(五)えれキテル! 平賀源内・その三 ランクアップ!×2
話がまとまって安心したのか、
「せっかく来たのでおじゃる。拙者の発明品を見ていくでおじゃるか?」
と、源内が誘ってきた。
「え、じゃあぜひ」
「あ…… えっと、私はちょっとお茶淹れてきますね」
藤兵衛は興味があったので誘いを受けたが、凛はお茶汲みを口実にまるで逃げるように部屋を出ていった。
そうして源内案内のもと、訪れたのは屋敷の角の方にある広い部屋だった。部屋の中はそこかしこに物が散乱しており、どうやら整理整頓が苦手な性格であることが伺い知れた。源内はそれらの中から一つずつ手に取っては説明をする。
「これは『撮像器』と言って、姿かたちを特殊な紙に写し取ってくれる器械でおじゃる」
「へえ、すごい」
「で、これが試しに撮ってみたものでおじゃるが……」
そう言って見せてくれたのは、一枚の写真。被写体は人なのだろうが輪郭がぼけぼけになっており、まるで心霊写真であった。
「…………(汗)」
次いで源内は、小さな薬包を手に取って紹介する。
「拙者、医学の心得も多少あるのでおじゃるが、その知識を使って開発したのがこの強力精力剤、その名も『猿の腰振り』でおじゃる。ただちょっと強力過ぎてぎっくり腰になる人が多発したせいで、発売中止にされてしまったのでおじゃる。……せっかくだから、お主も試してみるでおじゃるか?」
「……いえ、まだ大丈夫です」
(すごい名付けの感性だな…… (汗))
気分が乗ってきたのか、源内は次々と紹介してくる。
「これは寂しい独身男性の為に作った枕『牌乙枕』。こいつは喧嘩しても、これを使うことですぐ仲直りが出来る『夫婦羽織』でおじゃる」
そう言って見せてくれた枕は、頭を乗せる箇所が女性の胸をかたどった形状をしており、触るとぷにぷにしている。
(確かに、これなら気持ちよく眠れそうだ)
と、藤兵衛は変に納得する。
一方、羽織の方は背中のところに穴が一つ空いていて、おそらく二人羽織のように密着しながら着るのであろう。これで仲直り出来るかどうかは、よくわからなかった。
色々と紹介してもらったのだが、藤兵衛は発明がどうも下ネタ系に偏っていると気付き、凛が逃げるように席を外した理由も同時にわかった。
(たしかに年頃の娘には、きついかもな……)
そう思って発明品を見渡すと、がらくたと一緒に本もちらほらと見えた。もしかして、と思い源内に尋ねる。
「え~と、源内さんは本も書くんですか?」
「うん? まぁ、たまにでおじゃるが、書いているでおじゃる。主に春画本でおじゃるがの」
なんと! 春画本を書いているとは! と、藤兵衛は感銘を受ける。
「そうなんですか! 春画本も書けるなんて天才ですね! 先生!」
藤兵衛の源内に対する尊敬度が十アップ! ランクアップし、『えれ~キテるおっさん』から『先生』に格上げされた!
「そうでおじゃるか? それほどでもないでおじゃるが……」
褒められ満更でもない表情の源内は、オホンと意気込んた後に持論を語り出す。
「そもそも世の中の発展とは、人の心の奥底にある欲求を追い求めることによって成し得てきたものでおじゃる」
急に真面目な話を始めたので藤兵衛は少し面喰ったが、
(これは、なにかが始まる)
と直感が働き、真剣に耳を傾けた。
「その中でもエロスという欲求は、平和な世の中でしか追求出来ないものであるから、本来尊いものでおじゃる。したがって、そのエロスから産み出された春画も尊い、ということになるでおじゃる」
「はい、仰る通りです」
藤兵衛の受け答えする口調が変わる。
「しかし春画はただ単に尊いというだけではなく、多色化という刷り技術の革新を生み出し、美人画を発展させ、人間の想像力を大きく膨らませるなど、様々な成果をも産み出したのでおじゃる。このことから、春画とはもはや単なるエロスの枠組みを超え、『芸術』ないしは『文化』と呼んでも、過言はないのでおじゃる!」
「「!!!」」
源内の訴えるような言葉を聞いた瞬間、藤兵衛の体に衝撃が走った。源内の持論は、藤兵衛がが常日頃感じてはいたが上手く表現できずにもやもやしていた心の奥底の想いを、見事に言葉で表していたのだ。藤兵衛は思わず両手を床につき、
「し、師匠と呼ばせてください!」
と、源内に土下座をするのだった。
____藤兵衛の源内に対する尊敬度が百アップ! 一気に最高ランク『師匠』に登り詰めた!
その頃の凛は発明品に関わる時間を減らそうと、なるべくゆっくりとお茶を淹れていた。お茶が淹れ終わると、はぁとため息をつき、
(しょうがない、行くか)
と、覚悟を決めて部屋を訪れる。すると、不思議な光景を目の当たりにした。藤兵衛が何故か正座をして源内の説明に聞き入り、しかもふんふんと言いながらメモを取っていたのである。
(……藤兵衛さんって、時々よくわからなくなるのよね)
二人の空気に割って入る勇気がない凛は、お茶を部屋の入口に置くとその場から静かに離れるのであった。
つづく




