表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/262

(八)馬よりも速く! その五・なんとか辿り着いた、と思ったら

「ちくしょ~~~! 今度会ったら、文句を言ってやる~~!!」


 お梅婆さんにまんまと乗せられ、藤兵衛は囮となって逃げ続けていた。だが、体力には限界というものがある。追手、特に馬に乗った者たちが次第に距離を詰めてくる。


「く、くそ! こうなったら!」


 ここで藤兵衛は道を外れ、柵を飛び越えて狭い道に入った。すると、追手は馬から降り、後方にいる徒歩(かち)勢と離れた状態で追いかけてくる。


(よし、あの数ならいける!)


 藤兵衛はくるりと反転し、先行した数名を挟み箱でぶん殴る。その後はまた逃げ、ばらけたところをまた反転して数名倒すというヒット&アウェイ作戦に出た。


 だが、敵もただやられるだけではなかった。中には腕の立つ者もおり、斬りかかる者がいた。


「でぇい!」


 掛け声とともに向こうが振り下ろした刀を、つい体が反応して挟み箱の柄で防ごうとする。


(まずい! 柄ごと斬られる!)


 一瞬あせったが、ガチン! となぜか刀が途中で止まった。


「え!?」


 何が起きたか一瞬わからなかったが、助かったとほっとし、相手を吹き飛ばす。その後、挟み箱をよく観察すると、柄に鉄棒が仕込まれていることに気付いた。


(どうりで重いと思ったら…… ってことは、最初からこうなると踏んでたのか!)


 そうして走吏屋の主人も、お梅婆さんとグルであったことがわかった。


(な、なんだか…… 無性に腹が立ってきた!)


 上手く利用されたことに対して、腹の底から怒りが湧いてきた藤兵衛は、この後火事場の馬鹿力を発揮し、なんとかその場を切り抜けたのだった。


「うお~~~~! ちくしょ~~~~!!」



 ◇



 それから一刻(いっこく)後(約二時間後)。藤兵衛はふらふらになりながら、目的地である高近藩の大名屋敷に辿り着いた。


「こ、これを……」


 震える手で、預かった手紙を門番へと差し出す。


「ああ、これならさっき受け取りましたよ」


「え?」


 与太郎のことだと気づいた藤兵衛。


(すると、これは?)


 と思ったら、


「なので、もう間に合ってます。どうぞ、お引き取りを」


無情の宣告を突きつけられ、藤兵衛の意識は遠のいていった。


「そ、そん、な……」



 ◇



「う~ん、う“~~ん」


 翌日、藤兵衛は熱が出て、自分の部屋で寝込んでいた。重い挟み箱を持って走り回り、かつ大立ち回りまでこなしたせいで、体が限界を超えたのだった。おまけに、門番からのあの非情の一言が、トドメの一撃になったのだった。


 うなされているところへ、ひさ子が訪ねてきた。


「あら、藤、寝込んでるの? 珍しいわね。ところで、さっきこんな瓦版が出ていたわよ」


 そう言って、手に持った瓦版を藤兵衛の枕元に置いた。


「か、瓦版?」


 寝たまま、瓦版を手に取る。


『高近藩でのお家騒動、ついに決着!』


 そんな見出しで始まる瓦版には、次のような内容が書かれていた。


 長年、高近藩を牛耳っていた我目(がめ)(つい)派が擁立していた藩主が前藩主の本当の息子ではなく、別に本物の息子が見つかったこと。証拠として出てきた前藩主の書状が決め手となり、我目槌派は一夜で失脚となったこと。そして、証拠を隠滅すべく差し向けた追手は、謎の飛脚に倒されたことなどが絵付きで紹介され、隅の方には『真実屋』の判が押されてあった。


 これで藤兵衛は、自分が運ばされたものの正体に気付いた。同時に、これを完遂させるために、あの婆さんは自分を飛脚屋に誘ったのだと悟った。与太郎が運んだ方が本物の書状で、自分はハナから囮にするつもりだったのだ、と。


「なんとなくは感じていたけど…… でも、本当だとわかると、やっぱりムカつく!」


 藤兵衛は思わず声を大にして叫んだ。


「? 何それ?」


 ひさ子は、訳がわからないという顔をした。


 とそこへ、


「おう! 藤兵衛、いるかい!?」


威勢の良い声と共に現れたのは、与太郎であった。


「お、元気そうじゃねえか。あの数に追われても無事だったってのは、梅婆の言う通り大した奴だな! 今度あったら、また頼むぜ!」


「嫌です」


 あんな目に遭うのは二度と御免だと、藤兵衛は即座に断りを入れる。


「ああ、そういうことね」


 ここでひさ子も、あの瓦版を手にとって、何があったのかわかったようだった。


 食い下がる与太郎と押し問答をしている所へ、凛がひょこっと顔を見せる。


「まあまあ、そんなこと言わずに。飛脚屋って、実入りが良いんだから」


 そうして藤兵衛をよそに、凛は算盤(そろばん)を取り出して与太郎と交渉を始める。


「これでどうですか?」


「う~ん…… ちょいと、高過ぎねえか?」


「こらこら! お前はいつから宰領屋になったんだ!」


 勝手に話を進めるので、藤兵衛は慌てて止めに入った。


「でも、藤兵衛さん、そうしたら生活どうするのよ? 当面、傘張りの仕事はなさそうだし」


「う!」


 それを言われると、つらかった。


「そうだぜ、藤兵衛。無職はいけねえな、無職は」


「うう“!!」


 与太郎からも言われてしまった。


 がっくりと肩を落としたのを了承と見てとったのか、二人は交渉を再開する。


(ああ、早く傘張りの仕事に戻りたい……)


 藤兵衛は天井を見上げ、心の底から願うのであった。


 ~馬よりも速く!・完~ 次話へとつづく

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました! 如何だったしょうか? 感想等ありましたら、今後の参考にしますのでぜひお願いします。


 今回登場した飛脚、与太郎は「与次郎稲荷伝説」の与次郎から名を頂戴しました。脚だけでなく、あっちも早いという設定になってしまいましたが、そこはご愛敬ということで。それでは次話以降もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