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(二)コンビ初仕事・その二 いろは三人娘

■この部分からの登場人物

・えり、せり、(らん):凛の同僚で、「いろは」の従業員。

 お梅婆さんの話を聞いた藤兵衛はずっこけた。


「変態って、どういう事ですか! そりゃ女性は普通に好きですが、上はせいぜい五十ですよ!」


「大して変わらんじゃないか! ま、とにかくそんな事があったのさ。だからあんたが言う百の善行ってのは、あの娘の考えた嘘さね」


 お梅婆さんは、さも可笑しそうに話す。


「……随分、ご機嫌じゃないですか」


「そう見えるかい? 何だか自分の若い頃に似てると思ってねぇ。ま、あれくらいの年は怖いものなんてないもんさ」


「え"?」


(凛とこの婆さんが似てる? じゃあ、あいつもいずれはこんな感じに……)


 そんな想像をして、ぞっとしてしまった。


「あんた、今なんか失礼な事考えてなかったかい?」


「いえいえいえいえ、そんな滅相もない!」


 図星を指され、必死に否定する。


「まあいいや。それはそうと藤兵衛。前にも言った『符号』はもう考えたかい?」


「へ? そんな、富豪だなんて。今は生活するだけでカツカツですよ。もう少し賃金をはずんでくれないと」


「あほ! 誰が金持ちの話なんてした。合言葉のことだよ!」


「ああ、そっちですか。いえ、まだですが何で?」


 勘違いをアホ呼ばわりされても、藤兵衛は全く気にする様子はない。


「あの件は依頼人を直接向かわせるって言っただろ。依頼人が本物かどうかを確かめるために使うのさ」


「ああ、なるほど…… え!? ちょっと待ってくださいよ。受けるって言ってないですよね?」


 ここでお梅婆さんはにいっと笑った。


「な~に言ってんだい。百の善行をするんだろ? あと、九十九あるじゃないか。ま、頑張って励みな」


 そして、この件は終わりだとばかりに一服し始める。


(いやいや、それ俺が言った訳じゃないから)


 心の中で思ったが、何となく断れなさそうな雰囲気だったので、


「わかりましたよ、後で考えます……」


と答え、小さくため息をつくのであった。



 ◇



 その頃話題にのぼっていた少女、凛は『よろづや・いろは』で後片付けをしていた。

 藤兵衛の裏稼業の押しかけ助手にはなったが、本業はあくまで『いろは』の住み込み従業員である。


「り~~ん、み・た・わ・よ」


 机を拭いていると、後ろから声をかけられた。

 振り返ると、そこには矢絣(やがすり)の文様が入った小袖に紺色の(はかま)という、凛と同じ恰好をした娘が三人立っていた。

 ちなみにこれは店の制服で、お梅婆さんの趣味である。


「あの人だったのね、あなたの逢瀬(おうせ)の相手は。ちょっと変わった風体だけど、顔立ちはなかなかじゃない」


「ね、ね、どこで知り合ったのよ。向こうから声かけてきたの?」


「…………」


 三者三様の彼女達は『いろは』で働く同僚であり、絡むような口調は『えり』、食いつきがいいのは『せり』、無口なのは『(らん)』という名前である。


「あ、見たの? ……って、逢瀬なんかじゃなくて江戸の町を案内してただけ!」


 凛は手を休めずに答える。


「むきになって否定するところがますます怪しいわね。 ま、いいわ。 凛、最近元気になってきたよね」


「そうそう! なんかお父さんの事があってから、ずっと思い詰めた顔してたから…… 心配してたんだよ」


「…………」


 蘭は何も言わずにコクコクと首を縦に振る。どうやら心配していたのは一緒らしい。


「ごめんね、心配かけて。色々あったけど、全部上手く片付いたから」


(あなた達が話題にしてきた藤兵衛さんに助けられ、しかもその人は白光鬼というかつての凶悪犯だったんです)


 なんて事は言えないので、そこは黙っておく。


「なら、いいんだけど」


「でもさ、最近凛ちゃん朝方になるとどっか出かけるよね。もしかして……」


「あのね、勘違いしないでね! 私は今、藤兵衛さんと一緒に仕事してるの! 傘張り仕事の面倒見に行ってるだけだから!」


 せりの言葉に反応し、凛はついつい言う必要のない事までしゃべってしまった。


「ふ~~ん。あの人、藤兵衛って言うのね」


「私、あの人のところって一言も言ってないからね。でも、やっぱそうなんだ」


「あ……」


 自分の失言に気付き、凛は固まってしまう。


「……通い妻」


「「きゃ~~!」」


 蘭の一言にえりとせりが反応し、三人できゃっきゃと騒ぎだした。これにはいい加減、凛も堪忍袋の緒が切れる。


「あんたたち…… いい加減にしなさいよ」


 懐からおやつに取っておいたリンゴを取り出すと、無表情のまま片手でブシュッと握りつぶしてしまう。


「「「…………(汗)」」」


 三人娘はからかい過ぎたと気づき、


「「「すんませんでした!!」」」


と、急ぎ謝るのだった。


つづく

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