(五)えれキテル! 平賀源内・その二 からくり人形『花子』
「いや~、恥ずかしいところを見られたでおじゃるな。どうやら、構造がイマイチだったようでおじゃる」
このおじゃる言葉のおっさんが平賀源内であり、この屋敷に一人で住んでいるようだった。
「せっかくのお客さんじゃ。お茶でも飲んでいってくれでおじゃる」
と、源内がパンパンと手を叩くと、隣の部屋から女の子の姿形をしたからくり人形が、茶碗を持ってトコトコと歩いてきた。
「おぉ、凄い」
藤兵衛は素直に感心するが、凛は若干身構える。からくり人形は藤兵衛の前まで進むと、動作を変えて茶碗を床に置く。が、茶碗を覗き込むと中身は何もなかった。
(あれ?)
と思った瞬間、からくり人形は口を開け、更に白目を剥いてまるでゲ●を吐くような感じで、ドボドボと置いた茶碗に液体を注ぎ始めた。このとんでもない動きに、藤兵衛と凛は思わずずっこける。
「さ、さ、遠慮せず飲んでくれでおじゃる」
源内は勧めてくるが、淹れ方があれだったのであまり美味しそうに見えない。
「あ、いやその、どうぞ凛さん」
「いやいや、藤兵衛さんこそどうぞ!」
二人は暫しの間譲り合い、というより押し付け合うのだった。
結局、お茶は藤兵衛が責任を持って飲む羽目になったのだが、一口啜ってみたところはっきり言って不味かった。
(なんか微妙に酸っぱいな…… まさか本物の●ロじゃないだろうな)
青い顔をして飲む藤兵衛を横目に、凛はお使いで頼まれた風呂敷を源内へ差し出す。
「はいこれ、源内さん。お梅さんから預かってきました」
「お~、手に入ったのでおじゃるか! いや~、助かったでおじゃる。お梅さんはなかなか手に入りにくいものも仕入れてくれるから、助かるでおじゃるよ。 やっと、これで……」
源内は風呂敷の中身を見て初めは笑顔だったが、次第に顔を曇らせ、ついには大きなため息をつく。
「あの…… どうかしたんですか?」
凛が知っている源内はハチャメチャだがとにかく陽気な人柄であった。そんな人柄の源内がため息をついたことが、少し気になった。
「実は…… 花子のことで悩みがあってのう」
そう切り出すと、源内は先程のお茶を淹れたからくり人形を膝の上に乗せた。花子と言うのは、このからくり人形の名前らしかった。
「花子はこの通り、非常に良く出来た可愛い子でおじゃる」
ここで「のう、花子?」と人形に話しかけ、「うん」と今度は裏声で答え、一人芝居を始める。
「「…………(汗)」」
それを見た二人は微妙な表情をする。
「それだけに、花子に目を付けた輩がいるのでおじゃる。初めのうちは金を払うから売ってくれ、と言われたのおじゃるが、拙者は幾ら大金を積まれても譲るつもりはない、と突っぱねていたのでおじゃる。そしたら、今度は力ずくで奪い取ろうとしてきてのう、今朝方も家の周りを変な奴らがうろついていたでおじゃる」
源内は屋敷の外に目を向ける。そういえば家の周りに厳つい顔をした男がうろついていたことを、藤兵衛は思い出した。
「きっとあいつらは、隙あらば花子を盗み出そうとしているのでおじゃる」
ここでまた「怖いでおじゃるか? 花子?」と話しかけ、裏声で「うん、花子、怖い」と返す。
「お陰で拙者はこのところ、満足に外出も出来ないのでおじゃる。花子も外に出してやりたいのでおじゃるが、外だといつ襲われるかわからないでおじゃるからのう。……花子も外に出たいでおじゃろう? ……よしよし、わかっているでおじゃるよ。もう少しの辛抱でおじゃるからの」
最後には笑顔で人形に話しかけ、頬ずりまでした。それを見た凛は、うぞぞぞと鳥肌が立った。
話を聞いた藤兵衛は、
「高く買ってくれるなら、いっそ売り払ってまた作ればいいのでは?」
と、疑問を口にすると、凛もうんうんと同調する。すると源内は、
「とんでもないでおじゃる! 花子はもう拙者の家族同然、いや、それ以上の存在なのでおじゃる! 花子のいない人生なんて考えられないでおじゃる!」
叫ぶように言い、花子をぎゅっと抱きしめる。
「なので、誰か花子を守ってくれる人がいないかと、お梅さんに注文のついでに相談してみたのでおじゃる。そしたら、『丁度いいのがいる。そのうち使いに出すから』と返事が返ってきたのでおじゃるが、こうしてお主が来てくれた、という訳でおじゃる」
ここまで話を聞いて、藤兵衛は合点がいった。
(ああ、なるほどね。あの婆さんがただのお使いに出す訳ないと思ったら、こういうことか)
「お主は見たところ、腕っぷしも強そうでおじゃるし…… ということで、暫く花子を預かってくれでおじゃる」
「え? 預かる?」
「当然でおじゃる。拙者は色々と片付けないといけない用事があるのでおじゃる。まさか、ずっと家に貼り付いてもらう訳にもいかないでおじゃろう?」
「まあ、たしかに……」
「それなら、預かってもらった方が安心でおじゃる!」
と、半ば強引に花子を押し付けられたのだった。
(花子のいない人生は考えられないんじゃなかったか?)
そう藤兵衛は思ったが、この変わり者に言っても通じないだろうと、口をつぐむ。
「でも、言っておくでおじゃるが、花子が可愛いからって、変な真似はするなでおじゃるよ!」
「……しません(誰が、人形相手に変なことするか!)」
源内の注意に、心の中でツッコむ藤兵衛であった。
つづく




