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(六)筆は刀よりも強し・その五 やっぱりな展開

 一息ついたところで、帰ろうと藤兵衛と凛が腰を上げたところ、えりが呼び止める。


「あ、よかった。まだいたのね、藤兵衛さん、と凛。お梅さんが呼んでるわよ。すぐ来てくれってさ」


 二人は嫌な予感がしたが、お梅婆さんの部屋にまたも向かう。


「あ! きみたちは今朝の!?」


 二人が部屋に入ると助弥が驚いた声を上げ、お梅婆さんは首を傾げる。


「おや? あんたたち知り合いだったのかい。これも縁ってやつかね」


 紹介の手間が省けたと思ったのか、お梅婆さんはさっさと本題に移った。


「助弥、さっき言っていた護衛役だけど、この二人が適任だと思うがどうだい?」


「「え?」」


「うむ! 君たちならば、大丈夫だ! 早速、明日からお願いするので、明日の朝に私の店まで来てくれ!」


「「ええ“!?」」


 藤兵衛と凛の意向など全く無視して話を進める二人。助弥にいたっては、返事も聞かずにこれでこの話は終わりとばかりに早々と帰ってしまった。凛と藤兵衛は暫し呆然とする。


(俺、一言も喋ってないんだけど…… それに裏稼業は控えるって言ったじゃん)


 これにはさすがにイラッときた藤兵衛は文句をまくしたてた。


「ちょ、ちょっとちょっと! 何勝手に決めてるんですか! ついさっき言ったじゃないですか、当分控えるって! 俺のことを記事にしようとしてる人の護衛って、何考えてんだ! バレたらどうすんだよ、このババァ!!」


 興奮のあまり、藤兵衛はついつい暴言も混ぜてしまう。最後の単語に反応したお梅婆さんは、すぐさま近くにあった火鉢を投げつけた。ボゴォッという鈍い音とともに藤兵衛の顔面に命中する。


「今度同じこと言ったら、こんなもんじゃないよ(怒)」


「はい…… (泣)」


「…………(汗)」


 この一撃には、凛も言葉が出なかった。


「まあ、大丈夫さ。『灯台下暗し』って言うだろ? 何とかなるさ」


(何とか『なる』じゃなくて、何とか『する』のはこっちなんだよ!)


 そう思ったが仕事を受ける側という弱い立場であることと、二度も火鉢を食らいたくない藤兵衛は渋々と助弥の護衛役を引き受けるのであった。



 ◇



 そうして早速翌日から、藤兵衛と凛は助弥の警護にあたった。しかし、警護だったはずが仕事の手伝いや雑用にこき使われ、挙句の果てには……


「よし、上手く忍び込めたな。これで不正を暴くことが出来る!」


 何故か、三人である屋敷の床下に忍び込んでいた。助弥がターゲットとしている札差・金蔵、大手読売屋・夕日屋、庄喪内藩勘定役・金数寄の密会の場を押さえるためである。


「あの~~、なぜ私たちも? それに、いつもこんなことしてるんですか?」


 凛が至極当たり前な質問をする。


「? 当然だろう? 君たちは私の護衛役なのだから、必然、私の助手となる。となれば、私が向かう先には常に共にあり、言わば一蓮托生の関係となる」


「「…………」」


 随分と自分勝手な解釈に、二人は呆れて声も出ない。


「それと後半の質問だが、こうでもしないと真実の情報など得られはしないのだよ。よって、これは真実の追求であるから、罪でもなんでもない。大事の前の小事というやつだ」


「……そうですか」


 これを聞いた藤兵衛は、狙いを付けられた側に若干同情してしまう。同時に、もしこれが自分に向けられたらと考えると、ゾクッと悪寒が走った。


「しっ! どうやら入ってきたぞ」


 上で何人かの足音が聞こえた。三人は会話を止めて耳を澄ますと、上にいるのは男性三人と女性が一人で、食事をしながら何かの相談をしていることがわかった。女性の声はほとんど聞こえず、給仕役と思われた。


「(なかなか肝心な話をしないな)」


 助弥が焦れ始めたところで、


「今度の…… 倉米を……」


と、聞きたかった単語が出てきた。そこで更に耳を澄ますと、他に『横流し』や『裏帳簿』、『金数寄様』といった単語や人名も出てくる。これらの言葉で、助弥の疑惑は確信に変わったようだった。


「(あの、助弥さん。何の話だったんですか? 今のは?)」


「(今のは私が裏を取りたかった内容だよ。私の見込んだ通り、札差で庄喪内藩の御用商人である金蔵と、庄喪内藩留守居役の金数寄がグルになって、藩の倉米を横流しして自分たちの懐を温めているんだ。そして悪事がバレないように、読売屋の夕日屋が情報操作、度度須古組が都合の悪い奴らを始末する役割を負っているんだよ)」


 凛の問いに、助弥はひそひそ声で説明する。


「(……そんなことしてるなんて、許せないですね!)」


「(まったくその通りだよ、凛さん。でも、これで裏を取れた。そしたら今度はこれを瓦版にして、追求するのさ)」


「(わかりました! 助弥さん、頑張ってくださいね!)」


 正義感に火が点いた凛は、助弥と同調し始める。

 藤兵衛は、凛が前のように暴走するのではないかと内心ハラハラしていた。そして三人が引き返そうとした瞬間、事件は起こった。


 ____ぶぶうっ!


 上にいる三人のうち誰かが、大きな音で放屁をかましたのである。そしてその衝撃で床下に埃が発生。それを吸い込んだ助弥が、


「は…… はっくしょい!」


と、盛大なくしゃみをしてしまった。


「(ま、まずい!)」


「(そんなこと…… あるの?)」


「(……やっぱりか)」


 こうして忍び込みがバレた三人は大急ぎで床下から這い出るも、度度須古組に見つかって囲まれてしまうのであった。


 つづく

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