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(七)ひさ子再び・その七 やはり見つかり、そして戦う

「ふう…… 今夜は月が綺麗だねえ」


 右の頬に傷のある男が満月を愛でながら、一人屋根の上で月見酒をしていた。男とは吉佐であり、まだ仕事は残っていたが明日やればいいやと放り投げ、要はサボっていた。


「太右衛門のやつ、一体どうしちまったんだ……」


 吉佐は太右衛門の変わりようを気に病んでいた。あの修験者の三名が来てからというもの、頻繁に『儀式』とやらに参加し、組織の教義とやらに徐々に染まっていくのが明らかにわかった。


 発する言葉だけではなく、外見にも変化が現れ始めていた。目の光が暗くなり、まるで何かに取り憑かれたような…… そう、あの『信者』たちに似てきた。このままいけばどうなってしまうのかと不安になる以上に、気を病むだけで何ら解決策を持ち合わせていない自分に無性に腹が立った。


「ちくしょう!」


 ぐいっと、盃に注いだ酒を飲み干すと、何やら下で物音がする。


(なんだ?)


 訝しんで屋根の上から見下ろすと、三つの影が自分のいる蔵の入口で何かこそこそと動いているのが見えた。


「ひさ子さん、器用ですね……」


「そう? ま、一応泥棒だからね。こんな錠前外しなんて、軽いもんよ」


「自慢げに話すことじゃないけどな」


 ちょうどその頃、藤兵衛、凛、ひさ子の三名は大砲が保管されている蔵へたどり着き、ひさ子が二本の細い棒を使って蔵の錠前を外したところだった。その器用振りに凛が感嘆していると、屋根から、


