁放夢乱だ!!」
「……はあ」
「放夢乱?」
「いいから、だれか水をください」
三人は玉次の言うことがよくわかっていなかったが、この瞬間、世にいう『シャボン玉』が考案されたのだった。その後玉次は工夫を重ね、中が空洞の茎の先端に洗い汁をつけ、息を吹くことで泡玉を飛ばすことに成功する。商品名も異国風にした方がウケるだろうと、『サボン玉』と命名した。
これを売り出したところ、瞬く間に子供たちの間で大人気となり、玉次は『サボン玉屋』として大成功を収めたのであった。
◇
玉次がサボン玉を売り出してから、一月が経過したころ。
「ありがとう。凛ちゃん、藤兵衛さん。おじさん、夢が叶ったって大喜びしてたわ。ぎっくり腰も落ち着いたみたいだし」
「いやいや。結局、サボン玉を考え出したのは玉次さんだったし、私たちは何もしてないわ。ね、藤兵衛さん」
「ああ。……今回は勉強になったよ。物を売ることの難しさが、身に沁みてわかったよ」
『よろづや・いろは』で、せりが凛、藤兵衛と会話を交わしていた。
「ほう。あんたにも商売の大変さがわかったってことかい」
とそこへ、ここの女主人であるお梅婆さんが話に加わる。
「ええ、お梅さんがいかに凄い人なのかがわかりましたよ。という事で、これをどうぞ」
「? なんだい、これは?」
藤兵衛が差し出したのは、一見ふつうの煙管だった。
「これは俺からの贈り物です。尊敬の念と、日頃の感謝の意味も込めて、です」
「へぇ、あんたが贈り物かい。初めてじゃないかい?」
満更でもない様子で、お梅婆さんは煙管を受け取る。
「実はこれは新しい商品でして、吸うんではなく息を吹くんですよ。ささ、試してみてください」
「そうなのかい? ま、やってみるさね」
言われた通りに息を吹くと、サボン玉が凄い勢いで、もこもこと飛び出してきた。
「な、なんだいこりゃ! 変な玉が出て来たよ」
泡を見て、お梅婆さんは腰を抜かさんばかりに仰天する。
実はこの煙管は、藤兵衛のイタズラであった。日頃こき使ってくれるこの婆さんに、文字通り一泡吹かせたいと仕組んだのであった。あまりの驚きぶりに藤兵衛はもちろん、横で見ていた凛とせりまでくすくすと笑った。
「どうですか? お梅さん? これ、巷で評判のサボン玉っていうやつなんですよ。気に入りました? ……はっ!」
藤兵衛は大笑いしていたが、途中で表情が固まってしまう。というのも、お梅婆さんの顔つきがみるみる険しくなったからだ。
「藤兵衛…… あんまり、年寄りをからかうんじゃない!!」
「あ、いや、ちょっと! 軽い冗談じゃ…… うげえぇ!」
冗談で済まそうとしたが、時すでに遅し。藤兵衛は、お梅婆さんにボッコボコにされたのであった。
~新商品を売ろう・完~ 次話へとつづく
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
この話は展開が上手く進んだと、自画自賛している作品になりました。思いがけないところから、ヒット商品が生まれる…… この小説にも起こればなあ、なんて考えています。
面白かったら、感想やブックマークをして頂けると筆者のモチベアップになるので、よろしくお願いします。 それでは、次話もよろしくお願いします。




