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(六)筆は刀よりも強し・その七 一件落着?

 一方、置き去りにされた藤兵衛と凛は助弥の逃亡に怒っていたが、この場を切り抜けることに集中する。


「しょうがない。こうなったら、やるしかないな。凛は隠れてろ」


 そう言うと、藤兵衛は深呼吸を始める。すると、藤兵衛の右目がいつもよりも弱いが、ぼんやりと光り出した。


(あ…… 満月じゃなくても、光るの!?)


「「「な…… 目が!?」」」


 驚いたのは凛だけではなく、囲んでいる連中もだった。そんな中、世古兵衛と呼ばれた侍は一瞬怯んだものの、すぐさま太刀を振りかざし斬りかかってきた。


「きえぇぇぇい!」


 鋭い斬撃が藤兵衛を襲う。


 しかし、藤兵衛は身を翻してかわし、かわしざまに鉄傘を薙ぎ払う。だが、世古兵衛はその攻撃を刀で滑るように受け流すと、そのまま体が開いた藤兵衛に逆袈裟を仕掛けた。


「キャーーー!」


 凛は叫び、思わず手で目を覆う。


 ____ギィン!! ゴス!


 金属が擦れる音と、鈍い音が同時に響く。


 凛が恐る恐る目を開けると、そこには世古兵衛の刀を鉄傘の柄で受け止めた藤兵衛と、横腹に拳が突き入れられた世古兵衛の姿があった。


「ぐ……え……」


 やがて世古兵衛は膝が落ち、ゆっくりと崩れ落ちる。


「そ……そんな。庄喪内藩で一番の使い手なのに…… こうなったら、お頭! 数で一気にかかれば!」


 金蔵の号令に、頭を含めた度度須古組の連中がグイっと腕まくりをする。


「ち…… やっぱ、こうなっちまいやがったか。あの人たちにゃあ世話になってるんでね、義理でかからせてもらうから、どうか手加減してくれよ!」


 本心からではなく義理でしょうがなく戦うから手加減してね、的な感じでかかってきた。この後はいつもの展開となる。藤兵衛はあっちを突き飛ばし、こっちをぶん殴りで、度度須古組の連中を叩きのめすのに時間はさほどかからなかった。


「ひ、ひいぃぃぃいい」


「こ、こら夕日屋! 儂を置いていくな! ……お、お助け~~!」


 この結果に夕日屋はすぐさま逃げ出し、金蔵も後を追うように逃げ去るのであった。


「ふう、終わったな」


 藤兵衛が呟くが、右目は光ったままだ。


「あ、あの…… 満月じゃなくても、光るんだね」


 おずおずと、凛が話しかける。


「ああ、月光石の力を引き出すと光るみたいだ。光の強さは、月の満ち欠けに左右されるみたいだけど」


 凛は藤兵衛が普段の語り口調であることに、思わずほっとした。初めて見た時は、禍々しく光っていたように見えて、正直近寄り難く感じていたのだった。


 色々あったがこれで任務完了、と思っていた藤兵衛と凛はその場で硬直してしまう。なんと、助弥がいつの間にか戻ってきていたのだ。


「「……あ“」」


「まさか…… まさか、君が…… あの『白光鬼』なのか?」


 しかも、どうやら右目が光るところを見られたようだった。


(や、やばい)


 藤兵衛がうろたえると、凛が助弥の前に立つ。


「あ、あの…… 助弥さん。違うのよ、これは」


「違う?」


「そうよ。藤兵衛さんは確かに白光鬼だけども、『だった』なのよ。だから、今は昔と違うのよ!」


 必死に話す凛の姿を見て、助弥は何かに思い至ったのかやがて口を開いた。


「……わかってる。わかっているよ、凛さん」


「え? じゃ、じゃあ!」


「ああ。例え藤兵衛さんが白光鬼だとしても、過去とは違うのだろう。私は真実を追求する者だ。だから、自分の目で見たものを、真実と見る。君は、『あの』白光鬼ではないのだろう」


「……それでは?」


「安心したまえ。このことは瓦版にはしない。それに、二度も助けてもらったのだ、今までの瓦版も修正することにしようじゃないか」


 助弥の言葉に二人はほっとする。かくして一件落着……と思っていたのだが。



 ◇



 その二日後、藤兵衛が自分の部屋でくつろいでいると、あの時と同じ凛の切羽詰まった声が聞こえてきた。


「た、大変よ! 藤兵衛さん!」


 ____ビシャアン!


 そして、せっかく直した引き戸をまたしても破壊する。


(あぁ、またか……)


 倒れた引き戸を見て嘆いていると、凛が息せき込んで瓦版を突きつけた。


「こ、こ、これ見て!」


(? 瓦版には、しないんじゃなかったっけ? ……!!)


 手に取った瓦版には、次のことが書かれていた。


『一連の騒ぎの正体は白光鬼ではなかった! 本当の正体は、月からやってきた正義の味方、『月光仮面』だった!』


 瓦版には白い衣装と変な仮面を被り、変な二輪の乗り物に乗った人物が悪人を懲らしめている様子の絵も描かれていた。


「しかも、ここ……」


 凛が指さした箇所には、一回り小さくかつ跳ねっ毛がある、似た格好の人物も描かれている。


「…………(汗)」


 これが助弥の言った、『修正』なのだろう。二人組の正義の味方とすることで、白光鬼の情報に重ね書きしたのだ。


「まぁ……いいんじゃないか? 一歩前進ってことで(でも、こっちの方が恥ずかしいかも)」


「……藤兵衛さんがそう言うのなら、私もいいけど」


 凛は釈然としない様子であったが、実は藤兵衛と同じことを考えているのかもしれない。二人とも疲れたのか、この件にはこれ以上触れなかった。


 それから更に数日後のこと。『真美屋』から例の不正が暴露された瓦版が出回ると、世間はたちまち大騒ぎとなった。その影響であろうか、後日、大手読売屋・『夕日屋』と札差・金蔵の店はお取り潰しになり、庄喪内藩の勘定役もまたお役御免になり、お家取り潰しにまで至ったのだった。


 そして世間では、いつしか白光鬼の噂は誰もしなくなり、代わりに正義の味方『月光仮面』の話題で暫く盛り上がったのだそうな。


 ~筆は刀よりも強し・完~ 次話へとつづく

 最後まで読んで頂きありがとうございます。読売屋の話、如何でしたでしょうか?


 江戸話を書くのであれば、瓦版の話は絶対書こう! と、必死にネタを振り絞りました。お陰なのか、助弥のフレーズ『筆は刀よりも強し』は筆者のお気に入りワードとなっております(笑)


 今後もこういう江戸ネタ・人物を入れていきたいと考えていますので、これからもちょいちょいご覧になって頂ければ嬉しいかぎりです。

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