(四)昔の女!? ひさ子現る・その九 ミッション・コンプリート
死闘(多分)をくぐり抜けた三人は、ついに将軍の寝室付近までたどり着く。
「まさか、将軍様のお部屋にあるだなんてね」
「そうだな」
ここまで来ると、藤兵衛と凛も目的のお宝が将軍の寝室にあることを理解する。廊下の角から眺めると寝室の前には宿直番が控えていた。さすがに勤務態度は真面目で、警戒を怠ってはいなかった。
その様子を見たひさ子は、藤兵衛にささやく。
「藤、『イ』の香を」
藤兵衛は抱えていた荷物の中から小さな袋と水筒を取り出し、ひさ子へ渡す。そしてひさ子は懐から香炉のようなものを取り出すと、先程受け取った袋ごと水と一緒に香炉へと入れた。
すると香炉からたちまち煙が噴き出す。それを床に置くと袖を振って宿直番の方へ煙を追いやった。暫く待つと、煙の効果なのか宿直番はたちまち眠りに落ちていった。
「は~~」
「さすが、薬の腕前は相変わらずだな」
凛が感心すると、藤兵衛も同じような反応をする。
「凛、こいつは薬に関しては医者顔負けだ」
「そ、そうなの!?」
ひさ子も満更ではないという顔をする。
「ふふ。薬なら色々作れるわよ。眠り薬に、記憶を飛ばす薬、……しびれ薬や毒薬だってね」
「ど、毒薬……」
ごくりと唾を飲み込む凛。
「そうよ。あと、他にはえっちな気持ちになる薬だって作れるわ。……もし、必要になったら言ってね。格安で譲ってあげるわ」
「……遠慮しときます」
素直に感心した自分が馬鹿だったと思い直し、凛は丁重にお断りする。
こうして宿直番の眠り具合を確認した後、三人は寝室へ忍び込んだのだった。幸い将軍は不在のようで、布団はもぬけの空だった。
「……この事も、事前に調査済みなのか?」
「当然。今頃将軍は大奥で頑張ってる最中よ。巳の日は、千代っていう娘がお相手するらしいわ」
「「……あっそ」」
ひさ子のマル秘情報をさらっと受け流し、藤兵衛と凛は目的のお宝を探し始める。
(そういえば、お宝の取り戻しが目的だったわね。……ま、この文鎮でいいわ。それなりの物だし)
二人にはうその情報を入れていたことを思い出したひさ子。辻褄を合わせるため、きれいな石が飾られた文鎮を取り上げて二人に見せた。
「目的のお宝は見つけたわ。……せっかくだし、紙になんか書いていかない?」
そして、手箱を開け本来の目的にさりげなく誘導する。
「紙に?」
「そ。こんな機会なんて、滅多にあるもんじゃないわ。記念ってことね」
この提案に藤兵衛と凛は顔を見合わせ、やがて乗り気になった。
「え~と。……それじゃ、『何か御入用のものがありましたら、ぜひ、<よろづやいろは>へ!』は、どうかな?」
「却下」
「わざわざ、身元バラしてどうすんだ」
すぐに二人にダメ出しされ、凛は少々凹む。
「やっぱ、こういうのは藤よね」
と、藤兵衛に無茶振りし、筆を手渡した。
「お、俺!?」
戸惑ったがせっかくの機会だからと思い直し、何を書こうかと考え始める。
(う~ん、『お庭番衆の公演面白かったです』はどうだろう? ……でもこれだと、警備体制を小馬鹿にしてる感じがするな。 ……うん?)
ふと見ると、ひさ子と凛がこちらに視線を向けていた。凛は前回の迷子石の一件から、
(きっと学のあるものを書くんだろうな?)
と、期待と尊敬の眼差しで見つめている。一方のひさ子は、
(ちゃんとゴール決めろよ?)
という上から目線をしていた。
(な、なんだ!? この謎の重圧は!?)
二人の期待に応えねばと考えるが、あせればあせるほどネタが浮かばず、変な汗まで出てくる始末。
(どうする!? 『いいねまたは好評価よろしく』とでも書くか!?)
混乱したあげく、最終的に書いたものは、
『江戸はえーどー』
という、しょうもない駄洒落だった。
「つまんない」
「藤…… あなた、ホント、変わったわね」
案の上凛からはダメ出しをされ、ひさ子からも微妙な言い方をされてしまう。重圧に負けた藤兵衛は、がっくりと肩を落としたのであった。
つづく




