(九)麗しの女道場主 その二・運命の展開! ・・・と思いきや
■この部分からの追加人物
・お梅婆さん:「いろは」のオーナー。裏世界も含め、色々な商売をしているやり手の婆さん。
・太刀音:極道場の女主で、剣術の凄腕かつ小町番付『横綱』の美女。
遅い昼食の後、藤兵衛は凛をいろはまで送っていく。送るついでに、裏稼業の有無を確認するつもりでいたのだ。最近は裏稼業の依頼もなく、藤兵衛は暇を持て余していた。
いろはに着くと、お梅婆さんが珍しく店に出ており、藤兵衛を見るや声をかけてきた。
「お、藤兵衛。ちょうどいいところに来たね」
(もしや、裏稼業の仕事か?)
若干期待し、
「なんでしょう? お梅さん」
と、明るい声で返事をしたが、残念ながら期待したものではなかった。
「ちょいと、お使いを頼まれてくれないかい? どうせ暇だろ?」
(ゔ! (グサリ))
暇であることは事実なのだが、こうもストレートに言われるとさすがに刺さるものがあった。しかし、顔には出さず、
「暇ではないですが、お梅さんの頼みなら断れませんね! で、どちらまで?」
暇ではないことをあくまで強調した。
「橘町にある、極道場さ。そこに荷物を届けて欲しいんだよ」
これを聞いて藤兵衛は驚いた。
(なんと! 極道場って、さっき見かけた太刀音さんの道場じゃないか。もしかしてこれは、運命ってやつか?)
「わっかりました! お任せください! この命に代えても届けてみせます!」
逸る気持ちを抑えるが、話す言葉に少し漏れ出てしまった。
「何を大袈裟な…… まぁ、いいや。ちょっと多いけど、頼んだよ」
すると、お梅婆さんから大きな風呂敷を背負わされ、おまけに空いた両手には、手提げ箱と包みも持たされた。
(え“、なんですか? この大量の荷物は……)
しかし、藤兵衛はへこたれなかった。
(なんの! 美女との出会いには、障害はつきものよ!)
自分に言い聞かせて奮起すると、ぞくり、と背中に冷たいものが走った。
(い、今のは……?)
そ~っと後ろを振り返ると、凛が怖い顔をして立っていた。目は笑っているが、こめかみ周辺に幾つも青筋が浮いているのが見えた。
「あ、あの…… 凛、さん?」
おそるおそる声を掛けると、凛はお梅婆さんの方を向く。
「お梅さん、私も行きますね! さすがにこの荷物は、一人では無理ですから」
「そ、そうかい? なら二人で頼むよ」
凛の気迫に押されたのかお梅婆さんはあっさりと承諾し、結局、凛と二人で出かけることになった。
◇
極道場へと向かう道中、藤兵衛は凛が小さめの荷物を一つしか持ってくれないことに、不満をこぼす。
「おい…… 手伝うんじゃなかったのか? それと、なんでお前までついてくるんだ?」
「命に代えても届けるんでしょ? なら、頑張ってね。それと、ついて来たのは、藤兵衛さんが誰と知り合おうが勝手だけど、私も町道場ってのに興味があったからです!」
凛はぎろりと睨みつけながら、あからさまな嘘で返した。
(まったく、なんで怒っているんだ?)
藤兵衛はそう心の中で嘆き、大量の荷物を抱えながら凛の後ろを歩いていくのだった。
◇
やがて、二人は極道場へと到着する。道場は大きな屋敷で、正門まであり、しかも立派であった。
「すごいな…… 町道場って儲かるのか?」
「さあ…… けど、確かに凄いよね。お武家様の屋敷並みかも……」
二人は暫くの間、そろって門を見上げる。その後、声を掛けようとすると、
____バタァン!!
と、急に門が開き、続いて数人の男が飛び出してきた。
「「「ひ、ひい~~、お、おたすけ~~~!」」」
男たちは悲鳴を上げながら、遠くへ走り去っていった。
(な、なんだ? 一体?)
慌てて男たちを避け、逃げ去る男たちの後ろ姿を呆然と見送っていると、続いて女性が姿を現した。お目当ての、太刀音という女道場主であったが、なぜか彼女は興奮気味で、片手には竹刀を持っていた。
「あ、あの……」
藤兵衛が話しかけると、太刀音は振り向くやいなや、
「む。まだ、仲間が残っていたのですね。こちらに来なさい! その腐った性根、叩き直してあげます!」
と、襟首を掴んでずるずると藤兵衛を引っ張っていく。
「え、え? あの? ちょっと、凛さん、助けて~~~!」
藤兵衛は何が起きたのかわからなかったが、ひどい目に遭う予感がし、凛に助けを求める。
(ふん、いい気味よ。下心見え見えだったし、いっぺん性根を叩き直してもらえば?)
だが、凛は引きずられる藤兵衛を冷たい目で見るだけであった。
つづく




