(五)えれキテル! 平賀源内・その四 ひとりプレイ?
こうして半ば押し付けられる形で『からくり人形・花子』を預かることになった藤兵衛と凛は、とりあえず依頼を受けた旨をお梅婆さんに報告する。すると、予め話がついているのか、
「そうかい」
の一言だけで済まされた。その際に花子をちらりと見て、
「なんだか気持ち悪いねえ。それは、あんたの店にでも持って行きな」
と嫌な顔をされたので、花子は藤兵衛の部屋に居候することになったのだった。
それから数日後の暮れの六つ頃(午後六時ごろ)。『いろは』の仕事が終わった凛がいつものように土左衛門店の前まで来ると、ぼそぼそと藤兵衛の部屋から話し声が聞こえてきた。
(あれ? お客さんかな?)
そう思い様子を伺っていると、続けてこんな声がした。
「調子悪いのか? 花子。よし、それなら俺が見てやろう。さあ、まずは服を脱がしてあげよう」
(うん!? 今、花子って言ってたわね。……何? 今の台詞は?)
気になった凛は、思わず聞き耳を立てる。
「どれどれ…… ああ、なるほどここか。それじゃあ、良いものを入れてやろう」
(え!?)
「どうだ? 気持ちいいか?」
(えええ!!)
「もっと欲しいのか?」
(ちょっとぉおおお!!!)
ここまで聞くと、凛はもう我慢が出来なかった。
「何してんの!!」
叫び、勢いよく戸を開ける。すると、藤兵衛が花子を抱きかかえ、片手には筆を持ってぽかんと凛を見ていた。
「え、何って……?」
「いくら寂しいからって、人形相手になに変なことしてんのよ! この変態!!」
「へ、変態って…… ただ、油を差してただけなんだけど」
「へ? 油?」
「そう。花子の動きが固かったんで」
ここで、凛はやっと自分の勘違いに気が付く。
「そ、そうだったのね…… でも、誤解されるような発言はよしてよね! というか、人形相手に話しかけるのも、どうかと思いますけど!」
凛は気恥ずかしさを隠そうと、顔を赤らめて文句を言う。
「そんな事言われても…… 一人が長かったから、ついつい独り言が出るのかもしれない」
言い訳めいたことを言うと、藤兵衛は花子の構造について語り始める。
「ところで凛。この花子の構造、結構すごいぞ。動力はぜんまいなんだけど、そこに歯車を幾つも組み合わせて、色んな動きをさせてるんだよ。あの酸っぱい飲み物も、ここの革袋に入れるようになってて、これまた歯車が特定の位置にきたら開く仕組みになってるんだ。さすが、師匠だ」
「ふ~~~ん、そうなんだ」
熱く語る藤兵衛に対し、からくりには興味がない凛はそっけない返事をする。
「む、なんだその反応は。そんなだから、師匠のような天才が世の中に埋もれたまま……」
「はいはい、わかりました。……って、それよりいつまでその人形預かってればいいのさ?」
鬱陶しいので、話題を変えるついでに疑問に思っていたことを口にする。
「いつまでって…… いつまでだろう?」
藤兵衛はその件については、頭の中に全くなかったらしい。
「あのねえ……。 それと、ふと思ったんだけど、その人形って源内さんが作れるんでしょ? だったら、人形さらうより、源内さんさらったほうがいいんじゃない? 数だって作れるし」
「あ…… そう言われると、たしかに」
凛の指摘に、藤兵衛はハッとする。
「って事は…… 師匠が危ない!」
そう言うやいなや、藤兵衛は花子をおんぶしてすぐさま源内の家へと駆け出した。
◇
源内の家に到着する頃には、すでに日が落ちて薄暗くなっていた。そして家の周りには人だかりが出来ており、何が起きたのか尋ねると、強面の男が家に大勢押しかけていったとのことだった。
「師匠! 無事ですか!?」
急いで家の中に入ると、源内は数人を相手に奮戦しているところだった。
「おお! 藤兵衛でおじゃるか! ちょうどよかった。こやつら拙者と花子をさらおうと…… って、花子も連れてきたのでおじゃるか!」
「ええ、何かあるといけないと思って」
『花子』の単語に反応し、強面の男達が藤兵衛の方を振り向くと大いに驚いた。というのも、そこには女の子の人形を紐で背負い、鉄の塊のようなものを持った隻眼の男が立っていたからだ。
「なんだてめえは? 変な恰好して、変態か!?」
そう言って近づいてきた男の腕を、藤兵衛は掴んでひねり上げる。
「師匠の血と汗の結晶を馬鹿にするばかりか、師匠まで襲うとは…… 許さん!」
「い、痛ててて、何言ってんだ。変態ってのは、お前のことだ!」
腕を自分の元へ引っ張ると、男は腕をさすりながら続ける。
「いてててて…… まあいい、丁度よかった。その背負ってる人形を俺らに渡してもらおう…… ぐぇっ!」
台詞を言い終わらないうちに、男は強力な一撃を食らい吹き飛んでいく。
「こ、この野郎! おい、この変態を先にたたんじまうぞ!」
「「お、おう!」」
こうして押し入った男たちは、藤兵衛に狙いを定めて殴り掛かるのであった。
つづく




