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(七)ひさ子再び・その八 二組の戦い

(やっぱり、凄いわ……)


 凛は思わずため息をつく。目の前では、以前に吉佐たちと大立ち回りした時と同じ光景が繰り広げられていた。藤兵衛が一たび鉄傘を振るうごとに、相手は竜巻に触れたかのように吹き飛ばされていく。


 そして、同時にひさ子の動きにも目を瞠った。長さの異なる鞭を片方ずつ両手に持ち、目の前の敵は短い鞭で跳ね上げ、距離のある相手には長い鞭を叩きつけと、巧みに使い分けて敵を次々となぎ倒していく。


(え、え!? ひさ子さんって、あんなに強かったの!?)


 藤兵衛が腕が立つのは知っていたが、ひさ子の腕前もかなりなものであることに凛は驚いた。大勢いた敵は、この二人になす術もなく倒されていった。


 暫くすると、残ったのは臨在と闘吉、それに離れたところにいる吉佐だけとなる。臨在の顔には明らかに焦りの色が出ていた。


「お、お、お、おのれぇえい! 化け物めぇえ! こうなれば、儂自ら相手してやるわぁ! いくぞ! 闘吉ぃい!」


「おうよ!」


 呼応するように闘吉が藤兵衛の前に出る。すると一対二にはさせないと、ひさ子が臨在の前を防ぐように出る。結果、藤兵衛と闘吉、ひさ子と臨在の、二組が対峙する形となった。


 その様子を眺めていた吉佐は、この機を利用して逃げ出そうと太右衛門に水を掛ける。


「あ、あれ…… ここは?」


 目が覚めた太右衛門は、きょろきょろと辺りを見回す。


「……あ、あ! 白光鬼に鬼娘(おにむすめ)! どうしてここに!」


 そして、藤兵衛と凛の姿を認め大いに驚いた。吉佐は太右衛門が憑き物が取れたような顔つきになったのを見て、安堵する。


「良かったぜ、正気に戻ったんだな太右衛門。ここはもうもたねえ。隙を見てずらかるぞ」


「え? ずらかる? だって、あんなに仲間が……」


「……もう、あの二人しか残ってねえよ」


 吉佐が顎をしゃくった先には、気を失った兵助や信者が多数転がっていた。


「そ、そんなあ……」


 太右衛門の嘆きが、夜空に吸い込まれていった。


 さて、タイマン中の二組のうち、ひさ子と対峙していた臨在は、目の前に立つ女性の容姿や挑発的な顔に興奮したのか先に仕掛けた。


「こうなればぁあ! 貴様を、お持ち帰りよぉお!」


 かなりの重量がありそうな錫杖を、ひさ子目がけて振り下ろす。だが、ひさ子はそれを難なく(かわ)し、躱しざまに強烈な一撃を臨在の肩に食らわせた。


「うぅぐぉあ!」


 臨在はうめくが、それでも怯まずひさ子を睨みつけ、


「なぁんのぉお! まだまだぁあ!!」


と、吠えた。


 その様子を見たひさ子は、ペロリと軽く舌なめずりをすると、


「ふふ、見た目通りの頑丈そうな体ね。……いいわ、じっくりといたぶってあげるわよ」


 鞭をビシィン!と鳴らし、妖しい笑みを浮かべるのであった。



 ◇



 一方、外で待機をしていた主水は、合図が出るのを今か今かと待っていた。三名が突入してから、随分と時間が経過しているが未だに合図の花火がない。おまけに少し前には銃声まで聞こえたことが、主水を一層やきもきとさせていた。


「(与力殿! まだ突入しないのですか!?)」


「(まだです! まだ、合図がない!)」


 逸る部下を宥めていたが、実は主水の方があせっていた。


(一体、中の様子はどうなっている? それに、さっきの銃声は一体!?)


 主水の頭の中では、相反する考えがせめぎ合っていた。一つは想定外の事態が発生し、トラブルに巻き込まれたという考え。もう一つは、合図の前に押しかけて機を逃す訳にはいかない、という考えだった。


 悩んだ末に主水が出した結論は、


(きっと何か予測不能な事が起きたに違いない! あの美しい方を助けに行かねば!)


と、少々私情が混じっていた。主水は立ち上がり、号令を下す。


「皆の者! これより屋敷へ侵入するぞ! 突撃――!!」


「「「おおう!!」」」


 部下もこれに呼応し、主水一行は屋敷への突入を開始したのであった。



 ◇



 時を同じくして、藤兵衛は闘吉という小男と対峙していたのだが、少々戸惑っていた。それは闘吉の強さにではなく、相手が予測不能な動きをするためであった。拳を突き出してシャドーボクシングの動きをし、


「いくぞ!」


と、攻撃してくると思いきや、次には側転をして藤兵衛から離れる。それならと藤兵衛が仕掛けようとすると、


「くらえ! 我が必殺の!」


と、変な構えをするので距離を取ると、


「なんちゃって~~」


次の瞬間には相手をおちょくったようなポーズを取ってきた。


(なんだってんだ、こいつは!?)


 藤兵衛がいらつき始めた頃、離れた所から見ていた凛は相手の狙いに気付く。最初に藤兵衛が倒した兵助という男が目を覚まし、落ちていた火縄銃を拾って藤兵衛に狙いをつけたのだ。闘吉は自らを囮にして、時間を稼いでいたのだった。


(あ、危ない!!)


 凛は咄嗟に近くにあった樽を持ち上げると、


「おりゃあああ!」


兵助に向って力一杯投げつけた。


 ____ドゴォオ!


 樽は見事に兵助に命中し、派手な音とともに兵助はその場に崩れ落ちる。ここで初めて敵の狙いに気付いた藤兵衛は、凛に「ありがとう」と目で合図を送ると、一気に闘吉との間合いを詰めた。


「う、うお!」


 慌てた闘吉は防御態勢を取るが、藤兵衛は防御の合間を縫ってみぞおちに鉄傘を突き入れる。


「う、うげえ」


 闘吉は苦しそうな声をあげ、そのまま沈んだ。


 それと同じ頃、ひさ子の方も決着がついていた。鞭の連打を浴び、血だるまになった臨在は、


「く、く、くそぉお! まるで歯が立たんとはぁ! で、でも、鞭って…… 気持ちいぃぃぃい!!」


恍惚の表情を浮かべながら、大の字に倒れ込んだのであった。


 つづく

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