(三)あの人のことが知りたくて・その三 お祝いの帰り道
遅まきながら初仕事の成功を祝おうと、お昼は外食することにした。
何か食べたいものはあるかと尋ねると、
「寿司!」
と、力強い答えが返ってくる。
観光案内の時も与兵衛寿司という店に行ったが、寿司が好物らしい。せっかくだからと値が張る店に行き、幸福感いっぱいでの帰り道のこと。
川沿いの通りにさしかかると幼い女の子が一人、道の脇でしゃがみこんでいた。井桁の縞模様の着物に桜色の帯が一つ結びと、裕福な家の娘と思われる。凛は様子が気になり、さりげなく女の子に声をかけた。
「どうしたの? 一人?」
すると女の子は顔を上げ、
「あのね、お父ちゃんと出かけてたらね、お父ちゃんいなくなっちゃって」
と、たちまち目に涙を溜める。
「そうなんだ。……ねえ、どこから来たの?」
「よぐ…… わかんない」
すぐにしゃくりあげるように泣き出してしまった。
「そっか、わかんないか」
凛は優しく語りかけ、女の子を抱き寄せてよしよしとあやし始める。
「藤兵衛さん…… どうやらこの子、迷子みたいね」
凛は困った顔をした。
今の時代と違い、江戸の街は標識や案内地図などが多くある訳では無い。そのため迷いやすく、幼子の迷子はよく発生したらしい。実は藤兵衛も江戸に戻ってきたばかりの頃は、何度か迷いかけた経験がある。
「でも、どうする? この子の親も探してるかもしれないだろ? 行き違いになるかもしれないし、放っておいた方がいいんじゃないのか?」
「駄目よ。人さらいがさらっていく場合だってあるんだから。……よし! この子の親を見つけてあげましょう!」
こうなったら止まらない事がわかってきた藤兵衛は、大人しく従う。
しかし、女の子の言うことは要領を得ずあっちへこっちへと歩き回ったが、とうとう見つからず夕暮れになってしまった。
「あちゃ~、結局わからずじまいか…… しょうがない。この子はお店で預かることにするわ」
「大丈夫なのか?」
「平気平気、お梅さん、ああ見えて子供には優しいから」
こうして女の子はいろはで預かり、仕事の合間に捜すことしたのだった。
つづく




