白魔術師ちゃんを推します!!
白魔術師のサラと申します。回復と補助呪文しか取り柄のない私ですが、光栄にも勇者さんのパーティに加えていただいたんですが、最近悩みがありまして。
「良いよ!!良い回復だよ!!サラたん可愛いよ!!」
・・・最近、私のことを推してるとか言う、剣士のギルバートさんに付き纏われて辟易してるんです。
ことの発端は3ヶ月前のことです。私が訪れた町を散歩して歩いていると。
「茶髪の巻き毛、眼鏡の奥のつぶらな瞳、控えめな胸、君はなんて綺麗なんだ!!」
偶然すれ違った金髪の剣士ギルバートさんは、そう言って私の右手を両手で掴んできました。胸のことは気にしてるのに・・・。
「これから君のことを推させてもらうよ!!」
「や、やめて下さい。」
それからギルバートさんは、私達勇者パーティの行くところに出現し、少し離れた所からジーッとコチラを見てきて、戦闘中は大声で私のことを応援してきて、それには私だけではなく、他のパーティの三人の仲間まで迷惑がってます。
「また来たよアイツ。」
「最早ストーカーよね。」
魔法使いのマリさん、格闘家のミヤビさんも気持ち悪がり、ギルバートさんを見つけるたびに気持ち悪がってます。
「サラ、すまない。ギルバートさんにこの場から居なくなるように行ってきてくれないか?あー見られていると戦闘に集中出来ない。」
勇者のカイルさんが困った顔で優しく私にそう言います。本当に申し訳ないです。
私は急いでギルバートさんの元に駆け寄りました。
「ギルバートさん!!いい加減にしてください!!」
「お、推しが俺の元に来てくれた!!幸せ過ぎる!!」
「別に来たくて来たわけじゃありません!!」
「ツンデレか・・・たまらん♪」
話にならない。大体どうして私のことなんか好いてくれるんだろう?こんなに地味なのに。
「今日はサラちゃんの為に新しい杖をプレゼントしに来たんだよ♪」
「入りません・・・ってそれロンギヌスの杖じゃないですか!?滅多に市場に出回らないレアアイテムなのに、どうしてギルバートさんがそれを!!」
「エヘヘ♪知り合いのツテでね。でも全然気にしないで良いから。使って使って♪」
「えっ?ちょっと!!」
結局押し切られて杖を押し付けられてしまった。私のレベルじゃこんな杖扱いきれないよ。
それから数日後、私達、勇者パーティはツインベッドサーペントを倒す為、ダゴダ砂漠にやって来ました。
今の私達のレベルなら倒せる相手だと思っていました。予想通りツインベッドサーペントは順調にダメージを与えて、もう少しで倒せると思ったその時・・・アレが空から舞い降りたんです。
舞い降りたそれはツインベッドサーペントをトドメを与え、捕食を始めました。
「グルルルル・・・。」
「こ、黒竜!?」
「なんでこんなところに!!」
世界各地に厄災をもたらすとされる巨大な黒竜。それが我々の前に現れました。パーティの皆が慌てふためき、私も怖くて体の震えが止まりません。
本物なら私達のレベルじゃ勝てるわけありません。皆殺しにされてしまうでしょう。普通のパーティならこの場から逃げることも許されるでしょうが、私達は勇者パーティ、逃げることは許されません。
「み、皆!!怯まず戦うぞ!!」
勇者様は私達を鼓舞しますが、私達の戦意は上がりません。勝てるイメージが全然湧いてこないんです。
案の定、私達は呆気なく蹴散らされました。勇者さんもマリさんとミヤビさんも気絶してしまい、後衛にいた私だけが、まだ意識が残ってるのは私だけ。でも魔法力も尽きて皆を回復させることも出来ません。もう腰が抜けて立てもしませんし、要するに一巻の終わりってことです。
あぁ、死ぬ前に美味しいケーキ食べたかったな。
「ガァアアアアアア!!」
あっ、これは私が食べられちゃうかもですね。
「おいおい、俺が推しへのプレゼント買ってる間に大変なことになってるじゃん。」
私の後ろから声がしたので、振り向くとそこにはギルバートさんの姿が、こんなとこまでやって来るなんて、本当に馬鹿なんでしょうか?
「ギ、ギルバートさん!!逃げてください!!」
「いやいや、推しのピンチ逃げるなんて、そんなことは出来ないな。はい、これ、プレゼントの有名店のチーズケーキ。」
「あっ、どうも・・・じゃなくて!!逃げて下さい!!」
「サラたん、見ていてください。俺のちょっとかっこいいところ。」
チャキっと腰の剣を鞘から抜いて、両手で構えるギルバートさん。本当に一人で戦うつもりでしょうか?こんなのは勇気じゃなくて無謀です。自殺行為です。
「ガァアアアアアア!!」
「騒ぐな、トカゲ野郎。俺の推しを怖がらせたお前は万死に値する。死にさらせ。」
ドシドシと走り始め、突っ込んでくる黒竜。それに臆することもなく、ギルバートさんは剣を振り上げました。
そしてそのまま・・・。
"ザンッ!!"
剣を振り下ろしたギルバートさん。私はその程度で黒竜にダメージが入るとは思いませんでした。けれど、私の目に驚くべき光景が映り込んで来ました。黒竜の体が縦に上下にズレるように真っ二つになり、2つに別れた肉塊がズシーン、ズシーンと倒れました。
「よし、細切れにしてやってもいいが、周りが汚れるし。このぐらいにしといてやろう。」
チャキッと剣を鞘に収めるギルバートさん。この人こんなに強かったんだ。一人で黒竜を倒すなんて人間技じゃない。
「サラたん♪怪我無かった♪」
アホ面下げて近寄ってくるギルバートさん、こんなにフニャフニャしてる人が黒竜を真っ二つにしたなんて信じられない。
「ギ、ギルバートさん、アナタ一体何者なんですか?」
「俺?俺はしがないソロの冒険者さ。世界3周ぐらいはしたけどね。」
「3週!?一人で!?」
氷山地帯も火山地帯も暗黒地帯にも一人じゃ倒せないような魔物がゴロゴロいるのに。けど黒竜を倒すような人です。本当に世界3週ぐらいしててもおかしくないかも。
「でも今はサラたんに夢中だから一人旅はお休み中さ♪」
「そ、そうですか。」
こんなにメチャクチャ強い人が、私のために活動制限されてるなんて恐縮すぎる。
「あ、あの・・・助けて頂いたお礼に私なんでもします。」
「な、なんでも!?」
しまった・・・なんでもとか言っちゃった。エッチな要求されたらどうしよう?
「なんでも良いんですか!?」
「えっ、あの、その・・・」
「なんでも行きまーす!!」
「ちょっとぉ!!」
ギルバートさんに回復アイテムを譲渡してもらって、パーティの皆を回復させてから、ギルバートさんの要求が始まりました。
「握手一分お願いしやす!!ずっとファンでした!!」
「えっと、あの、知ってます。」
命を助けてもらったら、まさかの握手一分でお喋りするだけという要求で済みました。
ギルバートさんは本当によくわからない人ですが、この人が後ろで見守ってくれてると思うと心強いです。
「サラたんはCDデビューしないの?」
「しません。」