「ちくしょう!」


という声が聞こえてきた。


「「「ん?」」」


 三名が何ごとかと仰ぎ見ると、こちらを見下ろしている短髪の男と目が合った。


「…………」


「「「…………」」」


 月明りの下、暫し無言で見つめ合う四人。暫くするとお互いに相手のことが誰かわかったようで、ほぼ同時に大声をあげた。


「「「ああ!!」」」


 その後は当たり前というべきか、吉佐は転げるように蔵から飛び降り、


「侵入者だ!」


と騒ぎ立て、三名は敵に囲まれる事態になる。


「やっぱ、こうなるのね」


「まあ、すんなり行く訳ないと思ってたけど」


「……あなたたち、何か特別な星の下にでも生まれたの?」


 どこか諦め顔の凛と藤兵衛に対し、ひさ子はやれやれとばかりに額を押さえるのであった。



 ◇



 わらわらと屋敷のあちこちから男たちが湧いて出てくる。その中に修験者の姿をした四名が混ざっていた。彼らは藤兵衛たちを睨みつけると、前に一歩踏み出る。


「お前ぇらかぁあ! 侵入者とはぁあ!」


 その中の一人、錫杖を持った大男が、大音声を張り上げた。


「(こいつらよ、藤。あの『儀式』を取り仕切ってたから、組織の上位者ってところね)」


「(この修験者の奴らか。しかし、やたらと声が大きい奴だな)」


 囲まれた状態でも、ひさ子と藤兵衛は冷静に小声でやり取りする。一方凛は、声が響いたのか両手で耳を押さえていた。


「(どうする、藤? まだ大砲は処分していないけど、『合図』を出す?)」


 ひさ子は懐に手を入れ、花火に手を添えていた。


「(……まだ、いいだろ。大した奴らじゃなさそうだ。……それと、ひさ子。お前、こうなるのを見越して満月の夜にしたんだろ?)」


「(さすが、頼りになるわ、藤。……満月の件だけど、念には念を入れて、ってことね)」


 藤兵衛はふっと笑い構えを取る。それを挑戦と受け取ったのか、修験者姿の大男がにやりと笑った。


「我らがぁあ、見つけたからにはぁあ! ただでは帰さぁん!」


 この言葉が合図だったのか、後ろの修験者姿の三名も一歩前に出た。


「錫杖のぉお臨在!」


「棒使いの兵助!」


「素手の闘吉!」


「そして、算盤(そろばん)の太右衛門!」


 それぞれ名乗るとともに見ていて恥ずかしいポーズを決め、終いには、


「「「「我ら四名、『()()軽鉄怒(かるてっど)』、見参!!!」」」」


 声を揃えて極めポーズを取った。


「「「…………は?」」」


 藤兵衛たちは呆気に取られたが、そのうちに凛が口を開いた。


「ツッコミどころはたくさんあるけど、あの太右衛門って人、あんな人だったっけ?」


「……さあ、ね(汗)」


 一方、囲いからやや離れたところで一部始終を見ていた吉佐は、


(太右衛門…… お前……)


と、せつなそうな眼差しを向けていた。


 相手に微妙な空気感が漂っていることなどはお構いなしに兵助と名乗った男が更に前に出ると、いきなり棒を振り回し始めた。


「おのれら、始末してくれるわ! 臨! 兵! 闘! 者! 階! 珍! 歩…… うごぉっ!!」


 話している途中で、兵助はあえなく藤兵衛の鉄傘で吹き飛ばされる。


「悪い…… あまりにも隙だらけだったもんで」


 すると今度は太右衛門が襲い掛かってきた。


「よくも兵助を! 食らえ! 我が算盤武術! 『黒和算(くろわっさん)!』」


 太右衛門は黒い算盤をシャカシャカ振りながら迫りくる。おそらく彼の心の中は『俺は何でも出来る。そう、神となったのだ』という状態なのだろう。はっきり言って、見ていてかなり痛かった。


「……なんだかなあ。ま、軽めに」


「おぶぇっ!」


 太右衛門の勇気はむなしく砕け散る。藤兵衛の手加減した一撃であえなく吹き飛ばされ、そのままノックダウンとなる。


「太右衛門! ……ったく、しょうがねえなあ」


 吹き飛ばされた太右衛門のもとへ、すぐさま吉佐が駆け寄った。


 いきなり二人を倒されたためか、残った二名はうろたえる。しかし、すぐさま次の行動に移った。片腕を上げて大きく振ると、藤兵衛たちの左手に火縄銃を持った集団が現れる。彼らは銃を構え、火縄には既に火がついていた。


「おのれらぁあ! こうなったら、ハチの巣にぃしてくれるぅう! 放てぇーー!!」


 臨在の号令で、銃を構えた集団が一斉に引き金を引く。だが、その少し前に藤兵衛は既に動いていた。


「凛! ひさ子! 後ろにつけ!」


 二人を庇いながら、藤兵衛は鉄傘を広げる。そこへ、先程の銃弾が降り注いだ。


 ____バババババン!!!


 ____キィンキン!


 二種類の音がほぼ同時に鳴る。


「やったかぁあ!?」


 臨在が嬉しそうな声を上げるが、藤兵衛は何事も無かったかのように鉄傘をゆっくりと下ろす。その時、藤兵衛の右目は妖しく光っていた。


「ありがと。助かったわ、藤。……それ見るの、久しぶりね」


「だ、大丈夫? 藤兵衛さん」


 ひさ子は軽く礼を言い、凛が気遣う。


「ああ、問題ない」


 藤兵衛は答えながら、臨在たちを見据えていた。


「な、なんだぁあとぉお! 傘で防ぐとはぁあ! あっと、驚く(ため)ごろぉおだぁあ!」


 一方、臨在たちの間で動揺が走る。同時に、太右衛門を介抱していた吉佐は光る右目を見て、


(ああ…… 終わった、な)


と、既に観念した。


「しかもその光る目とはぁあ、さてはおのれは妖怪かぁあ!? ええい、怯むな! ものども掛かれぃい!」


 臨在が掛け声を発すると、先ほど銃弾を放った者たちも含め、敵は刀や槍を手に取り始める。しかし、その前に藤兵衛は動き出していた。


「いくぞ! ひさ子!」


「あら、私も? ……ま、いいけど」


 敵の集団に突っ込む藤兵衛の後を、どこからか鞭を二つ取り出したひさ子が続く。


 尚、凛は蔵まで離れ、見守るのであった。


 つづく

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